12
「あ、そうだ。それならーー!!」
エルは何かを思い出したように手を叩き、手を高く掲げて、
「この雑多な場所も変えちゃおっか」
にこっと笑う。
「え?ーー」
すると、その直後。それは始まった。
「なっ!?」
エルの掌に膨大な魔力が収束してるのが分かった。
それは見える程に密度が濃く、触れられる程の質量を備えている。
しかも、それだけではない。
常に改編痕を発生させ、辺りに撒き散らす。
改編痕は、魔法発動の痕跡なのに、何故か膨大な数の改編痕がエルの手の中から飛び散っていた。
それが意味するものはひとつ。
膨大な数の魔法が発動しているということだ。
どんな魔法が使われてるかまでは読み取れない。
それはひとつひとつが悠子にも見た事がないような、魔法だった。
その全てには固有の形状は持たずに、改編効果も不明。ただ、発動してるということ以外は、何も分からない。
そんな正体不明の魔法を前に悠子は思わず見蕩れてしまっていた。
(綺麗…)
それは今まで見たこともないような美しい魔法だった。
本来は魔法使いの魔法の色は、黒。
勿論、それが視覚化されてるわけではないものの、感覚的に漆黒の色を連想させる。それが普通の魔法だ。
しかし、エルの魔法はまるで正反対。
どこまでも汚れのない純白。何者にも汚されず、その全てを白く染め上げるような神々しいまでの純白の色を連想させた。
いつまでも見ていたいような幻想的な力の奔流を目の前に、少し蕩けた表情で悠子は問う。
「ねえ、エル。 ……場所を変えるってどこかに移動でもするの?」
それをエルは間髪いれずに否定した。
「ううん、この場所を変えるんだよ」
そして、力の奔流は徐々に大きくなっていき、それに呼応するかのように情報の渦は流れを変えた。
「…!」
この空間に満ちる無限の情報の渦は、手の平の純白の魔法に吸い寄せられるように、中心に押し寄せる。まるで氾濫した濁流のようだ。
(これは…)
悠子は目の前の光景に目を向け、そこで起きていることに思考を働かせる。
悠子は全ての探知能力、感知能力、認識能力を空間全域に広げ、それを見る。
(曖昧だったこの空間が、確たるものに固定されていく)
まるで水が氷結するかのように、それは形作られる。
「うん、そろそろかな」
空間の中心に無限の情報の奔流が圧縮し、凝縮され、互いにせめぎあっていた。一見、蕾のようにも見える、それはーー
「何を始めるつもり?」
「この空間はいらないものが多すぎる。 すこしだけ私たちが語らうのにお似合いの場所に作り変えるだけだよ」
いきなり花開く。真っ白で汚れのない百合のような花。それは空間の中央に咲き誇る。
「大丈夫、すぐ終わるから」
そして、エルは掲げた手を勢いよく振り下ろした。
すると、それが合図だったのだろう。
巨大な百合の花は弾けるように砕け散った。
空間を満たすほどの純白の百合の花弁が舞い上がる。それはとても幻想的で、とても神秘的な光景である。
「…本当に綺麗ね」
エルの魔力と同じ純白の花吹雪を眺め、悠子は言った。それは本心からの言葉だった。これほど目を奪われるような光景を悠子は、見たことがない。
そのまま大量に漂い、宙に舞う百合の花弁は、どんどん空間を満たしていき、その全てを純白に染め上げる。
そして、何もかもが白に変わった瞬間、それは来た。
まるで闇夜を照らす朝日のように東から西へと色が流れ込み、その姿を顕にした。
そこは一面に満開の百合が咲き誇り、その中心の広場には噴水がある。それはとても美しい百合の庭園だ。まるで世界が変わったようだと悠子は思う。
そんな美しい世界を紹介するようにエルは言う。
「どうかな? ここが私と悠ちゃんの。二人だけの百合の園だよ」




