睨みあい
腕の先から血が滴り落ちていた…
一瞬何が起こったのか分からなかった。痛い…意識が否応なしに自分の腕にいく。
ない…ない、ない!!腕が!どんな獲物も狩ってきた自慢の腕が!
こいつが…こいつが!!
初めてだった、獲物に反撃されるのは。
自分の腕を奪った獲物を睨みつけ怒りに任せて咆吼する。
目の前で怒り狂うはぐれを睨む。
わざと無防備な背中を晒していたのだが見事に引っかかってくれたようだ。
これではぐれが俺達を狙ってるのは分かったな…
血走った目で睨んでくるはぐれを睨み返しながらそう思った。
しかし、できることなら腕じゃなくて首が欲しかったところだが…まぁ、俺に意識を集中してるのは悪くない状況だな。震えているイリアもみてそう思う。
蛮刀を構え、はぐれと対峙する。
はぐれは口を大きく広げシンに喰らいつこうとするが、それを避けられ、はぐれに隙ができる。
その瞬間を逃さずにシンは蛮刀を振り上げるがはぐれが振り回した尻尾に邪魔をされ、吹き飛ばされる。
先に尻尾だな。狙いを変えはぐれの尾を狙い切りつける。
はぐれから悲鳴が聴こえるが、浅い。さらに深く切りつける。
顔に血が飛び散るが気にせずに蛮刀を振り下ろす。
切れた。
地面に落ちた尻尾が別の生き物ように地面で飛び跳ねる。
すさまじい悲鳴が森中を木霊し、はぐれは辺り構わずにその体をぶつけようとする。
頭に血が昇ってやがる。
それでも、シンを狙っているのは頭の片隅にはあるようで体が木にぶつかるのも構わずに突進を繰り返す。
さらに、咆哮をあげ突進をしようとする。
動きが単調だから避けやすい、このままいけばどうにかなるな。
当たらないように距離をとる。
体の鱗は剥がれ血だらけになりながら、止めようとはしない。せめて、一撃ををこの獲物にくらわさなければ腹の虫が治まらない。
もう一度、仕掛けようと血走った目で獲物を捉えようとした時、視界に写ったものがある。
雌の方だ。
体は震えていて明らかに戦意がないのが分かる。
…さきに、雌をしとめよう。
あれを喰らえばこの怒りも多少は収まる気がする。
はぐれの動きが変わったことに気づいた。さきほどより、理性を持った目をしている。
逃げるのか?いや…
はぐれの視線に気づき、思わず舌打ちをした。
「イリア!!逃げろ!!」
声を上げるが、イリアは動けない。
体を震わせ恐怖でその場から動くことができない。完全にすくんでしまっている。
イリアに向かって走り出す。
はぐれの口がほんの少しでイリアに齧りつく、その瞬間、どうにか間に割ってはいることができた。
が、はぐれの牙がシンの二の腕に喰らいつく。
「っ!!」
深々と刺さり、血があふれ始める。
悲鳴を上げそうになるが、押し殺す。頭を捻って噛み千切ろうとしているのが、分かる。
噛まれてないほうの腕で懐のナイフを取り出し、鼻につき立てる。
悲鳴をあげ口を離す。
牙が腕から離れるが少し肉を持ってかれる、二の腕からぶちぶちと嫌な音がする。
はぐれはそのまま、茂みの奥に逃げ込んだ。
「どうにか…追い返せれたか…」
その場でくずれ落ちる。
震える足でイリアが倒れたシンに這うように近づく。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
顔をくしゃくしゃにし泣きながら、謝る。
「泣かなくていいから、包帯と薬草出してくれねぇか?」
「ぐすっ…は、はい」
鼻をすする音と共にイリアはバッグから包帯と薬草を出し、手渡す。
受け取った薬草を噛み、傷口に押し当てその上から包帯を巻く。殺菌作用があるから化膿することはないだろう。
骨まではいってないが念の為に添え木で固定する。
「私が…」
「気にするな、よくあることだ。ダークエルフと一緒だと不幸が起こるなんて迷信だよ、迷信。気にするな」
イリアの言葉を遮り言う。
「とりあえず、はぐれもあの傷なら襲ってはこないだろ。寝るぞ」
「で、でも…」
「いいから寝ろ、俺も寝る。明日にはポータルで戻るぞ」
「…はい」
痛む腕を我慢して、目を瞑る。
指は動くから使えなくなるということはあるまい。添え木を触りながら、ぼんやりと思う。
明日には戻ることはとりあえずできるだろう…それを考えたのを最後にシンは深い眠りに落ちていった…




