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「康弘……?」

 大輝が康弘へ手を伸ばす。

 康弘はふらふらと後ろに下がってそれを拒絶した。

「来るなよ。触るなよ。止めてくれよ」

 康弘は泣いていた。

「ほっといてくれ」

 その瞬間、康弘と大輝の目が合った。

 大輝は直感的に、康弘の心がもう手の届かない場所へ行ってしまったことを悟った。

 康弘の眼は全てに怯えていた。

 大輝の手がゆっくりと下がっていく。

 康弘の震える手はドアノブを何度か掴み損ねた。

 大輝はただ見ていた。

 今まで何度も、こうなる前にしてやれることはあった。

 でもできなかった。

 なら、彼にはもう何もしてやれない。

 大輝は自分の無力さを呪った――

 康弘はようやくドアを開けた。

 割と確かな足取りで玄関へ向かう。

 居間でかかっているテレビの音が、二人には遠い。

 聞こえる音は、二人の衣擦れと、いつの間にか降りだした外の雨音だけ。

 康弘の後ろを追う大輝には、彼の姿がぼや、と霞んで見えた。

 康弘はもう一度ドアノブに手間取り、そして外へのドアを開けた。

 ザアァ、と降りしきる雨。

 ひやりと湿った空気が康弘の頬を撫で、大輝の足にまとわりついた。

 康弘はそのまま出ていく。

 大輝は手を伸ばせず、その姿を見送った。

 二人の間を隔てるように、ドアが音を立てて閉まる。

 大輝はうなだれ、視線を落とした。

「靴……」

 外から浸み入った雨水。

 それと、丁寧に揃えられた康弘の靴。

 それを見て、大輝はようやく泣いた。声を上げて泣いた。

 ポツ、と落ちた涙が雨水と混ざった。



     終


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