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幸先はあまり良くなさそうだ。
二年生になった直後だというのに「去年の内容の確認」をさせられ、あまり点数がよくなかったためにそう思った。
「抜き打ちテストどうだったよ?」
大輝が軽い調子で僕の肩を叩く。正直あまり見せたくないけれど、減るものでもない、か。
「笑うなよ?」
振り返りつつ試験用紙の右上をしぶしぶ見せると、大輝が苦い表情になった。
「お前はさ、もうちょっと真面目にやった方がいいんじゃねぇか?」
「いいんだよ。勉強に興味を持たせてくれないセンコーが悪いんだ」
ふん、と鼻息でその意見を飛ばす。教師の職務怠慢の責任は僕には無い。
「まぁ、康弘がそう言うなら何も言わねぇけどさ」
そう言って軽く肩をすくめる大輝の試験用紙を素早くひったくる。
「そう言うお前は何点だよ?」
見ると、92点だった。僕の倍だった。どうやったらあの教師からこの点数が取れるのか。
唖然とした演技をうつ。
「お、お前はやっぱり、神の子なのか……!」
「馬鹿言うな。ちょっと頑張ればオレぐらいにはできるようになるっての。理系じゃなくても1年の数学ならこれぐらいなんとかなる」
乗ってこない大輝へいくらなんでも、と言い返す前に試験用紙を取り返された。
「ちぇ。お前ほど真面目じゃないんだよ、僕は」
「嘘言うなよ。好きなものには真っ直ぐじゃねぇか」
半分に折ったテストを自分の机に放り投げる大輝。今度は僕が苦い表情を浮かべた。
「小説のことか? あれは勉強とはまた別の話だろ」
「机に向かって何かを書くってところは一緒じゃねぇか」
ポケットに手を突っ込んで僕の席に座る大輝。僕は少し苛立った気分を抑えようと頭を掻いた。
「全然違う。何も作らないのが勉強。反復だからな。小説は、創作だ」
椅子の背に手を乗せて気だるく体重を預ける。そう言えば、こいつに小説に対する考え方――どころか、小説について詳しく話すのはこれが初めてだったかもしれない。
「へぇ、そうか。確かにそうだな」
大輝が興味ありげに頷く。
「面白そうだよな、小説。オレもやってみたいんだよな」
心臓が跳ねた。
そうか、こいつも小説を書きたかったのか。いや、僕が書いているって言っていたせいかな? 何にせよ、同じ話題ができるのは嬉しい、よな。
「そうだな。テストも終わったし、始めるにはちょうどいいんじゃないか?」
跳ねた余韻がドキドキと残る心臓を無視して、僕は大輝にそう言った。
「ああ、確かに。いろいろと教えてくれよ」
「おう、任せとけ」
口ではそう返しながらも、にかっと笑う大輝の顔をなぜか直視できなかった。