耳鳴り
俺が突き飛ばしたあの女、そして上原。
今思い返してみるとかなり厄介なことをした。
あれは影縫火蓮と上原走真だ。
上原は成績優秀、運動神経も抜群、能力の才能もあるという絵に描いたような天才君。
そしてなかなか顔も悪くない。だが、奴を有名にしたのはそれらだけじゃない。
アレの最大の特徴と呼べるもの、称号や代名詞とも呼べる言葉。
それは"女好き"。
とりあえず少し自分に気があると思ったらスゴイ勢いで食いつく。
はっきり言って、基本は勘違いらしが・・・・・・
今まででも何十人と、数えられない女たちに食いついていると噂では聞いている。
きっとその新しい標的があの影縫なんだろう。
そしてあの影縫。
どんなこともNo.1を取る超人。
でもなぜか影が薄いらしく、ファンもいるぐらいの有名人なんだが見たことがある人間は少ないらしい。
今日になるまで俺も見たことはなかった。
この学校の何人かいる天才の中の二人。
そんなやつらと何か事件を起こしたらめんどくさいことになるのは逃れられないな・・・・・・。
『ちょっと、朋也くん聞いてるのっ!?』
『え?』
急に聞こえてきた声に驚き、寝ていた俺は目を開き飛び起きる。
『なんだ・・・一樹か・・・・・・』
『なんだじゃないよ、ずっと探しててもしかしてと思ったけど、やっぱり屋上にいるし』上原たちから逃げてきた後、俺は屋上で日向ぼっこをしていた。
そこに俺を探していたらしい一樹が目の前に現れた。
こいつは阿久津一樹。
俺の小学校の頃からの幼馴染、そして今になっては唯一の俺から会話をする相手。
『にしても今は授業中だぞ一樹。なんでここにいるんだ』
ちなみにここに来てもう20分は経っていて、授業も15分ぐらい前に始まっているはずだ。
『なんでって、そりゃ朋也くんが授業サボってるから探しに来たんだよ』
『だからってなんで授業中に・・・・・・』
『先生に頼まれたんだよ・・・探しに行ってくれる人がいないからって僕に回ってきて・・・・・・いや・・・確か西原さんが手を上げようとしていたような・・・・・・』
西原・・・・・・なんでまたあいつが・・・・・・
『聞いてるの、朋也くん?』
『あ、あぁ。すまない、ありがとうな一樹。そして無駄足だったな、俺は今から戻る気は無いぞ』
と、俺は普通に授業をサボる宣言をする。
そりゃそうだ。今から帰っても説教をくらいに行くようなものだ。
俺の回答を聞き、一樹も諦めたのか俺の座る隣に腰を落とす。
『はぁ・・・言うと思ったよ・・・・・・。そういえばなんか騒ぎがあったみたいだったけど』
もう広がってるのか・・・本当に厄介な相手だ。
ただ廊下でぶつかっただけなのに。
それにぶつかった相手は上原自身ではなく影縫にじゃないか・・・・・・いや、それがマズかったか・・・・・・・・・
『ま、まぁ気にするな』
『その反応・・・やっぱり朋也くんも関わってるんだ・・・。上原くんが廊下を走りながら、欠陥品はどこに行ったとか叫んでて結構な騒ぎだよ』
めんどくさすぎる・・・このままじゃやつが忘れるまで平穏な毎日が遠ざかっていく・・・・・・
『にしても目立つのが嫌いな朋也くんがあの上原くんと関わっているなんて、さらにその後ろには影縫さんがいるらしいじゃない』
『べつに俺だって関わりたくてあいつらに関わってるわけじゃないさ』
『じゃあどうして?』
いや・・・・・・どうしてって・・・・・・・・
キーンコーンカーンコーン─────────────
ちょうど言い訳を探している最中に授業終了のチャイムが鳴り響いた。
『あ、授業が終わったみたいだね』
ナイスタイミングだ
俺は少し笑みを浮かべながら一樹に一言。
『一樹』
『ん?』
俺は少し声のキーを下げ、真剣な眼差しで一樹を見据えながら言う。
『昼の時間だぞ』
『っ!!』
一樹は俺の言葉に反応し、さっきまでとはまったく違う顔つきになり、その場に立ち上がる。
『朋也くん!!お昼だ・・・ご飯だ・・・・・・戦争の時間だよっ!!』
そう一樹は告げた後、全速力で走り出し屋上から立ち去った。
『ふう・・・単純な奴でよかった』
俺は一つ難が去ったかのようにため息をつく。
一樹は単純・・・というか一つにとりあえず夢中になりやすい。
例えば先のようにとても昼飯を愛している。
なぜかと尋ねるといつも日が暮れるまで語りだすから、理由なんて覚えていない。
他の例と言われると、これといって思い浮かばない。
自分でも言いたくないが、あえて言うなら俺だ。
一樹だけはいつまでも俺の友達でいてくれる。
中学の頃からの知り合いは他にもいたが、彼らはもう俺のことを友達だなんて思っていないだろう。
どうしてそうなったか。
そんな過去の話は思い出さないようにしている俺だが、どんな風の吹き回しか俺は思い出に浸り始める─────────────
それは・・・そう、だいたい二年とちょっと前、中学二年の二学期の話。
俺と一樹がまだ中学生。
つまり俺がまだ"欠陥品"と、呼ばれる前の話だ。
◇ ◇
『ついに我が学校にも魔力石が配布されるようになった。でもまだ一年はもらってないから、あんまり自慢とかしすぎてケンカになるなよ』
『ハーーイ!!』
中学二年の二学期の始まり。
俺たちの学校にもついに政府から魔力石が支給され、俺たちも夢にまで見た能力者になる時がきた。
この時、魔力石の国内配布率はだいたい45%。
高校から現役で働いている人間はほとんどが能力者だった。
中学で能力を持っていることは、特別珍しいわけではなかったが。
あの時、周りの中学生にあまり能力者がいなかったからきっと興奮気味、いや興奮していたのだろう。
その時。
中学二年のクラスでも一緒だった一樹と俺は、どんな能力を手にするのかなどと話し合っていた。
確かあの時俺が欲しかった能力は、氷を操る能力だった気が・・・・・・
まぁそんなことは昔の話だ。
そこからは簡単な話。
クラスの全員で一斉に手首に魔力石を突き立てた。
あの時の周りの歓声は凄かったな・・・・・・
誰が何を言っているかなんてわからないほどの大声を出して、自分の手首の印を見て喜んでいた。
一人の少年を除いては。
印が現れなかった俺は先生に印についてを尋ねた。
『先生、俺の手首なんにも出てきてませんよ』
『本当だ。ちゃんとやったのか?』
『はい。だって石、消えちゃいましたし』
『確かにそうだな・・・・・・』
先生もこの時は、この結果が何を意味するのかは知らなかったらしい。
俺の異常に気付きクラスが少しずつ静まっていく。
『まぁ、特に以上がないみたいだし。とりあえず少し待ってみよう。もしかしたら凄い能力かもしれないぞ』
『マジかよ!!いいなー朋也』『ずるいぞ、夜咲だけ』
先生の一言にクラスの人間が反応し、また湧き出した。
俺もこの時は浮かれて、クラスの人間とともに騒いでいた。
が、次の日。
俺は授業中にも関わらず、先生に連れられ校長室に連れ込まれた。
先生の顔は俺が見て、はっきりわかるほど真っ青になっていた。
校長室前に着き、先生はノックをして部屋に入ろうとする。
『し、失礼します。夜咲朋也くんを、連れてまいりました』
震える先生の声の後、中から校長の声がして部屋に入る。
そこには、校長、教頭、そして俺の母さんがいた。
『どうしたんだ、母さん』
『どうしたじゃないわよ。あんたが何かしでかしたんじゃないの?』
『それについて、今から説明させていただきます』
と、校長が丁寧に俺と母さんに話しかけ始めた。
この時、俺は少し感づいていた。
教室に入った時の、一部の者からの不審な視線。
そしてこの話が先日の、石の印が出なかったことについてだということ。
『えぇ・・・・・・朋也くん・・・お母さん。冷静に聞いてください』
この男の一言のせい・・・ではないが、この瞬間から。
『昨日の魔力石配布で、彼の手首に印が出なかったことに関してですが・・・・・・』
いや、昨日の魔力石を、手にした時から。
『ごくまれに、本当にごくまれに。何億分の一の確立とも言える人間も数人なったという例がありまして・・・・・・』
俺の人生の
『その結果・・・大変申し上げにくいのですが・・・・・・』
歯車がずれていった。
『能力が無い。無能力、という結果が出ました』
◇ ◇
『朋也くん遅かったね』
屋上を後にした俺は教室に戻り、昼食を取ろうとしていた。
先に屋上から出た一樹はすでに、戻ってきて俺の席で昼食を取っていた。
俺の机の上を見ると、一樹の昼食であると思われる食べ物で溢れかえっていて、ほぼ占領された状態だった。
『俺は一樹と違って少食だから焦らなくていいんだよ』
『僕だってそんなに食べてないよ。時間があればもうちょっと食べたいぐらいなんだから』
一樹は、俺に胸を張って訴えてくる。
まだ食べたいって・・・・・・・
表面的に見えてるものだけでも、手作りの弁当・各種パン×6・コンビニ弁当×3・etc.....
怖いな・・・・・・
そんなことを考えながら机の横に掛けてあるカバンの中から、朝登校する際に買ってきたパンを取り出し俺も食事を開始する。
『朋也くんは今日もパンだけなの?』
急に一樹が俺の食事風景を見ながら質問してくる。
『基本そうだろう』
俺は、素っ気無い言い方で回答を投げかける。
『それじゃあ体に良くないよ。明日から僕が作ってこようか?』
『絶対にダメだ』
俺は即答する。
『酷いよ朋也くん即答なんて。僕は朋也くんを心配して言ってるんだよ』
と、一樹は俺に真剣な眼差しを向けながら言ってくる。
『わかってる・・・その気持ちは嬉しいんだが・・・・・・・・・』
俺は語尾を誤魔化しながら昔の出来事を思い出す。
昔にも同じことがあって、俺はその時了承してしまった。
そしたら酷いことに次の日。
一樹は五段重ねの重箱を抱えて学校にやってきた。
食べきったのかって?
愚問だな・・・・・・
あの後俺は地獄を見たことは言うまでも無い。
『とりあえず気持ちだけは受け取っておくよ』
『そっか、それならしょうがないね』
一樹は笑顔でそう返してきながら、いつの間にか食べ終えた昼食のごみを片付けている。
『ごちそうさまでした』
満足そうな顔で手を合わせる一樹。
『さて』
俺はそれを見届けた後、俺も食べ終わり席を離れようとする。
『どこか行くの?』
『ちょっと手洗いにな』
『あ、僕も行くよ』
俺たちはそんな会話をしながらドアに向かう。
そしてあと少しで教室を出る、というところで。
ザアァァァァァァァ!!─────────────
急に頭の中に直接流し込まれるように、大音量のノイズと頭痛が走る。
『グッ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
まるで頭の内側をドリルなどで抉られるような痛み。
さの強烈な痛みに、俺は叫びながら頭を抱え倒れこむことしか出来なかった。
『とう───か────く──────』
遠くから一樹の声と思われる音が聞こえるが、全てノイズに潰され聞こえなくなる。
ノイズが頭に響き始めてから五秒ほど経ち、一本の透き通った女性の声が頭に響いてくる。
"選ばれし能力者達よ。我が名は、ナビィ。この、神を決める聖戦の案内人。
貴様らは、我の主によって選ばれた聖戦の参加資格を持つ者、覚醒者だ。光栄に思うがいい。
この聖戦の勝者は、この世の全てを手にする。
神になる権利が与えられる。それと同時に貴様ら欠陥品の能力の開放、この世に散りばめた個体を己が欲望の為の駒として扱う権利を与えよう。
争え。命を奪い合え。己の正義が向く方へと突き進み、阻む者を消し合え。
参加者は貴様らの近くにいる。が、まず原則として、初めに誰か一般の能力者と戦闘をし、そのものを、駒として側に就かせるすることとする。
全員が一度戦闘をしてから、貴様らに出した使いが連絡を入れる。
それまで覚醒者同士による戦闘は禁ずる。しかし、まだ情報の少ないこの状況ではどうしようもないだろうがな。
それでは、聖戦を始めよう─────────────"
『っ!!』
頭に響くナビィと名乗る女の声が消えると同時にノイズが消える。
『はぁ・・・はぁ・・・・・・』
体中には制服が体にべったりとくっつくほどの汗。
そして頭痛の影響で意識が遠のいていくのがわかる。
最後の力で意識を取り戻そうとドアの方を向きながら起き上がろうとする。
そこで俺は、朧げな視界に誰かの脚が見えたのに気付く。
一樹のものじゃない・・・じゃあ誰の・・・・・・・・・
そんなことを考えながら俺は沈むように体が崩れていく。
そこに聞こえた少女の声。
『見付けた─────────────』
それが誰だったか。
そんなことは、気を失ってしまった俺には知る術はなかった。