親子の絆
「あの……。先輩、ちょっといいですか?」
放課後、一年生の女の子に声をかけられた。ついでに私は二年生。頷いて、屋上まで行った。
「実は……私の家、幽霊のような子がいるんです。小さな女の子です。声をかけると、泣きながら消えちゃうんです。怖いというか、その子を助けてあげたいというか……夜に、決まって私のところに出てくるんです。家族といるときも。家族も怯えてしまって……」
「じゃあ夜、あなたの家に白狼連れて行くわ。その子と話してみる。」
手を振って、帰る。もう夕暮れなので、速く帰らないと間に合わない。
「よ、神楽。」
また来てるよこいつら……。急いでいる私の様子を見て、桜神様が
「あら、お仕事?」
と私に聞いた。
「はい、後輩から。」
いつ?と言うように首をかしげるハクに、
「夜よ。あなたも準備して。」
魔が絡んでいる場合もある。武器も一応持っていかないと。
「俺らも行っていいか?」
「外で待ってるならね。」
短く会話して、さっさと神社を飛び出した。
「先輩!」
チャイムを鳴らすと、一年生の子が飛びついてきた。そのまま入って、リビングに通してもらう。妖怪たちは外にいる。
「先輩。家族です。」
「どうも。」
ペコリと頭を下げられて、私も頭を下げる。
「そろそろ、出てくる時間だよね、姉ちゃん……」
一年生の子の弟が呟いたとき。
スーっと女の子が出てきた。立ち上がって、その子のもとまで歩く。この子は幽霊。それはまちがいない。
「あなたは誰?どうして泣いてるの?」
後ろから一年生の子が声をかける。すると、
「お姉ちゃんについていたのは、巫女の知り合いと知っていたから……迷惑かけて、ごめんなさい……」
女の子が顔をあげた。涙で、濡れていた。説明を促すと、かなりたどたどしいのでまとめると。
女の子は、病気で死んでからも、お母さんを見守り続けた。するとある時お母さんが魔に捕まったため、私のところに来たかったのだという。
「なるほどね……いくよ、ハク。」
「え、先輩!」
「ちょっと魔を潰してその子のお母さん助けてくるってさ。その子よろしく。」
ハクが喋ったので、皆びっくりしていたがそんなことは関係ない。ドアを開ける。
「ちょっと魔を潰してくる。」
「ちょっと待て!」
巨大化したハクによじ登っていた私は、妖怪たちの方を見た。
「私たちが引き付け、お前がその子の母を助ける。それでいいだろう。」
銀雷が提案する。まあ確かに効率はいい。
「じゃあ、それでいいわ。さっさと行きましょう。」
「……あ、もう問題なかったね。うん。」
その子のお母さんはすでに魔をボコボコにした後だった。たくましすぎる。すごいこの人。
「うちの娘の分まで生きるって約束したのよ!こんなところで死ぬわけにはいかないわ!」
それを聞いて、わかった。この人、あの子との約束を力に頑張ってきたんだろう。そして、これは桜神様の力。きっと、毎日お参りに来てくれた人の一人じゃないだろうか。桜神様は、そんな人に、少しだけ、霊力を分け与えてやる。その霊力と、約束の力が合わさって、魔を倒すほどの力になったのだと考えられる。桜神様がしたのなら、私からも一つ。
「娘さんに、会わせてあげましょう。ついてきてください。」
「え……?会えるんですか?あの子に……?」
ハクの背中をさして、乗るように伝える。そのまま、後輩の家へと向かった。
「美佳……?美佳なの?」
「お母さん!」
二人で感動の再開をしている親子とは対照的に、こっちは、
「なにもやることなかった。」
いじけているのが約二名。私は別にいいんだけどな。
「すみませんが、そろそろお別れの時間です。」
告げる。それを合図に、足から美佳ちゃんが透けていく。
「お母さん!元気でね!」
「あと60年くらい先でまた会おうね!」
二人ともにっこりと笑って手を振る。そして、
「ありがとう!お姉ちゃんたち。お母さんにも会わせてくれて。」
じゃあね、と手を振る。美佳ちゃんが完全に見えなくなったあと、美佳ちゃんのお母さんが、
「本当にありがとうございました。」
そう言って、出ていった。
「よかったですね、あの子たち。先輩、ありがとうございました。」
ひらひらと手を振って、私たちも帰路についた。
桜神様も、私をあんな風に思ってくれているのだとしたら、とても嬉しいな、と思いながら。




