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一方、その頃。屋上では。
エル・クレシアが膝を抱えながら座っていた。
「はぁ……」
思わず溜息が漏れる。
(悠ちゃんはもう、相手決まったんだ)
エルは、階下の空き教室で二人が話してるのを聞いていた。
カナデがパートナーの相手を頼み、悠子はそれに応じた。
その場面を偶然、エルは目撃していた。
頭では悠子が受け入れるのは当然のように分かっていた。
というのも、彼女もまた悠子同様に相手探しに苦労しているからである。
剣技科の生徒ではエルと組みたいなんて物好きは、ほとんどいないだろう。
剣技と魔法の間に根付いた深い対立心のせいで、エルのパートナー探しも酷く難航していた。
だから、舞踏会の相手を頼まれるのは、同じような立場の悠子にとっては願ってもないことなのだろう。
ただ、そのことを頭では理解してるものの、感情まで同じになるとは限らない。
確かに彼女は頭の中では、理解も納得もしている。
しかし、心の底では理解も納得もしていなかった。
悠子が舞踏会の自分以外の相手と舞踏会に参加する様を思い浮かべると、胸中に鋭い痛みが走る。
なんか嫌だ、とエルは思う。
そんな自分でもよくわからないような複雑な感情のせいでエルは動揺し、空き教室の外に立てかけてあった看板を倒してしまった。
悠子が聞いた物音とは、これである。
(いいなあ)
とエルは思う。
(私も悠ちゃんと……)
悠子の手を取り、踊る自分の姿を妄想するも、すぐにそれを振り払うかのように頭を振った。
(ううん、こんなこと考えるだけ時間の無駄)
エルはパンパンと気合いを入れるかのように両頬を叩く。
(私も早く相手を見付けないと……でも、めんどくさいなあ)
補習の舞踏を受ける自分を想像し、思う
(補習、か。それもいいかもしれないね)
ごろんとそのまま大の字に寝転がり、
(どうせ、悠ちゃんとは組めないんだし)
すこし投げやり気味に考える。そして、
「どうして、仲良くできないんだろ」
まるで世界に問いかけるように零した。
それはこの学校の掲げる異端の理想そのものだ。
決してエルの口から出るような言葉では、いや、出してはいけないものだ。
(お友達と満足に過ごすこともできないような、こんな世界。いっそ、なくなってしまえばいいのにーー)
エルはそんな物騒なことを思いながらも目を閉じる。
瞼の裏に浮かぶのは、微笑む悠子。
(悠ちゃん……)
そして、そのままエルは、気づいた時にはすやすやと夢心地に旅立っていた。




