林檎
イリアを酒場に預け、シンは図書館に向かって歩いていた。
さきほどスフィニャにダークエルフに関する本を手に入れることができなかったのを告げられたからだ。
一冊二冊ならともかく一冊もないのが気にかかったというのもある。
とはいえ……奴隷は入れないからな、どうすっか。
露店で買った、瑞々しい林檎を齧りながら悩む。
貸本屋を頼るのも考えたが注文となると値段がかかるのが痛い。
手持ちが一万四千となると手段が限られてくる、途中何度か賭場で増やそうかと思っているのを踏みとどまっているところだ。
紙袋から二個目の林檎を取り出し齧りつく、果汁が口に広がり、甘酸っぱさが舌を楽しませる。
これで五個、四百は安いな。
イリアの土産に一個だけ取っておくか。
そう思いながら林檎を齧っていると、やがてこの国の大図書館に着いた。
相変わらずでかいな……東京ドーム二個以上はあるな。
目の前に見える建物を見て思わず元の世界の建築物と比較してしまうが、それだけ大きい。
教会にも城にもみえるデザインに、この国の信仰するアノン神の像が堂々と飾られている。
学者の姿をした人や親子連れ、子供達がその建物の中に入っていくのが見えるが、その中に獣人や冒険者の格好をしたものは一切いない。
当たり前だと言えば当たり前なんだがな。
分かっていても少しやるせない気持ちにはなる。
かといってどうかしようとも思わないのも事実である、今の生活を維持するのに精一杯だからだ。
それにそこまで行動力がある訳でもなく正義感がある訳でもない。
とはいっても、この現状をどうにかしないと調べることもできやしねーしな。
三つ目の林檎を齧りながら、外に備え付けてあるベンチに座り考える。
どうすっかな……いっそ勝手に入ってみるか?いや、すぐばれるだろうな…
大図書館を睨みながら手元の紙袋から四つ目の林檎を取り出したとき声があがった。
「おいしそうだな」
隣からだった。
声のする方を見ると座っているベンチの隅にゆったりとしたローブに見える服で身を包んでいる女性が座っていた。
中々の乳だな。
一番初めに思った感想はそれだった。
思わず女性の胸もとの二つの膨らみに目がいく、そして、そのまま顔へ視線が移動する。
芯の強そうな顔立ちをしているが、どこか儚い雰囲気を持っている、そんな印象を抱いた。
声を出したのはこの人だよな?
疑問を解決するように女性の顔を見つめてしまうと女性の頬が赤くなり、恥かしそうに口を開く。
「失礼した、あまりにも美味しそうに食べていたので……、つい声を出していた……恥ずかしいな」
どうやら、声の主であっているらしい。
「いや突然、横から声がしたから驚いただけで、気にする必要はない」
「気を悪くしていないのであれば、ありがたいのだが……」
申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「よかったら……喰うか?」
その姿を見て思わずそう言っていた。




