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8.策士の包囲網

 「そんなに闇雲に攻撃していいのかね。ちゃんとした作戦も無しに」


 惨状を見かねたカガトが、刑事に声を掛けた。


 戦況は見れば一目瞭然だった。明らかに、こちらが押されている。敵は銃撃をもろともせず、東、北の2班を撃破し、そのまま西班の掃討へと向かっていた。報告では、正体不明の能力により銃弾を防がれ、攻撃が出来ないらしい。GSTがこれ程の損害を出した前例は無かったが、カガトは特に気にする様子は無かった。


 なぜなら、今回使った隊員はGSTのメンバーでは無いからだ。本当の隊員は今特殊部隊長と共に、発生した磁場の調査に向かっている。今ここにいるのはGSTのヘルメットを被った一般警察の連中だ。限られた人員しかいないGST隊員とは違い、一般警察は政府が強制的に人員を徴収する。つまり、代わりならいくらでもいる、そういうことだ。これを、カガトは刑事に知らせていなかった。


「いえ、作戦ならあります。油断させた所で敵を集団で取り囲み、一気に始末するつもりです」


 指揮官の刑事はカガトの問いに答えた。トランシーバーを片手に指示を叫ぶように出し続けている。


「それならいいんだがね。ヒヒ」


 そう言った後で、カガトは呟いた。


「……そう上手くはいかないと思うよ」


 それから先、戦況は良くなるどころか悪くなる一方であった。

 奮闘していた西班であったが、一人の兵士の連絡を最後に全滅。南班も応援に駆け付けるが、こちらの全滅も時間の問題だった。


「もう駄目なのか……」

「珍しく弱腰だね、君」


 カガトは白髪をなびかせながら空を見上げている。


「南班も全滅して終わりですよ。ああ、俺は部隊の指揮官を引き受けたんだ! 俺は責任を問われてクビになるしかないんです!」


 刑事が今の状況を悲観する。


「いや、そうでもないようだ」


 カガトは、片方の手を白衣のポケットに突っこんだまま、夜空を指さした。

 刑事がその方向を見上げる。そこには、星があるのみだ。


「一体何が?」

「ほら、あれだよ」


 刑事は目を凝らす。徐々にその姿が浮き彫りになってくると、刑事は飛び上がって喜んだ。けたたましい羽音が、闇の向こうから聞こえてくる。


「やった、ヘリだ! 応援じゃないですか!」

「私が呼んでおいた。こうなることは分かっていたからね。あれに乗っている隊員を使って、家の中に攻め込ませたほうがいい」

「何故ですか?」


 刑事が疑問を口にする。

 君は何も考えていないんだな、とカガトは肩をすくめた。


「分からないのか? さっき私は標的の家族の写真を見た。確かに娘二人に息子が一人いる五人家族だったよ。だが……今交戦中の敵は、どうだ? 私は目が良くてね。さっきここから顔が見えたが……間違い無い。奴は、目標の家族の中にいない人物だった」

「家族に居ない人物が、紛れ込んでいる……?」


 カガトは頷く。


「私はGSTの作戦参謀として様々な凶悪犯と向き合ってきたが……正直言って、ここまで能力の発達している奴は初めて見たよ。そんな人物が、わざわざ表に出向いて戦闘をしている。私達が、彼らにとっての脅威、GSTだと分かっていて、だ。おかしいと思わないかね?」


 刑事はうーん、と唸る。


「確かに、普通なら身を隠すべきでしょうね。見つかれば危険な対象として真っ先に狙われ追いかけまわされるのは分かるでしょうし。わざわざ平穏な暮らしを投げ打つ事はしないと思います。……だとすれば、何故敵は我々の前に姿を現したんでしょう?」


 カガトは人差し指を立てた。


「そこがポイントなのだよ。彼が今戦う理由は何か。それを考えてみたんだが……彼は、さっきあそこの家にいたはずだね?」


 刑事が頷く。


「火のついたあの家を、彼は何らかの力を使って救った。私はその力については無知だが……どうやら、異能力の持ち主たちはそれを使う時、相当な体力を消耗するようなんだ。これは今までの経験上の話だがね。となると、彼は自分の体力の消耗を顧みず、力を使った、そういうことになる」


 カガトは森に目を向けた。赤い火花が飛び、発砲音と悲鳴が絶えず飛び交っている。


「しかし、見ず知らずの人間に、普通そこまでの事をするかい? 能力を使う規模が大きくなればなるほど体力を消耗するとすれば、それは尚更のことだ。では何故彼はあの一家に力を貸すのか。……私は思うに、彼は一家の誰かと大切な関係にあると考えている」


 刑事が首を傾げた。


「何故です? 用心棒という可能性もあるのでは?」


「いや、それは無いだろうね。彼のような歳の用心棒等、誰も雇わないだろう? 彼よりももっと名の売れた傭兵がいるし、彼の年では信用を得るのにはよっぽどの業績がいるだろう。それに、私達は用心棒を語っている者達の名簿に目を通してある。彼のような人物は愚か、彼の年の人物も居なかったよ」


 カガトのサングラスを通した目がきゅっと細くなる。


「恐らく、家の中を攻めれば、奴は気を乱して隙が出来るに違いない。そうすれば、このフレデリア一家の逮捕という目標を達成でき、さらに、強力な非国民をも逮捕できる、とまあ、そういう寸法だよ」


 刑事はそれを聞くと、トランシーバーを取り出した。


「よし、お前達、今すぐあの家を攻めろ! 今、南班が時間を稼いでいる! その間に乗り込め!」


 ヘリが全速力で家へと向かう。上空へ到着すると、何本ものロープが降ろされた。それを伝い、蜘蛛が群れを作っているかのように人が家の中へ侵入して行く。


 これで目標達成かと思われた時、軍用ヘリが耳を劈くような音と共に火を噴いた。操縦不能になったヘリは、煙を上げながらそのまま森へ墜ちて行く。


「南班が全滅!?」


 トランシーバーからの報告に、刑事が慌てた。


「時間を稼ぐどころか瞬殺じゃないか! それにヘリまで失って……!」


 唇を震わせながら、刑事は何かを一心に考え始めた。ヤバい、ヤバい、と呟いているようにも見える。


「全く、自分の責任を誰に押し付けようかとでも考えているのかね? どうしようもない刑事だ。もしや、一番手近な私に責任転嫁かい? ヒヒ」


 その言葉は、刑事の耳には届いていないようだった。


「仕方ない、私が動くしかないようだ。駄目な部下達に代わってね」


 カガトは刑事を一人高台に置き、柵を跨ぐ。そして彼はなんの躊躇いもなく、そこから飛び降りた。そのまま、カガトは白衣をなびかせながら、広がる闇へ落ちて行く。やがて彼の姿は、茂る森の中へと消えた。



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