表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/51

13.深まる謎と僅かな展望

「お前達は何だ!? どこから来たんだ!? 何が目的だ!?」


 最初にスカイ達がやって来た河川敷の側に、女に詰め寄る一人の少年と、それに震える二人の少女の影があった。川にかかった高速道路の下は光が届かず、他よりも温度が低い。


「そんなに詰め寄らないでくんない? 何から答えていいか分かんないし」

「つまり答える気はあるってことだよな?」

「こんなに厳重に縛られてちゃ何もできないでしょ?」


 カルネは今ロープでぐるぐる巻きにされており、まるでミイラのような出で立ちだ。セレネが似ていると言い出したのだが、仮面を被っていたせいで、さらに彼女はそれっぽく見えてしまっていた。今は仮面をとってあるので、ましにはなったが。


「それに、あんた並の魔術師じゃないでしょ? 私は下級だけど、あんたは上級?」


 カルネは見抜いたように、黒の瞳を向けて来る。黒ローブを知らない時点で位が低い事は分かっていたが、そう言われるとどこか癪に障る。


「俺はドルイドだ」


 スカイが言った瞬間、カルネがえっ、と大きく目を見開く。


「ドドド、ドルイドッ!? ドルイドって国に四人しかいないんじゃ……? こんな若い子がドルイドやってんのっ!?」

「文句ある? それより、位のことや魔術師のことを知ってるってことは、お前は俺と同じ世界から来たな?」

「まあ、多分そうだと思うけど」

「詳しく聞かせてもらえないか。どうやってこっちに来た?」


 カルネは思いっきり嫌そうな顔をする。


「分かんないよ。リーダーに命令されるまま魔方陣に立ったらここにいたんだからさ。私達はここが担当らしいけど」

「ここが担当? リーダーって誰だ?」


 スカイが詰め寄る。


「私も分かんないよ。話持ちかけられて集まって、ただ言われた通りに動いてるだけだからさ。そのリーダーが誰かも、私は知らないよ。ローブに仮面姿だったから男か女かも分からなかったしね。側近だけが喋って、リーダーだけは喋らなかったし」


 カルネが苦しそうに首を回す。しばらく腕を組んでいたスカイは、はと何かを閃いたように顔を輝かせた。


「おい、もしかして帰還呪文を知らないか!? そのリーダーがどうやって魔法式をしったかは知らないが、それならきっとお前らに呪文を伝えてるはずだ!」


 勢い余って前に転びそうになる。カルネが眉根を寄せ、固まった。スカイが期待の籠った目でそれを見つめる。転がり込んできた希望だ。もし帰還呪文を彼女が知っていたら、元の世界へ戻る事が出来る。


 しかし、カルネは首を振ってしまっていた。


「知らない、というか何それ?」


 スカイは唖然とする。


「てかさ、帰還呪文無しで帰れないもんなの? ドルイド君」

「無理だ。帰還呪文が無ければ向こうへ通じる扉を開けない。呪文無しで無理矢理ねじこめば、体がばらばらになっちまう」


 ドルイド君、に違和感を覚えながらもスカイは解説した。


「お前達が人殺しが趣味のリーダーに集められた事は分かった。……でも、それに目的は無いのか? 目的無しに人をこの世界に送り込むなんて、すこしおかしいと思うんだが。魔法陣にかかる魔力は膨大だし、異世界で殺戮行為をさせて何になる?」

「知らないって言ったでしょ? 私は命令通りに動いただけで、特に何も聞いてないんだって」

「じゃあ何故得体の知れない奴の言う事を聞いた?」


 カルネがやれやれとため息を突いた。


「金に決まってるじゃん。……もう、これ以上私に聞いても何も出てこないよ。もっと偉い人も来てるはずだから、そいつに聞いたら?」

「そいつはどこにいる?」


 すかさず聞くと、カルネは「さあね」と決まり文句を一つ。


「でも、私達の組織名を言ってる奴が居たら、そいつがそれだね」


 カルネは首をパキッと一つ鳴らした。


「私達はイブリースって名乗ってる。――悪魔、っていう意味だよ」

「イブリース……」


 スカイが繰り返す。


「覚えとくか」


 手を少し動かすと、カルネの縄が独りでに解けた。


「ありがとね、ドルイド君。一応、これは借りにしとくよ」


 カルネがうーん、と伸びをする。


「ちょっと神様、犯罪者を逃がしていいの!?」


 セレネが訴える。


「いや、こいつは下っ端だ。逃がしても大丈夫だろ」

「安心しなよー、ドルイド君のガールフレンドぉ。他のメンバーに報告したりしないからさあー。仲間も殺されて、一人じゃなにも出来ないしねー」


 セレネは不満そうだったが、どうやら言っても無駄だと感じたようだった。


「じゃ、私は行くから。……ドルイド君。上の人達には気をつけなよ。あいつらは悪魔を持ってるから」

「悪魔を持ってるって――……」


 最後まで言い終える前に、カルネは消えてしまっていた。


「どこに行ったの?」


 セレネが一応聞いとこうか、というようなノリで言う。


「俺と同じで、帰る方法を探すんじゃないか? ……しかし――」


 スカイはローブを整える。


「もしかしたら、他にもこっちに来てる人がいるかもしれないな……」


 敵と言う形で会わなければいいが、と少し思う。


 スカイがセレネに向き直ると、その隣の人影がびくっと震えた。

 そうだった、まだ一つ問題があった……


「あ……あの、もしかしてあなたもあの人達の仲間なんですか……?」


 おどおどと、呂律の回らない口調でアイドルの少女が尋ねて来る。


「違うって。あんな奴らと一緒にされたら困る」


 スカイは優しい表情を心がけたが、アイドルの少女はそれにも怯えた表情を見せる。


「でも、不思議な力を使ってたから……そうなのかなぁって……」


 少女は目を伏せる。


「私達はあなたを助けたんだよ? 悪者のはず無いじゃん。神様はすごくいい人なんだ。私も神様に助けられたんだよ」

「そう……なんですか?」


 疑う少女を余所に、スカイは落ち葉を集め始めた。


「ま、確かに一般人から見りゃ俺達は怖いよな」


 独り言のように呟く。


「どうする? GSTにつれて行こうか?」


 少女は口を開きかけ、何故か止めた。


「GSTなら保護してくれるんじゃない? 私達は側までしかいけないけど、送る事はするよ」


 セレネが援護射撃をする。しかし、アイドルは、


「……わたし、GSTとは仲良くするな、って言われてて……」


 二人は意外なセリフに驚く。


「GST、って一般人の味方なんじゃないのか?」

「……私のお父さん、GSTに色々詰め寄られてて怒ってるんです。だからGSTには近付くなって……」

「詰め寄られてる……ってどういうこと?」


 セレネが尋ねたあたりで、スカイの側には落ち葉の山が出来あがっていた。管理人が人目につかないここに葉を集めて来るのか、落ち葉は意外と早く集まった。


「お父さん、ひこくみ……能力者の皆さんのことを調べてるんです。この前、何かの研究が成功したみたいで喜んでたんですけど、そこにGSTの隊長さんが来て、お父さんと何かを話してたんです。それでお父さんが怒って……」

「なあ、アイドルさん。俺達をお父さんのところへ案内してもらえないかな?」


 スカイが落ち葉の山に手をかざすと、落ち葉がキュッと一か所にあつまり、薄く広がった。


「わっ! 綺麗な服!」


 セレネが手を伸ばすが、コートのような服は少女の手に渡った。


「その衣装じゃ寒いんじゃないか?」


 コクと頷くと、少女はフリフリの付いた派手な衣装の上から服を羽織った。


「うん、これで普通の女の子だ。これで目立つのも避けられるしな」


 少女はまだなじめていないようだったが、それでも恥ずかしそうに一つ頷いた。

 膨れるセレネは放っておいて、ひとまず何故あそこにいたのかを尋ねてみる。


「実は、メンバーの一人が舞台の上から落ちて、足を折っちゃったんです。他の二人は逃げちゃって私が肩を貸してあげてたんですけど、男の人に見つかっちゃったんです。そしたら、女の人が来て、どちらか一人くらいなら逃がしてあげるよ、って言ってくれたんで、私がモナ――舞台の上から落ちた子のことです――を渡したら、その人とモナはあっという間に消えちゃって。で、そうこうしてる内に捕まっちゃった、という感じです」


「やっぱり魔術師は他にもいるか……」


 一方で、一般人を助ける物好きな魔術師が自分たちの他にいるだろうか、という考えが頭をよぎる。


「……えっと神様……でしたっけ?」

「……まあ、そういうあだ名だけどな」


 少女がいきなり頭を下げた。


「助けていただき、ありがとうございました!」


 えっ!? と思わず声を上げる。


「お礼といってはなんですが、お父さんのところへ案内させていただきます!」


 この服の事もありますし、と付け加える。


「どうするんですかぁ? この子に付いて行きますぅ? まぁそうですよねぇ? 何か神様、この子に優しいもんねぇ?」


 何だか嫌味っぽく言ってくるセレネは無視する。


「頼むよ。その話を、お父さんに詳しく聞いてみたい」


 こっちです、と少女は歩きはじめる。


 一人は胸を期待で膨らまし、一人は渋々足を動かした。


 もしかしたら、何か有用な情報が手に入るかもしれない。元の世界の様子が知りたい。その、イブリースが蔓延る世界になっていなければいいが――。


 三人は川沿いを、各々の思いを抱えながら歩いて行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ