呼び方
夜遅くなる頃には酒場はいつも以上に賑わっていた、酒を飲み交わし談笑しあう、冒険者で埋まっていた。
一気飲みし合う男達や冒険者になりたての若い男を誘惑する女性冒険者。
机に突っ伏している男の周りには酒の瓶がたくさん放置していた。
「俺、鳥の香草焼きと鳥の皮のパリパリしたやつ二つ!」
「いいから、値段の安いお酒を持って来い五本ぐらい!!」
「肉の盛り合わせお願いできる?」
「果物ジュースとサンドウィッチを頼む」
「ミルク」
そんな中をイリアはせっせと働く。
「ダークエルフの嬢ちゃん、頑張ってるな。ほら、お小遣いだ」
「頑張ってね」
何人もの冒険者からお駄賃と称してポケットにお金を突っ込まれるせいでポケットがパンパンに膨らんでいた。
「可愛がられてるわね」
「こんなとこじゃ、あんな可愛い子いないから当たり前だろ」
「アンタが言うと違う意味に聞こえるんだけど」
「まぁ、イリガルが幼女性愛でも別に構わんが、変なことは起こすなよ」
「しねーよ!!いい加減にしろ!!」
他の机でチーズを食べている冒険者が言う。
「しっかし、こうして見ると可愛いもんだな」
「ホント、ホント」
「食べちゃいたいぐらい」
「……何言ってんだよ」
背の高い冒険者が酔いながら聞く。
「シン、おめーこの娘っ子に何て呼ばせてんだ?」
「そういや何て呼んでんだ?」
「マスターとか?」
「いや、シンのことだから様づけとかじゃねーの?」
「俺!ご主人様って呼ばれてー」
口々に言い合う冒険者を見てニーニャが尋ねる。
「で、何て呼ばせてるの?」
「呼ばせ方?……イリア、お前俺のこと何て呼んでたっけ?」
「……呼んだことないです」
「だってよ」
その言葉に盛り上がる。
「じゃぁ、今ここで決めようぜ!」
「いいな!それ!!」
「シンは何て呼ばれたいんだよ?やっぱり、ご主人様とかか?」
呆れた顔をするシン。
「奴隷が奴隷にご主人様とか呼ばせてるのとか情けないにもほどがあるだろう…何でもいいよ、好きにしてくれ」
そう言って野菜を刻み始める。
「イリアちゃんは何て呼びたいんだ?」
「好きに呼んでいいって言いやがったからゴミ!でもいいんだぜ」
そう言って笑った男の机に包丁が刺さる。
「馬鹿なこと言うと刺すぞ」
「すいませんでした」
「イリアもあんま酔っ払いの相手するなよ」
その言葉で冒険者達が文句を言う。
周りを囲まれてイリアにスフィニャが助け舟を出す。
「とりあえず、呼び合うのは決めた方がいいと思うにゃ。何て呼ぶのかとりあえず言ってみるにゃ」
「そうそう」
「流石、マスター!料理は不味いけど正論だ」
「料理は関係ないにゃ」
そして全員の視線がイリアに集まり、事の本人はおどおどする。
「ほら、ものは試しで言ってみなって」
「呼び捨てでも許してくれるよ…多分」
口々に言われイリアは困った顔をしてシンを見る。
「呼びたいように呼んでくれ」
その言葉で決心した顔になり、周りが自然と静かになる。
「あの………ぱ…って呼んでいいですか?」
声が小さく聞こえない。
「ん?何て?」
「ほら、頑張れお嬢ちゃん」
「しっかり声だして!」
拳を握り締め、イリアはシンを見て口を開く。
「ぱ、パパって呼んでいいですか!!」
一瞬、周りが静寂し誰かが呟く。
「パパって言った?」
「俺はそう聞こえたけど……」
「パパって呼びたいの?」
女性冒険者が優しく尋ねると顔を真っ赤にしながらイリアは肯定した。
「はい……だ、駄目ですか?」
その瞬間、全員が笑い始めた。
「おと、ぱ…ぱって、ぷぷぷぷ」
「シンのやつがパパ…パパ、はっはっはっはっは!!腹がよじれる」
「ぱぱ…パパ…ひひひ、っははは!」
机を叩きながら笑う男や床で腹をかかえ転がる女性、お酒を噴出す獣人などが出始めた。
「で、でも好きに呼べって言ってたからいいんだよな!シン!!…いや、パパ!!」
「やめろ!!……笑い死ぬ…がっはっはは」
「パパー!!お酒追加して!」
「こっちも頼むよ、パーパー」
全員が笑って騒がしい中、シンは硬直していた。
ぱぱ?ぱぱって言ったよな……ぱぱってあの?
何で?え、えーなんで?
「駄目ですか?」
涙で目をうるわせながら尋ねてくる。
「いいだろ!!シン、好きに呼べって言ったんだから!!」
「そうだ、そうだ!」
「パパー!」
「だから、やめろって…くくうくくー」
肩を震わせ笑いを我慢する男を殴ってやろうかと一瞬思った。
カウンターでは
「パパ…パパ、いいな!そういうのもあるのか…」
イリガルが感嘆した声を出していた。
「どうするの?パパって呼ばせるの?」
「いや、待て!流石にパパはねーよ!!パパは!!」
その言葉で泣く一歩手前の顔になるイリア。
それを見て、周りが次々と抗議の声をだす。
「好きに呼べって言ったんだから、パパでいいだろ!!」
「自分で言ったことも守れないのか!!」
「くずーごみーぱぱー」
「イリアちゃん泣かせるの反対!反対!」
何だこいつら……自分のことじゃないからって…しかもイリアは泣きそうだし、何でパパなんだよ…
せめてパパは勘弁して欲しい、後ろからパパーとか呼ばれるのを想像するだけで死にたくなる。
とはいえ、この状況で拒否なんてできる状態じゃない…
「パパはやめてくれ…そ、そうだな代わりに、おとうさんじゃ駄目か?」
「……おとうさん」
イリアは口に出して呟いている。
「だ、駄目か?」
首を横に振って、否定する。
「これでいいです!おとーさん!!」
満面の笑みだった。
何人かから可愛い、て、天使だという声が漏れた。




