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咆哮

すみません、仕事で忙しく遅くなってしまいました。



「大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。道の方は頼むぞ」

「はい」


ポータルを目指して急ぐが、傷のせいでどうしても遅くなってしまう。

前日とは違いイリアを先頭にし道を消しながら堅実にポータルまでの距離を詰めてゆく。

折れてない片手で汗をぬぐいながら思う、このダークエルフはよくやってくれていると。


「イリア、一端休むぞ」

「はい」


木にもたれかかり休む。

水分の詰まった果実を齧り、お互い一息つく。

昨日の一件のせいかイリアはシンの体調を気遣い、これまでと違い、シンに率先するようになった。


「大丈夫ですか?傷は?」

「大丈夫だ。そんな心配そうな顔をしなくてもいい」

「わかりました。でも、何かありましたら」

「大丈夫だ」


イリアの言葉をかき消すように言う。

ここまでに何度もイリアの力を使ってきた、イリアの体力のこともある。

道を消せなくなったら、無事に戻れる可能性が一気に減る。

それにはぐれの事もある。流石のはぐれもあの傷では流石にこちらを狙ってくることはないだろうが、もしものこともある。


「そろそろ行くか」

「はい」


そう考え、体に少し無理をいわせることにする。


「では、道は任せて下さい」

「ああ」


二人は歩きはじめる。


痛い、痛い…体が痛い。はぐれは横たわり体を休めていた。

体を動かすと体に痛みが走る、切られた腕の切り口を舐める。

血は止まったが切られた先は生えてくることはない、鼻の傷もだ。

これのせいで息もしにくい。

初めての経験だらけだった、獲物に傷をつけられたのも、獲物を前にしておめおめと逃げてきたのも、全てが初めてだった。

唸り声をあげる。

分からない、今までに喰えない奴はいなかった。

それなのに…

咆哮をあげる。木々から鳥が逃げてゆく。

絶対に殺してやる…喰らってやる…

多分だが、アイツらの行く場所はあそこだと思った。立ち上がり体を動かすが、痛む体で悲鳴がでる。

その痛みを我慢し目的地に向かい走る。捕食者としての誇りの為に。


「はっ!!」


声と共に魔物の結晶を片手のナイフで突き刺す、これで四匹だ。

イリアの力が通用しないのは何匹かはいたが、前より多い。一日に一、二匹ぐらいだったのが今日だけで四匹目だ。

運が悪いとしかいいようがない。

…まぁ、運が良かったってことのほうが少ないか。


「イリア、そろそろ着くが。大丈夫か?」

「はい」


草を掻き分け、茂る枝を手で振り払い、ようやくそこに辿り付くことができた。

ここに来る時に使った扉が見える。


「ようやく、着いた」

「よかった…」


シンはポータルに近づき扉を開けようとする。

それが油断だった、シンにしては珍しい油断だった。

ドアノブに手が触れる瞬間に咆哮と共にこちらに走ってくる影が見えた。


「なっ!?」


まだ、狙ってやがったのか!?

とっさにイリアを庇う形で前にでる、その瞬間を咆哮の主はぐれリアディノは見逃さなかった。

シンを突進で吹き飛ばす。


「っ痛!」


はぐれの足が倒れたシンの体を踏みつける。

あばらの折れる音が聞こえた、ナイフに手をやろうとするがその手をはぐれは喰らいつく。

肉が千切れる。


「ああぁあぁあー!!」


あまりの痛みで悲鳴がでる。完全に押さえつけられているせいで動くことができない。

痛みで頭が真っ白になる。


「駄目!!」


イリアが震える手でナイフを持ちはぐれに向かって叫ぶ。

突然の声にはぐれはシンを襲うのを止め声の主をみるが、目は潤み、今にも泣きそうな顔のイリアを見て脅威はないと判断する。


「やめてください!!」


再び叫ぶ声がするが、はぐれは意に介さずシンを再び喰らおうとする。

その様子を見て泣きながらはぐれに向かって走る。


「や、やめて…やめてくだ、さい…やめて!!」


はぐれの顔を掴み、シンを食べさせないようにするが、すぐ振り払われはぐれの片手で吹き飛ばされ地面に転がる。


「何してんだ、はやく逃げろ!!ポータルん中に行け!!」

「で、でも…」

「戻って救助を呼べ!!そうすれば、助かるから、行け!!」


無論、イリアが戻って救助を呼んだところで間に合う確立はかなり低いのはシン自身も分かってはいた。

だがこれならイリアは助かる、なら助かる方を優先するのは当たり前だ。


「で、でも…」

「はやくしろっ!!」


はぐれは鋭い牙が並んだ口を広げ、シンの腕に再び喰らいつく。

その様子が目に入る、イリア。このまま自分だけポータルに入ることはできなかった、自分を奴隷ではなくパートナーとしてくれた人を見捨てたくはないし、失いたくなかった。

なのに自分はこの状況で何もできない。役に立たない。

このままではあの人は死んでしまう…それは、嫌だ…

嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!!

その場で立ち上がり口を開く。


「やめて!!」


さきほどよりも、大きい声にはぐれは反応しイリアを見つめる。流石に目障りになったのだろう口を開け吼え、イリアに向かって歩き出す。


「逃げろ!おい!!」


襲い掛かるはぐれの目をイリアが見つめる。

目が合うと、はぐれが不意に止まり後退しはじめる。

怯えるように一歩二歩と下がっていくが、やがて止まる。

そして小さく一鳴きした瞬間はぐれの目が破裂し、その体がゆっくりと倒れる。


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