11
「それじゃあ、エル。改めて…」
悠子は手を差し出す。
「これからよろしく」
エルは「うん!」と頷き、その手を握る。
悠子の大きい手のひらとは違い、彼女の手はとても小さく柔らかい。 どこまでも女の子らしい手だった。
「よろしくね、悠ちゃん!」
握った手を振り回し、エルは無邪気に笑う。
「ねえ、ひとついい?」
少し押され気味に悠子は、未だ過去のエルとの印象の違いに少し困惑しながらもその疑問を投げ掛ける。
「なーに?」
悠子にはずっと気になってたことがある。それは、
「その呼び方、なんとかならないの?」
あだ名のことである。
実を言うと悠子には今まで友達というものが一人もいなかった。
幼い頃からずっと自らの研鑽のみに励み、明け暮れてきた為、あだ名を付け合うような仲のいい友達は出来たことがない。
だからなのか、あだ名で呼ばれる度になんかむず痒い気分になる。
それは別に嫌というわけではないのだが、なんだか少し照れ臭い。
それに対して、エルは返す。
「あのね、実は私こういうのに憧れてたんだ」
エルは瞳を煌めかせる。
その言葉に悠子は首を傾げた。
「こういうの?」
「あだ名で呼ぶような関係!」
エルは答える。
「今まで、友達とかいなかったの?」
「うん! いなかったよ」
エルは即答した。
これには悠子も少し驚いた。
あれだけ話題に途切れることなく、話を続けることができるような彼女だ。
その気になれば、友達くらいいくらでも見つかるだろう。
すると、その考えを察したのかエルは「いらなかったからね」と笑う。
「それに」
エルは今までの全ての思いを凝縮し、その短い言葉の中に詰め込み、
「ずっと悠ちゃんのことだけを考えてきたから他は見えなかったんだ」
本心を吐露する。
「それは光栄ね」
悠子はふわりとエルの白銀の髪に触れ、優しく撫でる。
「ゆ、悠ちゃん?」
いきなりの事に困惑するエルを撫でながら悠子は微笑み、思い出したかのように言う。
「そろそろ入学式が始まる頃ね」
「ぇっ…?」
悠子は手を離し、それを見せた。
時計だ。魔力を源に製造された砂時計を模した形の、時計。
そこに記された時刻は、9時30分ーー。
それは入学式が始まる時刻だった。
それを見せた後、悠子は彼女に「どうする?」と尋ねた。
「そろそろ戻る? それとも……」
今からでも戻って入学式を受けるか、入学式が終わるまでここに居座るか。その選択をエルに委ねる。
そして、エルはそれに答える
「まだ話したいこともいっぱいあるし。 さぼっちゃおっか、入学式」
「ふふっ、それは素敵な提案ね」
悠子は笑い、壊れ物を扱うかのように優しい手付きで、エルの頭を撫で続ける。




