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Stone memorieS  作者: るるブーン
一つの灯火
2/5

天才と天災




雲が流れていく。

大きな雲、小さな雲、可笑しな形の雲、色の薄い雲、濃い雲。

多くの形、特徴を持ち。同じものであり、一つのものではないまったく違うもの。

そう、それは人も同じこと。

キーンコーン、カーンコーン─────────────

チャイムが校内に鳴り響く。

俺は起き上がり屋上を後にするため歩き出す。

授業が今終わり、遠くから生徒たちの談笑が微かに聞こえてくる。

屋上は基本入ることはできないのだが、俺のような常連は鍵を開ける方法を覚えてしまっている。ちなみに常連とは、屋上に来る常連のことだ。

普通ここへはサボりを目的として来るのが大方だが、俺は違った。

授業をサボっている訳ではなく、授業に参加ができないのだ。

『次の授業はなんだっけ・・・・・』

俺は呟きながら空を見上げ立ち尽くす。

遠くから生徒たちの談笑が聞こえてくる。

さっきの時間の授業は特別開発、通称・特開(とくかい)と呼ばれる授業だ。

去年の春から全国の小・中・高校の授業に導入された教科であり、個人が持つ能力の制御に慣れるのが目的とされている。

が、一部ではこの国の戦力増強とも言われている。

しかし俺にとっては関係のないこと。

この高城学園二年一組の俺、こと夜咲朋也(やさきともや)は成績はそこそこ、運動神経もそこら辺の奴らよりは少しいいというぐらい。

しかしそれ以外に俺が授業に参加できない理由がある。

なぜなら俺は


欠陥品だから─────────────


《欠陥品》。それは手首に印を持たない者、能力を持たない者、神に見放された者。

現在の世界で最も必要のないとされている人間を指す差別用語。

世界ですでに二十人弱いると言われていて、そのほとんどが日本。

さらに言えばこの海別(かいべつ)市内に集中して分布している。

そして欠陥品の人口は、今でも指で数える程だが増えている。

そんな能力無しがなんのためにそんな授業を受けなきゃいけないのだろうか。

俺の場合は教師に許可をとっているから休ませてもらっている、という形になっているが。

はっきり言ったら逆だ。

学校側から能力がないならこの授業は受けるな、と言われているようなもの。

こっちとしては楽だからいいのだが単位の問題で、テストを個人で定期的に受けなければいけない。

まぁそんなことはどうでもいいんだがな。

キーンコーン、カーンコーン─────────────

ヤバイな、予鈴が鳴ったか。

俺は急ぎ気味の足取りで教室に向かう。




◇         ◇     




『ここがこうであるからして・・・・・・』

授業

屋上から帰ってきた俺は本鈴に間に合い、遅刻せずに授業を受けている。

一応市内ではレベルの高い進学校である高城学園高校。

誰もが上を目指している学校なだけあって、授業をサボっている人間はいない。

それでも"夜中まで頑張って勉強してました"的な隈を目の下に描きながら眠たそうに睡魔と激戦を繰り広げているのが数名。

しかしこの時代、普通の勉強をしたってほとんど意味がないのが現実だ。

なぜなら、このご時世能力が全て。

自分の個性がどれだけ仕事に役立つかが重要であり、どれだけ勉強したって能力を扱う技術がなければ職にはありつけない。

そして能力を持たない欠陥品(おれたち)には、はっきり言って未来はない。

教師たちは、コンピューター関係の職なら無能力でも扱ってもらえる、とか言っていたけどそんなのはかなりの専門知識が必要。

もちろん俺にはそんな知識はない。

こんな人生に何の価値があるのかは知らないが、生きていればなんとでもなる。

そう祖母に教え込まれたから諦める気は無い。

とは言っても、どうしようもないよな・・・・・・

キーンコーンカーンコーン─────────────

とかいろいろ考えている間に授業が終了する。

睡魔と闘ってきた戦士たちは元気よく体を起こし授業の終了に喜んでいる。

『起立』

ガラガラ・・・・・・

号令の係りの掛け声に合わせて席を立つ。

"礼"

『ありがとうございました』

生徒たちの声が教室に響く。

それを境にして、教室は騒がしさを取り戻し始める。

とくに話す相手がいない俺は、次の授業の用意をしてから席を立ち教室を出ようとする。

そこに

『あ、夜咲くん、どこか行くの?』

クラスの女子に声を掛けられ首だけ方向転換する。

『・・・・・・いや、とくに用事はないよ』

俺は無機質にそう返事をして教室から出る。

遠くからさっきの女子の周りに集まっていた集団の声が漏れてくる。

(なによアイツ、せっかく親切に苗が話掛けてあげているのに)

(しょ、しょうがないよ。私と仲がいいわけじゃないんだから)

(だからってどこに行くかくらい話してくれてもいいじゃない!!)

苗・・・・・・そうか、あれは西原苗だったか。もう片方は声だけじゃわからないな。

西原苗。うちのクラスの女子、としか認知していないが最近になってちょくちょく話しかけられるようになった。

べつに誰とも話さないわけではない。とりあえず俺が西原に回答を与えないといけない義務はない。

それに、どこに行くかなんて話すほどのことじゃない。

べつにどこかに用事があるわけでも、誰か会いたい人物がいるわけでもない。

ただ居場所のない教室から抜け出したいだけだ。なぜ居場所がないのか、そんなのは簡単な話。

クラスの奴らは話掛けて来たりとお友達の様に見える。

が、所詮は外面だけだ。俺の様な欠陥品を自分たちと対等に見ているはずがない。

今まで、俺が欠陥品と知った人間たちは同じように見下してきている。

個人の考えはみんな違うけど、みんな俺への考えだけは一緒なんだ・・・・・・

俺は少しうつむきながら廊下を曲がろうとした。

きっといろいろと考えていたんだろう、先から同じように人が来るとは思わなかったんだ。

そのまま、同時に曲がってきた少女とぶつかってしまう。

『キャッ!!』

『クッ!!』

さすがに男と女の体格の差があり、俺が少女を突き飛ばしてしまうような形になってしまう。

廊下の壁に手を着いて倒れるのを防いだ俺は、ぶつかってしまった少女を見る、いや見とれていた。

その少女はとても艶のある黒い髪をしており、後ろでまとめている。

その見た目は儚く消えてしまいそうで、一言でいえば"影"のようだった。

自分が止まっていることに気付き、尻餅をついてしまった少女に手を差し伸べる。

『す、すまない。考え事をしていた』

しかし返答の声を発したのは少女ではなく

影縫(かげぬい)さん!!大丈夫ですか!!』

近くにいた、というより少女にくっついていた男だった。

『え、えぇ。大丈夫よ、上原くん』

上原と呼ばれる男は廊下に尻餅をつき、座っている状態の少女の近くにしゃがみ込む。

『どこかお怪我は?念のため保健室に行っておきましょう。はい、その方がいいです』

『大丈夫だって。こんなことで保健室に押しかけたら先生に迷惑でしょう』

『し、しかし!!』

『あ、あのぉ・・・』

二人で話している中に介入するように話しかける。

『ホントすいません。怪我はなかったですか』

『えぇ、大丈夫。心配してくれてありがとうね』

『お前か・・・・・・』

急に上原と呼ばれる男が、声色を変えて俺に訴えてくる。

『お前が影縫さんを突き飛ばしたのは・・・・・・』

低く俺を全力で威嚇するようなその声はかなりの迫力があった。

『あ、あぁそうだ・・・・・・』

『貴様・・・なんと無礼なことを・・・・・・』

上原は、大層俺が少女を突き飛ばしたのが気に食わないらしく、まるで鬼の形相とでも言うかのような顔で言い放ってくる。

『そんなこと言っちゃだめよ、こっちだって悪いんだからお互い様』

『違いますよ。こいつと影縫さんが対等になるはずがない。もちろん俺とだって』

『だから・・・・・・謝っているじゃないか』

『そうよ、しつこいわよ上原くん』

『フッ・・・違いますよ・・・・・・』

そう答え、しゃがんでいた上原は立ち上がりながら俺を指差して言い放つ。

『こんな奴が俺たちと同じ道を歩いていることから間違っている。俺たちと対等であるはずがない。だって・・・・・・』


お前は欠陥品だもんな─────────────


俺の頭に響く上原の声。

『クッ!?』

『欠陥品・・・この子が?』

『そうですよ、影縫さん。この夜咲朋也こそがこの学校の有名人の欠陥品ですよ』

『・・・・・・』

『図星のようだな』

『彼があの・・・』

いまだに座り込んでいる上原から影縫と呼ばれる少女は俺の正体を知り、俺の体を舐め回すように眺めてくる。

さらに気付くと回りには野次馬が集まりつつあった。

『その・・・・・・すまないが・・・』

俺は俯きながら消えそうな声で呟く。

『もう・・・行っていいか・・・・・・』

『はっ、ふざけるのも大概にしろよ。お前が影縫さんを突き飛ばしたんだろ』

『やめなさい上原くん、彼だってわざとやった訳じゃないんだから』

やめてくれ・・・これ以上ここで騒いだら人が集まるじゃないか・・・・・・

いやだ・・・どうせこいつらも俺のことを・・・・・・・・

『ごめんっ』

俺は謝罪の言葉を最後にその場を飛び出し逃げる。

『おい、貴様!!』

『上原くん!!』

遠くで影縫が上原を制止を命令する声が聞こえる。

しかし俺はそのことは気にせず走り続ける・・・・・・・・・





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