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都市伝説議事録 パート1  作者: 木形之人
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都市伝説議事録 パート2

 『亡霊電話』


 私の恋人はあっさりと交通事故で死んでしまった。仕事の都合で遠距離恋愛になったのと忙しかったと言うことがあり会う都合がつけられなかった。私と彼が対面した時には百七十近い身長、二重ときれいな瞳、病的に白かった肌、華奢と言う単語が似合う体型、低すぎず高すぎない安心できる声、子供のような甘い香り、普段は凛としているのに二人きりになったら甘えてくる性格、サプライズ好きのロマンチストその全てが十五センチ程度の四角い箱に変貌していた。

 私に残ったのは追いつかない感情と身動きできない現実だけ。

 あの時に泣ければこの感情は整理できたのかな、一か月丸々有給が取れるほど働かなければ忙しさが解決してくれたのかな。

 投げかけた疑問はただ虚しく空っぽな私の部屋の中に消え去るだけだった。

「ねぇ、凜太郎」 

 ――ん?

「どこにも行かないって言ったくせに」

 ――そうだったか?

「うん、転勤するときに、心配するな。俺たち愛情はこの程度の障害どうってことないって言ってた」

 ――いや、それ言ってないだろ。

「同じ意味じゃない」

 ――違うだろう。

「凜太郎の嘘つき」

 ――だからこの脈絡で嘘つきとかありえないと思うぞ。

「凜太郎の嘘つき」

 ――…………。

「凜太郎の嘘つき」

 

 独り言はいつもみたいに私の胸の奥で悲しみと一緒に染み込んできた。

 どれだけ悲しみで胸がいっぱいになっても私の中から情動がこぼれることは無い。行き場の無いこの感情はいつか私の胸を切り裂き殺すのかな、それとも破裂して壊れてしまうのだろうか。


 ――trrrr trrrrr.

 私は久しぶりに聞いた電話の着信音に驚いた。

 今までは仮に鳴っていても全く気付かなかった。とても長い時間誰とも話していない気がしたので取りたくなかったはずだが、私の体は意思とは別に受話器を手に取る。

「も……――」

『もしもし、今駅前にいる……』

 受話器から聞こえてきた声は凜太郎のものだった。何かを言おうとしたが驚愕とすぐに電話が切れたため何も言えなかった。

 

 ――trrrr trrrrr.


 受話器を置いた瞬間また電話がかかってきた。

 私は恐る恐る受話器をとる。

『もしもし、今市役所にいる……』

 またすぐに切られてしまった。

 いったい誰がこんな事たちの悪いいたずらを?

 それにだんだん近づいてきている。


 ――trrrr trrrrr.


 また、受話器を置いた瞬間にかかってきた。

 一瞬とるのをためらった、しかしそれでも彼の声を聞ける欲求には勝てず、気が付くと受話器を耳に当てていた。

『もしもし、今橋の上にいる……』

 凜太郎はもうすぐそこまで来ていた。

 今すぐ家を飛び出し、近くにある川のほうまで駆け出したい。しかし、行って本当に居なかったらどうしよう。そう思うと一歩も動けずにいた。


 ――trrrr trrrrr.


 鳴り響く着信音が現実味を消していく。

 私は何かに操られるように受話器をとった。

『もしもし、今玄関の前にいる……』

 私は受話器を放り出して急いで玄関に向かい扉を開けた。そこには――


 ちょうどチャイムを押そうとしている運送業者がいた。

「え、あ、その……。牧瀬まゆりさんのお宅でよろしかったでしょうか?」

「あ、はい。そうです」

「では、こちらにサインお願いします」

 手渡されたボールペンで指定された場所にサインを書こうとしたが、妙に聞きなれた声がしたので運送業者の顔をもう一度見た。

「あ、あなた!」

 その運送業者は凜太郎の後輩だ。正体がばれたのを察した彼は慌てて荷物を私に押し付けてきた。

「では、こちら荷物になります」

 そして、まだサインを書き終えてない証書をひったくり駆け足でいなくなってしまった。

 少し小さめの紙袋を片手に呆然と玄関の前に立ちつくす。彼が完全に見えなくなると荷物の中身が気になり始めた。

 私はリビングにまで戻り、すっかり切れ味の悪くなったはさみで開け口に貼り付けられているガムテープを切っていく。

 中に入っていたのは十センチ四方の何の変哲も無い箱だった。

 電話のせいで凜太郎を彷彿とさせるその箱を開けるのは躊躇われたが、ここまで来たら開けない事にはいかないだろう。

 それに私はどこか期待している。

 本当にこれを開けると凜太郎がまた私の目の前に現れるのではないか。

 今までのことが仮にすべて夢でもいい。

 そんな奇跡を期待して箱を開けた。

 だが、そんな奇跡起こるはずなかった。

 当然だ……。ここは紛れもない現実なのだから。

 中に入っていたのは一枚の手紙と最後にデートした時私が欲しがっていた指輪だった。

 手紙には短くこう書かれていた。


『会えない日が続くだろうが、いつまでも愛しているよ。誕生日おめでとう』

 

 携帯の画面を見ると確かいに私の誕生日だった。不意に画面に水滴落ちてくる。

 その手紙を見た私は自然と泣いていた。

「う、うわぁぁぁぁぁぁ」

 すべてが追いついてきた。

 私の胸の中に溜まっていった悲しみも、彼が死んだ現実も、すべて今になって追いついてきた。

 そう、凜太郎は死んだんだ。

 もう声をかけても届かない。

 もう笑いかけても答えない。

 もうじゃれ合おうにも触れられない。

 でも、私は前に進まないといけない。

 彼はこの世にはいない。

 彼は目の前に現れない。

 でも、私はしっかりと生きなくてはいけない。

 まだ、大丈夫とは言えないけど。

 今は、

まず、

彼に、

『ありがとう』を言いに行こう

 そして、

 その次に、

『さようなら』を言いに行こう。



 ―END―


こちらは第二話です。あとはそのうち書きます。

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