8
悠子は手を止め、声の方向を見る。
その先には悠子のクラスメイトが手招きしてる。
そして、その隣に見えるのは純白の制服。
しかし、それはドア影に隠れてしまい、顔までは確認できない。
(魔法科…? まさかあの子が)
悠子の脳裏に最悪な想像が過ぎる。
エルが堂々と自分を呼び出してるのではないか、と。そんな考えが脳裏を過ぎるも、悠子はそれを振り払うように否定する。
(…いいえ、それはないわね)
がたりと悠子は立ち上がる。
「ごめんなさい、美波さん。呼ばれてるみたいだから、ちょっと行ってくるわね」
「ふん、さっさと行けばいいじゃないですか」
しっしっと美波は手を振る。
「ええ、すぐ戻るわ」
「もうずっと戻ってこなくてもいいですよ」
と相変わらず毒々しい態度の美波。それに悠子は、笑って答える。
「ふふ、でも、その量ひとりで出来るのかしら?」
悠子は机の上の布地の束を指差す。
それは悠子と美波が任された仕事だ。このクラスの女子の人数分の制服作り。
悠子が戻らなければ、それを美波ひとりで担当することになるのだろう。
美波は青ざめ、悠子の制服の裾を掴む。
そして、懇願する様に言った。
「いいですか? 本当に絶対すぐ戻ってきてください! こんなの私一人では無理です」
「ふふ」
急変する美波の態度に悠子は思わず笑う。
(今日一日で仕上げることではないのだけどね)
というか今日一日で仕上げるのは不可能だ。
何日も文化祭の準備期間は設けられてる為、その期間内に終えればいいだけ。
今日このまま悠子が戻らなくても、何の支障も出ないだろう。
そのことに気付かない美波の反応が、とても面白い。
「ええ、用件だけ聞いたらすぐ戻るわ」
それだけ言い残し、悠子は教室の入口まで向かう。その途中、
「魔法科の生徒が神代さんに何の用だろうね」
「決闘かな?」
「いやいや、告白でしょ」
「それはないわ」
等という話し声がちらほら聞こえてくる。
(告白や決闘ね、それならまだ良いけど)
悠子の考えるそれは何も告白されたり決闘挑まれるのが嬉しいという意味ではない。
今、脳裏に浮かぶ最悪な想像(来たのがエル)に比べれば、まだいいというだけ。
まあ、結果としてそれは考え過ぎだった。
「あの、えっと、か、神代さん!」
その魔法科の生徒は、エルではない。よくよく考えれば当たり前のことだ。
流石のエルもそこら辺のことは弁えていた。
だけど、それでも「もしかして」という心配が拭えなかったのは、昨日の屋上での一件のせいなのだろう。
(よかった。それより)
悠子は安心したかのように、ほっと息を吐き、それに応対する。
「何かしら?」
「お、おおお話があります!」
顔を真っ赤にしながら少女は言う。
「話?」
「あのその、えっと、ここじゃ恥ずかしいので、場所を変えてもいいですか?」
おどおどもじもじと少女は身をくねらせる。
「別に構わないけど、ここでは出来ない話なの?」
「出来れば、ここではしたくないです」
「そう、わかったわ」
そのまま悠子は、その少女に連れられて、教室を後にした。




