酒場
シンは床の上で目を覚ました。
どうやら、ベッドから落ちたらしい。
硬い床の上で寝ていたせいか体の節々が地味に痛い。
「ふぁーぁー」
欠伸をする。
相変わらず狭い部屋だ、天井裏ってのもあってか閉塞感が半端ない。
閉所恐怖症の人だったら一日ももたないだろう。
しかも、これで家賃が月五万五千なのは詐欺ではないだろうか、まぁ、保証人もいないし元奴隷の身分としては仕方がないのは分かるが。
腑に落ちない。
部屋のドアを開けて階段を降りていく、鍵は勿論しめない。
盗まれて困るものはない。
一階は酒場になっている、カウンターの向こうから声がかかる。
「おそようにゃぁーもう、お昼過ぎだにゃ」
「おはようさん、昨日は忙しかったんだ。しょうがないだろ」
二足歩行で歩く、人間サイズの猫にあいさつをし返す。
この酒場のマスター兼上の宿の大家をしている、獣人のスフィニャだ。
カウンター席に腰をかける。
「マスター飯くれ」
「はいにゃ」
肥えた体を揺らしながら、サンドウィッチを作る。
「はいにゃ」
皿の上に乗ったサンドウィッチにかじりつくがシンの顔は渋い顔になる。
「まずっ」
「今日は自信作だったんだけどにゃぁ」
「いや、何でサンドウィッチを不味くできるんだよ。おかしいだろ、パンに具材を挟むだけだろ。何か変に苦いし甘いんだよ」
「文句を言うにゃら、作らにゃいよ」
「じゃぁ、食費分を家賃から差し引けよ」
「それは断るにゃ」
クソ、守銭奴め。
心の中で毒づくがどうしようもない、我慢して不味いサンドウィッチにかぶりつく。
酒場のドアが開けられ、獣人が入ってきた。
「いらっしゃいにゃ」
シンと同じカウンター席に座る。
知っている顔だ。
「ニーニャか」
「こんにちは、シン」
ニーニャと呼ばれた女性は頭の耳をピコピコさせながらあいさつををする。
そして、シンの食べているものを見て苦い顔をする。
「シン、またそんなの食べてるの?」
「そんなのとはひどいにゃぁ…」
「家賃代に含まれてるんだから、しょうがないだろ。喰わなきゃもったいない」
「そうかもしれないけど…よく食べられるわね」
ニーニャはオレンジジュースとチーズを頼む。
調理が必要のないものだけを頼む。
スフィニャが調理するとどんな食材でもおいしくなくなるのは有名な話で、ここで注文するときは調理の必要のないものを頼むのが暗黙の了解となっている。
「一個くれよ、チーズ」
「しょうがないわね、はい」
チーズを一個貰い、口にいれる。
「うまいな、これを不味くできるマスターは天才だよ」
「それ以上言うと三枚卸にしてやるにゃ」
「へいへい、すみませんね」
オレンジジュースを飲みながら、ニーニャが口を挟む。
「そう言えば昨日、遅かったけど何してたの?」
「仕事だよ仕事、大王マイマイの殻を集めてた」
昨日はホントきつかった、大王マイマイという二メトールサイズのカタツムリの殻を手に入れる為に湿地帯を走りまわった。
大王マイマイの見た目が嫌悪感を抱き命にもかかわる為に誰もやりたがらないのだが、それにも関わらず賃金は安い。
命をかけて、六千しか貰えなかった。
「それは、大変だったわね」
「だろ」
三年間もこの世界にいるのだが、まるっきり生活がよくなる気配がない。
寧ろ、働けど働けど苦しくなっていく気がしてならない。
これも元奴隷というのが大きい。
信用と市民権、この二つがないせいだ。
この世界にきて右も左もわからないまま奴隷にされてしまったのが運のツキとも言えるが、真面目に二年働けば市民権を登録してくれる、いい貴族の奴隷になったのだが奴隷として働くのが嫌になって脱走したのが、一番の失敗であろう。
結果的にこの生活なのだから、自業自得かもしれない。




