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その翌日。
剣魔高校は賑わいの中にあった。
ギコギコと木材を切る音。
ガンガンと金槌で釘を打つ音。
ワイワイと木工作業中に余分な木材を振り回して遊ぶ男子の声。
キャッキャッと服飾を作る女生徒の談笑。
販売する料理を試行錯誤するための話し声。
それは文化祭の準備による賑わいだった。
文化祭とは、生徒にとっては当日よりもその準備の方が楽しかったりするものである。
各々が考えたことを形にする作業。
例えるならオリジナル絵を描くのが一番楽しいのは創造意欲が多分に介在する下書きの段階だろう。
つまりはそういうことだ。
文化祭を形にする為の下書きの段階。要は準備段階が最も創作意欲が駆り立てられ、楽しい。
確かに完全後の絵には達成感こそあるものの、そこまで盛り上がることはない。
いや、自分の想定以上の力作が描けたならそれはそれで楽しいけれど、それはあくまでも満足感による面白さだ。
純粋に時間を忘れて盛り上がれるような楽しさではないだろう(まあ、中には完全した自分のオリジナル絵を時間を忘れて眺め続けることができるような人もいるんだろうけど、そんなのは少数派だ。無論、ダメな所を見直す為に絵を見返すひとは多いが、それはあくまでも次の絵の為の準備作業である)。
そんな喧騒の渦中に、神代悠子はいた。
ちくちくと布に針を通し、それを縫っている。
悠子のクラスの出し物は喫茶店だ。
彼女は今その喫茶店のウェイトレスが着るための制服を作っている。とても慣れた手付きだ。
「うわぁ、神代さん、上手いですね。こういう無駄なことまで得意なんですか?」
隣に座る女生徒が悠子の手捌きを横目に見ながら、毒気混じりに感心する。
「いいえ、別に得意ではないわ」
そう否定する悠子に、隣の女生徒はくすりと笑う。
「あー、いますよね、出来るのに出来ないと言い張るような嫌みったらしーひと。しねばいいのに」
と毒づく彼女を横目に見て、悠子は少し困った様に言う。
「今日はいつも以上に突っかかってくるけど、言いたい事があるのならハッキリと言いなさい」
「別に、そんなものはないですよ」
ぷいっと頬を膨らませ、不満気に顔を背けるその女生徒の名は、美波だ。
悠子のクラスメイトで、エルを除けば唯一彼女と対等に話し、接する女生徒だ。
友達というには互いのことを知らな過ぎるものの、まあまあ仲の良い隣人である。
「もしかして、まだ怒ってる?」
ぴくりと美波の肩が跳ねた。
心なしか額に青筋が浮かんでるように見える。
「ははっ、ほんっとに自意識過剰なひとですね。私は隣のアホ女の居眠りのせいで、先生のチョーク乱打に巻き込まれた程度では怒ったりしませんよー」
にこりと美波は微笑む。
一見、穏和そうにも見える優しげな微笑だけど、その表情とは裏腹に言葉の端々には棘がある。やはり怒ってるのだろう。
悠子はとりあえず本日何度目かの謝罪をする。
「昨日は私のせいでチョーク塗れにして、本当ごめんなさい」
「ふふっ、だから怒ってないですって」
不機嫌そうに、だけどどこか愉快そうに布に針を入れる美波の横顔に、悠子は思う。
もう放っておこう、と。
そもそも本当に怒ってるのなら、美波の性格上、悠子の隣で作業するようなことはしないだろう。
悠子はそんな風に楽観的に考え、自分の作業に集中する。
だけど、それは正しいことである。
悠子が制服作りの作業に戻ったことを横目に見ると美波は「ごほん」と咳払いをする。
「……」
それに悠子は何の反応も示さない。
美波は今度は二度ほど「ごほんごほん」と、さっきよりも大きく咳払う。
まだ悠子は作業に没頭している。
「はぁ…」
次は溜息だ。
まるで仕事に追われる主人に、構ってほしそうに目を潤ませる犬のようである。
悠子が美波の怒りを放っておこうと思った理由がそこにある。
彼女は定期的に、悠子に挑発的な態度を取る。
最初こそは戸惑ったものの半年間も一緒に居れば、何となく扱い方は分かってくるものだ。
今回みたいな怒ったような態度の時は、少し距離を置くのがいい(勿論、本当に怒ってるかどうかの確認は必要だけど)。
そうすれば、大人しくなる。そして、その後いつものように。
「あ、美波さん、そこにあるハサミを取ってくれない」
こうして話しかければ、
「あ、し、しかたないですね。はいこれ、貸してあげます」
「ふふ、ありがと」
満面の笑顔を返してくれる。
正直めんどくさいけど、とても単純である。
「何を笑ってるんですか! 私まだ怒ってるんですからね!」
「はいはい、ごめんなさい」
「もう、なんなんですか、その態度は」
そんな風に美波と話してる時に、教室の入口の方から悠子を呼ぶ声が飛んでくる。
「神代さーん! 魔法科の子が呼んでるよー」




