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行《い》ちゅんどー!テクノ・エイサー団!!

作者: 大城創

 平日のけだるい午後、「民謡で今日拝なびら」のオープニングが流れる。

「3月3日月曜日、沖縄ウチナークユミンナー2月4日にナトゥイビーン。ハイサイ今日チュウウガなびら、ナオです」

 琉球古典音楽、沖縄民俗芸能の知識を網羅したアンドロイドが作られ、RBCの名物ディレクターにちなんでナオと名づけられた。ディレクターが当の昔に引退した後はナオが放送を引き継いでいる。

「お昼のニュースをお届けします。担当は新垣新あらかきあらたアナウンサーです」

「お伝えします。沖縄県知事選挙まで後1週間。知事選に出馬する3名の公開討論会が昨日那覇市民会館大ホールで行われました。知事選挙の焦点の一つ、基地問題について、3者の意見が分かれました。最新鋭小型戦闘機、通称『ミニドラゴン』の配備を基地の機能強化につながる物として絶対反対の立場をとる天願氏、配備することによって滑走路が短くなるから、これにより基地の面積を半分にするよう日本政府に働きかけるべきとする久高氏、面積ではなく整理統合して基地の数を半分にするべきと主張する野村氏とで激論を交わしました。県民の歴史的な審判がもうすぐ下されます。

次にMRBC、火星琉球放送からのニュースです。火星暦の8月22日、第7回MRBCグッド・サウンズ・コンテストの決勝が行われました。司会はムムトさんです」

 MRBC、火星琉球放送は沖縄から火星への移住が始まってすぐに設立された。移住者は地形や気候が沖縄に似ている場所を選んで、沖縄コロニーを作った。

 移住者は歌や踊りに憩いを求めたので芸能関係の従事者も多い。MRBCグッド・サウンズ・コンテスト、略称GSCは新人バンドの登竜門として名高い。

 ムムトが決勝のエントリーを読み上げる。「第7回MRBCグッド・サウンズ・コンテストの決勝にエントリーしたのは、4人組のバンド、シムーン。三線サンシンの独奏、奥武島満おうじまみつる。3人組の女性バンド、シロップ。女性デュオのふわふわ。5人組のバンド、ペンタグラム。以上5組じゃ」

 ムムトの正式名称はムムト・フミアガイ。ナオと同様、琉球古典音楽や沖縄民俗芸能の知識を網羅した女性型アンドロイドである。

 ドラムロールが場の興奮を盛り上げる。

「第7回MRBCグッド・サウンズ・コンテストの優勝者は」

 ファンファーレが鳴り響く。

「ペンタグラム!」

 拍手と歓声が会場を包みこんだ。


 グッド・サウンズ・コンテストから1週間が過ぎた。

 火星の一日は1ソルと言う単位で、地球上で24時間37分である。1秒間を地球時間よりも広げて24時間で生活している。1年は668ソルで24の月に分かれる。うるう年は20年に11回の割合である。火星に移住船が降り立った日を元年元日に定めた。成人式は地球上で18歳になる10歳の誕生日を迎えた者が行う。3月4日の『三線サンシンの日』のイベントは、地球と火星で別々に行われている。

 シムーンのメンバー、赤嶺轟あかみねごうはパン工場でバイトをしていた。

 ごうは倉庫に荷物を運ぶため、事務所に運搬用ロボットの鍵を取りに行った。

「赤嶺君、GSCはお疲れ様」

「ナビィ姉々《ねぇねぇ》もお疲れ様」

 シロップのメンバー、金城那美きんじょうなみも同じパン工場でバイトをしている。皆からナビィと呼ばれていた。

 パン工場ではロボットと人間が共に働いている。オーブン室に出入りするのは完全自律型ロボットである。荷物の積み下ろしは操縦型ロボットを使って行う。トーストにイラストを描いたりするのは人の手で行っている。

「次はもち粉を3トン、高良店に運ぶのか。ムチどぅタカラだな」

 午前中の作業が終了し、轟が昼食を取っていると作業服の袖部分のタグが光った。工場から個人宛のメッセージが表示された」

「『お昼が終わったら事務所に来てください、』か。何だろう」


 轟が事務所に着くとGSCの司会者のムムトが来ていた。

「ムムトさん、今日こんにちは」

「GSCはお疲れ様じゃった」

 ムムトは若い女性の姿格好をしている。額から目の部分が真っ黒な平面ディスプレイになっているため、表情を捉えるのは難しかった。

「轟君のバンドは解散するそうじゃな」

「はい」

「実はGSCが終わったあと、プロデューサーの命を受けて、バンドを解散した者を集めているのじゃ。新しい音楽を作るために」

「新しい音楽・・・ですか?」

「ここのM16倉庫に何が入っているか知ってるかな」

「いいえ」

「あそこには新機種が登場して時代遅れになった警備ロボが放り込まれている。パン会社の社長さんから、ただ廃棄処分にするのも勿体無いから、何か使い道は無いかとプロデューサーが相談を受けたのじゃ。模合の席でな」

「はい」

「プロデューサーはロボットにダンスのプログラムを入力して、ロボットダンサーズにすることを提案した。社長さんも面白がって、プロジェクトが開始したのじゃ。赤嶺君をリーダーとして、バンドをやってもらえるかな」

「何で俺が選ばれたんですか?」

「赤嶺君は、目がギラギラしているからだそうじゃ」

「目?」

「赤嶺君達のシムーンと言うバンド名は、砂漠に吹く熱風の意味で付けたのであろうが、沖縄口ウチナーグチでは『これでいい』という意味になる。赤嶺君の熱気で他のメンバーを引っ張りきれなかったようじゃな」

「……はい」

「今度はプロになりたい人間を集めるから、ぐいぐい引っ張るが良かろう。そうして機械にも人間にも心地よい音楽を作って欲しいのじゃ」

「機械にも人間にも?」

「ロボットにダンスのプログラムを入力するのは、このムムトに任せてくれ。それから新しいバンドのマネージャー業もやるぞ」

「どうしても新しい音楽を作らないといけないんですか?」

「警備ロボに新しい命を吹き込むには、そのために作られた新しい音楽が必要なのじゃ」

「なるほど」

「新しい価値を作るのは、人間にしかできぬ事じゃ。ロボットはああしたい、こうしたいという夢がないのじゃ。GSCに出た時、赤嶺君は自分の夢を語っていたな」

「ええと、地球の親戚の前で演奏したいなって」

「そういう夢を、ロボットは生み出せないのじゃ。だから人に仕えるのじゃ」

 ムムトは顔面ディスプレイにハーリー船の絵を映した。

「どうじゃ。この話に乗るか、降りるか?」

「……乗ります」

「よかろう。工場と話は着けている。午後の作業はしなくていいぞ。一度家に戻って、練習用の楽器を取って来てくれ。それから、M16倉庫へ行って開けて置いてくれ。残りのメンバーを連れてくる」


 轟はM16倉庫に着いた。倉庫の隣に果樹園が広がっていて、丁度ドラゴンフルーツのさかりである。

(ええと、パスワードはT、R、8、0、8……いた)

 奥の方に警備ロボットが並んでいた。

手前の空間には余裕がある。

 やがてムムトが残りのメンバー候補を連れてきた。

「GSCの決勝で顔を合わせてはいるが、一応互いに紹介しておこう。元シムーンのドラマー、赤嶺轟あかみねごう君。車を三つ書いてゴウと読む。三線サンシン独奏の奥武島満おうじまみつる君。満月の満の字じゃ。元シロップのベース、金城那美きんじょうなみさん。那覇の那に美しいで那美じゃ。元ふわふわのキーボード、桃原連音とうばるつらねさん。連続の連と音楽の音を合わせてつらねと読む」

「赤嶺君はダイビングの趣味がある。火の中、水の中でも飛び込んで助けてもらえるぞ」

「火の中は無理ですよ」

「奥武島君は三線サンシンと電子楽器の打ち込みで演奏していたが、一度バンドをやってアレンジの幅を広げないかと誘ったのじゃ。GSCで話していたが、奥武島君の白い三線サンシン曽祖父ひいじいさんから代々、受け継がれたものじゃ」

「ワンがタンカーユーエーの時、三線サンシンの爪をつかんだので自分の所に来ました。」

「金城さんは、カレーの食べ歩きブログがそこそこ有名じゃ」

「カレーは作るのも好きです」

「桃原さんのデュオで歌っていた娘は、東京コロニーに行ってタレントのオーディションを受けたそうじゃ。桃原さんの先祖も地球でアイドルをやってたそうじゃが、桃原さんはアイドルに興味がないのかな」

「いえ、その、歌ったり踊ったりするより、楽器を弾くのが楽しくて」

「そうか。まあ、人それぞれじゃな」

「それでは、人間にも機械にも心地よい音楽とはどんな音楽か話し合ってくれ。ここは、普段人通りの無い所と聞いている。楽器の練習も出来るぞ」

人間一同はお互いの顔を見合わせたままで、無言の時間が過ぎて行った。


ムムトが提案した。

「皆に楽器を持ってきてもらったし、一度合わせてみてはどうかな」

ムムトは『安里屋ユンタ』の楽譜を配った。

轟の合図で演奏を始めてはみたが、満は

らん」

と言って演奏を止めた。

「当たり前すぎる」

「そうだよね、別に新しくは無いね」


 蹄の音がして、倉庫の前で止まった。

「ムムトさん、来ました。おいらの琉神号はどこに停めたらいいですか」

「おお、緑間君。入り口の右側に駐馬場ちゅうばじょうがあるぞ」

 機械仕掛けの馬、機械馬テクノホースは乗用車よりも場所を取らず、自動運転装置が装備されていて飲酒運転で捕まる心配が無いので、一人乗り用として人気がある。

「ペンタグラムのボーカルだった緑間恭太みどりまきょうた君じゃ。うやうやしいに太いじゃ。彼もメンバーに入れてくれ」

轟、満、那美、連音は「えっ」と声を上げた。

「ペンタグラムは東京コロニーで、ある女性歌手のバックバンドに抜擢されたのじゃ。それでボーカルだった緑間君はバンドを離れることになった。ペンタグラムはサザンクロスと改名したぞ」

「おいらは沖縄コロニーに戻ってきました」

「まあ、バックバンドの件が無くても、遅かれ早かれたもとを分かつ事になったのでは無いかと思う。緑間君の声質は3枚目っぽいのじゃ。ヴィジュアルバンドを続けるのは厳しいな」

「そんなぁ」

「やりたい事と出来る事の方向が一致するとは限らないのじゃ」

「おいらボーカル以外やった事ないんですけど」

「どんな歌を歌って来たの?」

 連音がたづねた。

 恭太は幾つかのバンド名を挙げたが、メンバーの知らない名前ばかりである。我々も知らない名前ばかりである。

「皆さんもやってきたジャンルはバラバラだし、これバンドとしてまとまるのかな? て思うんですよ」

「そうだよねえ」

 恭太はムムトの方を向いて言った。

「ねえ、バンドとしてやってけないとなったら、俺達どうなりますか」

「それぞれメンバー募集の情報を集めることになるじゃろう」

「ロボット達はどうなるんです?」

「この者達は、速やかにスクラップ工場に連れて行くのじゃ」

「すぐ連れてくのー、えー、いーさー急がなくて」

「倉庫を塞いでいるのは、工場に取って損失なのじゃ」

(つれてくのー……えー……いーさー……)

(てくの……えーいーさー……)

 轟の頭の中で恭太の言葉の切れ端が響いた。

「分かったー!」

「えっ」

「機械にも人間にも心地いい音楽とは」

「音楽とは?」

「テクノ・エイサーだ!」

ヌーやが、うり」

「機械が生み出すテクノポップのリズムは、機械にとって心地の良いものだ。そして男も女も、子供も老人も、チムワサワサするのは、エイサーだ!」

「そうだね」

「お盆の時に後世グソーから来た祖先ウヤファーフジを、御送り《ウークイ》の時に念仏踊りで送り返すのがエイサーの元々だ。」

「うん」

「だが、火星に祖先ウヤファーフジが来るだろうか? 火星で亡くなった人が、祖先ウヤファーフジになるのは、まだまだ後の事だ」

「そうか」

後世グソーは地球の近くにあるのだ。1年に1回、地球に帰ってくるから。火星にいる俺達が、『ここにも子孫クヮーマガがいますよ』と祖先ウヤファーフジに呼びかけるには、生楽器だけ弾いても駄目だ。宇宙空間には大気が無いから」

「すると?」

「だから音をマイクで拾って電気信号に変えて、地球に向けて流すんだ。電磁波は宇宙空間を通る」

「電波のままじゃ聞こえないでしょ」

「電波で大丈夫だ。後世グソーでは携帯電話が要らないんだ。心で思ったことが相手にすぐ伝わる世界なんだ。人間が物考え《ムニカンゲー》すると、脳細胞の中に電流が流れる。電流があれば電磁波も発生する。人間の祈りが祖先ウヤファーフジに伝わると言う事は、電波を受け取ってくれると言う事だ」

「そう……かも知れないね」

「そしてどうせ電気信号に変えるなら、シンセも使って、究極の音楽を目指そうぜ」

「テクノ・エイサーと言うからには」

 ムムトが口を開いた。

「歌詞は沖縄口ウチナーグチにする事じゃ。祖先ウヤファーフジ沖縄口ウチナーグチを使うからじゃ。それと」

 ムムトが恭太に聞いた。

「緑間君、指笛は吹けるかな?」

「こうですか」

 指笛が鳴り響いた。

「いい音じゃ。緑間君にはチョンダラーをやってもらいたいと思う」

「チョンダラー!」

「チョンダラーは太鼓隊の隊列を誘導して揃えたり、衣装の乱れを直したり、場を盛り上げたり、エイサーはチョンダラーで持っているのじゃ。是非ともやってもらえないかな」

「でも、おいらチョンダラーの格好はした事ないし」

「化粧は慣れてるやしぇー」

「緑間君にソロの時間を持たせる事も出来るぞ」

「……やります」

「それじゃ、アレンジを変えてもう一度合わせてみない? 緑間君も、安里屋ユンタは知ってるよね」

「そりゃまあ」

「アレンジしている間に、ダンサーズに手踊りを仕込んでおくとしよう。シンカヌチャー、ウキレー」


「いいわね。いくわよ」

 一同はテクノアレンジした安里屋ユンタを演奏した。

「これはいいね」

 一同の顔が輝いた。

 那美が、皆にたづねた。

「そうだ、バンド名どうする?」

 満は轟の方を向いた。

「バンド名か……リーダー、何かある?」

「俺が決めるのか……」

 轟は窓から外を見た。夕焼け空に飛行機雲が一筋、まっすぐ上空にのびていた

「きれいな飛行機雲だな」

「やさやあ」

「金色に輝いているねー」

 連音は視線を飛行機雲に沿って動かした。

「まるで、竜が天に昇ってるみたい」

「『ハバい』やっさー」

 轟はメンバー一同に顔を向けた。

「それじゃ、ドラゴン。バンド名はドラゴンの付くものにしようか」

連音が最初に答えた。

「スペース・ドラゴンにしない?」

「それなら、宇宙の龍と書いて、スペース・ドラゴンとルビを振ろう」

満はメモ用紙にバンド名を書いた。

「いいと思う」

「賛成」

「ムムトさん、バンド名は宇宙龍と書いて、スペース・ドラゴンにします」

「宇宙龍、スペース・ドラゴン。了解じゃ」

「それではバンド名も決まったし、結成パーティーをしよう。工場の側にあるレストランで食事会じゃ。あそこはパンの食べ放題があるぞ」

「なかよしパンとか置いてあるアレか」

「しむさ。皆でやっつけよう」

「ムムトさん、シージャだからうちらを下の名前で呼んでいいですよ」

食事代は電気代込みで、プロデューサーが持った。


 エイサー団を結成して数ヵ月が経った。メンバーはパン工場でバイトをしながら、作業が終わった後でM16倉庫に行って曲の練習を行っている。

 休憩中に那美が携帯電話を4倍に広げて写真を見せた。

「ムムトさん、シロップのメンバーだったユッキーが月末に結婚するんですけど、余興にエイサーをやってもらえないかと問い合わせが来ました。うちら正式デビューまだですけど、どうでしょう」

「おお、おめでたい席に使ってもらえるなら、いいあらに」

「結婚相手はどんな人かな」

「ユッキーの旦那さんになる人は上運天丈治かみうんてんじょうじさんと言って、火星と地球の間を往復する貨物船のパイロットです。宇宙バイクレースの記録を持っていて、名前の通り『神運転かみうんてん』やっさー、『上手じょうじ』やっさーと噂された、らしいです」

「余興はあまり長い時間はもらえないから、2,3曲と言ったところじゃな。まあ良いのではないか。」

「ギャラはどうしましょう?」

「まだデビュー前だから、ギャラはいらぬと伝えてくれ」

恭太がニコニコしながら言った。

「人間同士の根引ニービチは久しぶりだねえ」

 火星への移住希望者は男性の割合が多く、結婚できない男性が大量に出ることが予想された。各国の対応はまちまちであるが、この国では人工子宮、人工乳腺の研究を進め、実用化にこぎつけた。そうして出産・育児可能なアンドロイドとの結婚が法律で認められるようになった。結婚可能なアンドロイド、機械嫁ブライドロイドは手の甲に針突ハジチマークが施されている。

「……桃ちゃん? どうかしたの?」

 連音は青ざめた顔で、カップルの写真を見つめていた

「いいえ、何でもないです」

「何でもない訳無いじゃない。明らかに顔色悪いよ」

 恭太が口を挟んだ。

「その写真に何かあるの?」

「え?」

「もしや、心霊写真・・・」

「ウシェートーン。デジカメだよ。そんなはずないさ。」

 満が口を開いた。

「知り合いなのか。うぬ、男性ウィキガと」

「え?丈治さん?」

連音は固く目をつぶった。涙が頬を伝って流れ落ちた。

「なるほど、モトカレという奴じゃな」

 連音は泣きながら、以前お付き合いをしていたが、別れた間柄であることを説明した。

「ああもう、どうして都合の悪いことが都合よく起きるんだ!」

滅多メタな事は口にするものでは無いぞ」

「桃ちゃん、どうする?演奏断ろうか?」

「そんな、連音のためだけに断るなんて」

「いや、気持ち良く演奏できないなら、シチェーナランと思うさ」

「そうだよ、おいらもそう思うよ」

「リーダー、どうする?」

「俺が決めるのか……」

アシガチネームヌンジスン。皆の者結論を急ぐでない。那美、返事を週末まで待ってもらえるよう頼めるか」

「はい、頼んでみます」

「連音は気持ちが落ち着くまで練習を休め」

「皆……ごめんなさい」

「いいさ。仕方ねーらん」


 数日後、轟がパン工場の倉庫で積荷の作業を行っていると、連音がやって来た。

「リーダー、アンをさがしているんだけど、ここにある?

「餡はこの倉庫には無いな……C列の倉庫だ。遥かカナダにあるな」

 轟は連音の居場所の上の荷物が崩れかかってるのを目にした」

「桃ちゃん危ない!」

轟は運搬ロボに乗ったままで素早く駆けつけ、ロボットの両腕を壁にドンと押し付けて、積荷が連音に落ちるのを食い止めた。

「リーダー、」

「早く脱出しろ。崩れる」

 連音が運搬ロボの両腕の下から抜けた途端、荷物が崩れ落ちた。

「ウカーサンテーヤー。間に合って良かったよ」

「リーダー有難う。怪我は無い?」

「骨が折れたぜ」

「えっ」

「ロボットアームを両方ともやられた。腕を交換してから、この棚を積み直す。こいつはやっぱり、骨が折れるぜ」

「アハハハ。リーダー、本当に有難う。……次の練習から、参加するよ!」

「おお。大丈夫なのか?」

「大丈夫よ」

 連音はやや顔を赤らめながら答えた。

「それなら、練習を頑張ろう……所で、何の餡を探していたの?」

「モーウイの餡」

「モーウイ?」

 轟は操縦席の検索パネルで在庫を調べた。

「も、も、も、……無いな。モーウイって別の名前は何だろう」

「モーウイは赤毛瓜と言うのじゃ」

「ムムトさん! モー、ウィックリした。

赤毛瓜……確かにありました」

「ムムトさん、どうしてここに?」

「お偉いさん達にロボットダンサーズを御覧いただこうとしていたのじゃ。」

 ムムトは客に轟と連音を紹介した。

「先ほどの様子を見ると連音も余興に参加できるな?」

「はい」

きかな。ステージ衣装のデザインが決まったから、終業後に試着してくれ」

「桃ちゃん、本当に余興出て大丈夫なのか?」

「うん、もういいから」


当日、メンバーは車に楽器やステージ衣装を積んでM16倉庫から出発した。

「先に行っててねー。すぐ行くから」

「那美、課長さんから、正職員として働かないかと誘いを受けたそうじゃな」

 はい、相談しようと思ってました」

 ムムトは顔面ディスプレイに雲の絵を表示して顔を曇らせた。

「悩んでいるのか」

「どうするのがいいかと思って……」

「パンを作るのも音を作るのも人を幸せな気分にする素晴しい仕事じゃ。那美にとってどちらが大切であるかは、那美の中に答えがあるのじゃ。今は遅れぬように、会場に急げ」


 披露宴の中盤、スペース・ドラゴンの出番になった。演奏メンバーが5人、大型ロボが2台、中型ロボが8台である。

 ロボットが隊列を整える前に、チョンダラー・恭太がセンスル節を唄った。

歌詞『ヴィジュアルバンドゥぬ首切クビチらり

   ナマ白塗シルヌ京太郎チョンダラー

   姉小アングヮやアハアハあびららん

   ハーメーぬイヒイヒあびらすん

   すたる可笑ウカさやセンスルセンスル

   ヨーセンスル』

(ヴィジュアルバンドの首を切られて

 今や白塗りでチョンダラーをしている

 女の子にキャーキャー騒がれず

 年増がイヒイヒと騒ぐばかり

 ハァセンスルセンスル)


 ロボットの隊列が整った後一呼吸置いて、

『ポップコーン節』の演奏を始めた。


 ライト・スティックのばちがほのかに周囲を照らしながら空間に図形を描き、太鼓の音を刻み込んだ。


歌詞『アチコーコー ポップコーン

   バターぬ ニウィばさ』


 大型ロボの1台がくす玉をかかげ、もう1台がロケットパンチでくす玉を開いて余興を締めくくった。


 披露宴もお開きとなり、エイサー団の一行は会場を出た。

「連音ちゃん、今日は演奏ありがとうね」

「丈治さん、……おめでとうございます」

「連音ちゃんも素敵な人を見つけて、幸せになってね

 連音は轟の方を見た。轟は出口の方に向かっていて、連音の方からは顔が見えなかった」

「……はい!」


 会場からの帰り道、ムムトが顔面ディスプレイに太陽マークを表示し、晴れ晴れとした顔で轟に言った。

「轟、元シムーンのメンバーだった石嶺氏から、勤めているスーパーのGWゴールデンウィークのイベントにエイサーで出てくれないかと申し出があったぞ。持つべきものはコネじゃな」

「友ですよ」


 満は父が経営する民謡酒場に呼び出された。GSCに出場しようと家を飛び出して以来久々である。満の父は白い三線サンシンの爪を渡した。

三線サンシンと同じく白檀びゃくだんで作った爪やさ。いつまでも代安デーヤシーの爪を使っては風情フージーラン」

親父スー。……ニフェーデービル」


 那美はパン工場に電話を掛けた。

「はい、はい……すみません、うちは音楽に賭けてみます。お誘い、有難うございました」


 連音は会場からの帰り道、携帯電話から新郎のアドレスを消去した。


 恭太は翌日、焼き物の店に行き、ロボットに冷却水を注ぐ容器として抱瓶ダチビンを購入した。


 平日のけだるい午後、「民謡で今日拝なびら」のオープニングが流れる。

「8月22日金曜日、沖縄ウチナークユミンナー7月27日ナトゥイビーン。ハイサイ今日チュウウガなびら、ナオです。来る日曜日に地球エイサー大会が開催されます。16カ国24団体が参加して、大層にぎわいますな。特別ゲストとして、火星からテクノ・エイサー団『スペース・ドラゴン』が出場します」

行逢イチャりば兄弟チョーデー金曜日、本日のゲストに、自己紹介してもらいましょう」

「ハイサイ、スペース・ドラゴンの赤嶺です」

「奥武島です」

「金城です」

「桃原です」

「緑間です」

 メンバー一同声を揃えた。

「ゆたさるぐとぅ、御願ウニゲーさびら」


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