<<フィルター>>
「どうせ、この都市に住んでいれば嫌でも分かることだからね。今の内に教えといたほうが、守矢を夜襲とかしなくなるでしょ。」
と萃香は前置きし、話始めた。
「守矢の<<変異体>>としての力は、かなり特殊なんだよね。その力を、私達は<<フィルター>>って呼んでる。」
「<<フィルター>>・・・・・・?」
本来、個人が持つ武力は秘匿されている。それの情報が漏れることにより、弱点が露出する可能性があるからだ。そして、それは現在の世界情勢では致命的であり、守矢のように、力の詳細が都市に知れ渡っているというのは異例中の異例であった。
「守矢はね、普通の人とは逆なんだよ。情報を秘匿することで自分を守るんじゃなく、敢えて情報を公開することで自身の安全を守っているんだ。」
「そんなこと、出来る訳が・・・。」
首を横に振って、萃香は否定する。
「それが出来るんだよ。守矢の力、<<フィルター>>っていうのはね、”彼が望まない物や概念を弾く力”なのさ。この都市の大気は、魔素0%をずっと維持している。これは彼が力でこの都市を覆っているからなのさ。」
「な・・・・・・っ!!!」
魔素0%。その言葉がどれほどの衝撃を文雄に与えたか、説明出来るものは誰も居ないだろう。通常、どれ程高性能最先端の大気洗浄機を使用しても、30%程は確実に残る。それが原因で食物の育成に苦労しているのに、それが0%ともなれば、この都市の発展ぶりにも納得がいくというものだ。
「・・・・・・つまり、ヤツは自分がこの都市に必要だということを認めさせて、都市自体に身柄を守って貰っているのか・・・!?」
「ま、彼の力なら、大抵の事は自分でどうにかしちゃうんだけどね。それでも、守矢に居なくなられたらこの都市は終わる。今のこの都市は、彼が居ることを前提にして運営されているんだからね。本当は自宅でずっと過ごしていて欲しいって人も居るくらいだよ。でも、彼が束縛を嫌がるから、<<ギルド>>にも所属しているのさ。」
この都市の生命線でありながら、常に危険が付き纏う<<外>>に出て狩りや調査をする守矢も困った者である。それ以外にも、彼はこの都市で起きたゴタゴタの解決を専門にする<<守り屋>>も営業しているため、上層部の人間は気が休まる暇が無いのだという。しかし、自宅に軟禁でもした日には、彼はこの都市を抜け出て別の都市に行ってしまうかも知れない。彼は、都市の救世主であると同時に、悩みの種でもあるのだった。
「だから、もし守矢に手を出そうとしたら・・・・・・分かっているかな?」
「・・・・・・っ!」
萃香の瞳に怪しい光が宿る。文雄は、彼女の視線に晒されて汗が止まらず、体までもが震えて来た。
「この都市全てを敵に回す覚悟があるのなら、彼に銃を向ければいい。・・・まぁ、彼に色々と教えて貰えば、その事に感謝するときがくるさ。・・・・・・きっとね!」
突然それまで放っていた殺気を抑えて笑顔になる萃香。それどころか、彼の背中をバシバシ叩いて笑っている。
「あはははは!少し脅かし過ぎたかな?ま、普通に過ごしていれば何も起こらないよ!君たちも晴れてこの都市の仲間になったんだから、困ったことがあったら<<ギルド>>に来てよね!じゃぁね!」
そう言って、彼女はまだまだ大量の料理が乗っているテーブルに突撃していった。それを呆然と見つめる文雄は、数秒後大変なことに気が付いた。
「あ・・・・・・!料理、冷めちまった・・・・・・・・・!」
暖かい料理など十数年食していなかったというのに、それを逃してしまったと後悔する彼は、手に持った皿の料理を片付けた後、自分もテーブルに突撃するのだった。