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そんな風に軽口を叩きあった後、こてんとエルは悠子に全てを委ねるようにもたれかかる。
ふわふわの猫のように柔らかい白銀の髪が悠子の頬に触れ、少しくすぐったい。
しかし、それは不快ではなく、むしろ猫に頬擦りされてるかのように心地が良かった。
エル同様。
悠子の心にも、もっとエルと一緒に過ごしたいという気持ちは確かにある。
会えるのは限られた時間だけ。
本当はもっと一緒に居たい。
悠子もエルと同じに思ってるからこそ、こうして彼女に求められるのは、とっても嬉しいことだった。
「ねえ、悠ちゃん」
エルは悠子の肩に頭を預けながら、心底幸福そうに笑う。
「今日先生に怒られてたね」
「…見てたの?」
エルは頷き、続ける。
「うん。 どうして怒られてたの?」
「授業中に、少し寝てしまったのよ」
悠子は苦笑混じりに答えた。
「あなたと出会った時の夢を見たわ」
悠子も同様、エルに身を委ねるようにもたれかかる。
「あれからもう半年ね」
その言葉を、エルは否定する。
「ううん、初めて出会ったのは10年前のあの時だよ」
「…そうね、ふふ、そうだったわね」
悠子は目を閉じ、隣の少女の温もりだけに意識を集中させる。
とても温かい。
彼女と過ごす時間はとても有意義だ。
心が満たされていくような穏やかなら気持ちになる。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに、と悠子は思う。
すると、
エルは何かを思い出したかのように「あ!」と声を上げた。
「そうだ! 私ね、悠ちゃんに聞きたいことがあったんだ」
静謐な空気を壊すようにエルは悠子に迫る。
それに対し、悠子は嘆息混じりで問う。
「なに?」
「悠ちゃんのクラスは文化祭なにやるの?」
「文化祭?」
悠子は首を傾げる。
「うんっ!」とエルは大きく頷き、悠子の腕をぎゅっと抱きしめ、言葉を続ける。
「私のクラスではね、お化け屋敷に決まったよ」
にこにこと満面の笑顔のエルは、心の底から楽しそうに話していた。
背の違いからか必然的にエルは、上目に悠子を見上げる形になる。
これが初めての文化祭だからだろうか。
目を輝かせていた。
(そんなに文化祭が楽しみなのかしら)
そう想像する悠子に、エルは別の事を思っていた。
(悠ちゃんとの文化祭!)
エルの思っていたことは、結局悠子のことだった。
エルは文化祭という行事が楽しみというわけではなく、悠子と一緒に迎える文化祭が楽しみだったのである。
無論、一緒に過ごせる可能性は限りなくゼロに近いものの、それでも普通の友達みたいに文化祭の話で盛り上がることは出来る。
エルは、それを楽しみにしていただけなのである。
エルはさらに言葉を続ける。
「悠ちゃんのクラスは、まだ決まってないの?」
悠子は否定の意を込めて首を横に振る。
「いいえ、私のクラスは喫茶店をやることになったみたいね」
「えっ、悠ちゃんが喫茶店?」
悠子は「ええ」と興味なさげに、頷いた。
悠子も文化祭というものには、特に興味も関心もない。
ただ、それが学校行事だから仕方なく準備に協力してるだけで、内心では面倒に思っていた。
どうせ、エルとは一緒に回ることもできないのだ。
いや、それどころかその日は互いに忙しく会うことすら出来ないかもしれない。
それを思うだけで、悠子の気が重くなる。
「ふーん、悠ちゃんの接客姿、見たいかも!」
そういう悠子の内心を知らないエルは、目を煌めかせる。
まるで遠足前にはしゃぐ小学生のようだ。
そんな異常テンションのエルに、悠子は一つの事実を差し出した。
「残念だけど、私は裏方よ」
「ええー、なんでよ」
エルは不満げに言う。
「悠ちゃんなら接客のほうがーー」
それを遮り、悠子はきっぱりと断言した。
「無理ね」
「即答…、そんなに嫌なの?」
「ええ」
再びの即答。
余程嫌なのかもしれない。
「そっかあ、それは残念」
エルは心底残念そうに肩を落とす。
だけど嫌なことを無理強いするのは嫌なので、エルは半ば強引に自らを納得させて、次の話題に移行する。
今、彼女が「外では話さない」という暗黙の了解を無視してまで悠子の元まで来たのは、この話をするためでもあった。
「あ、そうだ! 悠ちゃんは後夜祭の舞踏の相手はもう決まった?」
それに、悠子は答える。
「まだ、決まってないわ」
「じゃ、じゃあ、悠ちゃん、私と一緒に…」
エルは少し躊躇いがちに言う。
それに悠子は首を横に振る。
「無理ね」
「…やっぱり、無理?」
その悠子の答えは想定してたことだけど、実際に断られると結構凹む。
「当たり前でしょう、後夜祭の舞踏会は私たちだけではないのよ?」
言い聞かせるような悠子の言葉に、エルはさらに肩を落とす。
剣魔高校の文化祭の夜に行われる舞踏会は、とても盛大なものだ。
大きな会場を貸し切り、全校生徒が参加し、その様子は一般公開される。
まるで文化祭が前座に思えるほどに規模が大きい。
そんな舞踏会だ。
そして、それは剣技科と魔法科で分かれることはなく、混合で行われる。
つまり剣技科の生徒は必ず魔法科の生徒をパートナーに指名しなくてはならず、魔法科の生徒も同様に剣技科の生徒を舞踏の相手に選ばないといけないのだ。
剣技と魔法の共存を掲げる剣魔高校らしい舞踏会なのである。
そんな大々的に行われる舞踏会で、仲良く話すことすらも禁じられてる二人が手を取り合い、舞踏に興じるのは、許されないことだろう。
「ごめんね、変なこと言って」
エルは悲しそうに笑う。そんな彼女を慰めるように悠子は言う。
「…エル、私も本心ではあなたと組みたいのよ」
悠子はエルの猫のように柔らかい白銀の髪を優しく撫でる。
「んっ、悠ちゃ……」
「エル、あなたに我慢ばかりを強いる私を」
悠子はエルを引き寄せ、まるでキスでもするかのようにこつんと額同士を合わせた。
「どうか許してちょうだい」
すぐ直前まで迫った悠子の顔に、エルの心臓の鼓動は激しくなる。睫毛が長く、目鼻立ちが整った顔。とても綺麗だ。
「あの、えっと、…うん」
エルは必死に平静を装いつつも俯くように小さく頷いた。その頬は、赤く染まっていた。




