34.守護者たち
「それでいいのー? ボク知らないよ~?」
「さっさと出て行け」
またスカイの部屋に現れたイブリースの男は、困ったような顔をしながら渋々部屋を出て行った。捕まえようと魔術師を待機させていたが、やはり捕獲はできなかった。
*
「これで終わるの?」
セレネが問いかけてくる。
「もちろん終わるよ。――俺達が終わらせるんだ」
*
夜。空には黒雲が立ち込め今にも雨を降らせようとしている。
前線に割り当てられた上級魔術師達が到着したとき、幸い首都に煙は上っていなかった。絶壁に囲まれた円形の居住区は、今門を閉ざされ、まるで鳥かごのように人々を閉じ込めている。お陰で中は見えない。空を飛ぶのは万が一のことを考え作戦で禁じられていたので、様子は確認できなかった。しかし、中が静かだということは分かった。全員が最初はとても騒々しい様子を想像していたのだが、いざ来てみると、ここは気味が悪いほど静かだった。本当に人が住んでいるのかと疑いたくなるほど。
とにかく、まずは防衛手段を講じることになった。
合図で風を切る音と共に光の玉が打ち上げられる。昼間とまでは行かないが、辺りは一挙に明るくなった。
次に全員が輪になり、首都を取り囲む。
「ライタスソイルエフォード――……」
「我が光の神ライタスよ、汝の力を――……」
「大地の神よ、我らに恵みを――……」
口々に呟かれる言の葉が光の糸となっていく。それが空中で絡み、紡がれていく。細い糸はやがて布になり、大きな膜となった。大きく開いた壁の上を、膜の屋根が覆っていく。
*
「順調みたいだな」
スカイは結界が張り終わったのを目で確認し、ひとまず息を付いた。
「あと心配すべきは魔道兵器の存在だな……。上手くいくか……? いや、師匠の作戦は絶対に上手くいく」
そう自分に言い聞かせ、スカイは本部の椅子に腰かけた。
本部――司令部ともいえる――は、首都から少し離れた高台におかれている。
仮設した6つの巨大テントの下では、重役達と机に向かう数十人の伝達係、そしてセレネとスカイが戦いのときを待っていた。
スカイは、戦いがどうなるのか全く見当がつかなかった。ラーシャの作戦に従えば上手くいくのは分かっているのだが、それでもやはり不安が残る。
「……私はどうなるの?」
隣にいたセレネが繋いだ手に力を込めてきた。スカイも軽く握り返す。
「大丈夫。セレネは俺が護る」
*
「ボス。奴らは“月”を匿うつもりです」
いつも語尾を伸ばすあの男だが、ボスの前では普通に喋る。生意気な奴。
女はボスが彼を罰することを期待したが、ボスはただ男に冷酷なその目を向けただけだった。
彼が部屋から出てくると、女は彼の胸倉を掴み、壁に叩きつけた。
「……命拾いしたわね」
「うん、そのようだね~。……というかー、アンタまた酒臭いよ~? ほどほどにしとかないとー」
苛立ちから、力がさらに込められる。
「私の勝手」
「うっ、ごめん、ごめんよ~。放してくれよー」
女は彼を床に投げた。彼は床に叩きつけられた。
「痛いな~。あんまり乱暴なのも考えようだよー? ドルイドにもこんなことしてたのぉ?」
「うるさい、黙れ。さっさと支度しなさい。戦争よ」
「はいはい。……あ~、ぞくぞくするなー」
「“月”さえあれば、目的は果たされる。失敗は許されない」
「はーい、はい、分かってますよ―」
やる気を示すかのように男は電光を迸らせた。
*
「……今夜魔法陣が発動する」
白龍が天を仰ぎながら呟いた。
「……スカイ、月を頼むぞ」
*
「おーい、フレア~! 叔父の野郎~! 姉ちゃん何処行ったんだ~?」
ソラルが大声で二人を呼んでいると、フレアが出てきた。
「おい、フレア。姉ちゃんは?」
「分かりませんわ。……でも、多分真中にいると思います。あの方達、首都の話ばかりしていましたから」
ソラルは舌打ちの後、走り始める。
「ま、待ってください! どこへ行くのです?」
彼は振り返った。
「姉ちゃんの所へ行く」
「それなら私も連れて行って下さい! 私の……私の王子様もそこに!」
ソラルは仕方ないなと微笑み、彼女の手を掴んだ。そして彼らは空を飛んだ。
*
スカイが突然立ち上がった。
その表情に、場の空気が固まる。
「どうしたニャ、スカイ?」
スカイは青ざめた顔で唇を噛んだ。言ったところで間に合わない。何故気付けなかったのだろう。
「師匠。思うに、敵の場所はそんなに遠くない」
「一体どこニャ?」
スカイは唾を飲み込んだ。悪い答えが返ってくるということは、場の全員が分かっていた。
「敵は――壁の中です」




