この都市にしか不可能な・・・
<<ギルド会館>>の最上階に、1フロアぶち抜いたレストランが存在する。今回、守矢達はそこを貸切状態にして、椅子などを全て片付けて立食パーティー形式にしていた。・・・といっても、実際誰でも歓迎の混沌とした状態なのだが。
周りを見れば、<<第十三地下街>>の<<ギルド>>職員や上層部の人間、守矢と交友関係にある探索者、果てには、料理を作り終わったコックまでもがこのパーティーに参加していた。全体の参加者は百人程といったところか。
「・・・・・・どうなってるんだ、コレ・・・?」
その中で、守矢達を襲撃して失敗し、現在は守矢の部下という扱いになっているゴロツキのリーダーである新島文雄は、一人困惑していた。・・・大量の料理の乗っかった皿を片手に。
「何で、こんなに飯がある・・・。」
現在、食料は何よりも貴重だ。<<地下都市>>の内部の大気は、出来る限り浄化しているが、それでも完全ではない。特に魔素は、人間には影響が無いレベルなのだが、デリケートな植物や動物などには影響を及ぼし、変質するか、酷い時には全滅してしまうのだ。幾ら金を積んでも、出す食料がないことなどザラにある。
住む場所は幾らでも存在する。土地の面積に対して人口が少なすぎるのだ。武器弾薬も手軽に買える。魔素によって変化した鉱物などが大量に存在するからだ。前時代では、唯の石ころだったものも、今となっては貴重な資源である。・・・だが、食料はどうにもならない。食料を手に入れる方法は、自分たちで作るか、狩りをして採ってくるしかないからだ。しかし、食料の自給は、最近になって漸く軌道に乗り始めたばかりだし、<<外>>で魔獣を相手にするのは危険が大きすぎた。だから、どの<<地下都市>>でも、食料は何時でも不足していたのだ。・・・<<第十三地下街>>以外は。
「驚いた?この街に。」
「・・・!」
文雄は後ろから掛けられた声に驚き、振り向きながら腰に手を掛けた。しかし、そこには本来あるべき筈の物が無かった。
「探してるのはコレ?・・・全く、ダメだよこんな物騒なモノを持ち込んじゃ。・・・はぁ、守矢も変なの連れてきちゃって。<<外>>にでも放り出してくればよかったんだよ。本当に甘いよね。」
萃香は、文雄の腰に隠してあった小型レーザー銃を指で摘んでプラプラとさせている。文雄は、彼女の気配の隠し方、武器を隠していたことに気がつかれていた事、そして、自分に悟らせずに武器を盗られた事から、相当な実力者だと言うことを理解して冷や汗を流した。
「守矢も、多分気がついていたと思うよ。でも、もしキミが暴れ出しても自分なら抑えられると思って見逃していたんじゃ無いかな?・・・ほら。」
と萃香が指を向けたその先には、文雄に挑発的な笑みを浮かべる守矢の姿が存在した。そして、萃香に手を振ると、他のテーブルの料理を取りに人ごみの中に消えていった。
それを見た萃香が、溜息を吐く。
「私に面倒ごとを押し付ける気か・・・。しょうがないな、今日はタダ飯を食わせて貰っているし、このくらいはしようかな・・・。」
と言うと、彼女は気だる気に銃を持ったままの手を振り・・・レーザー銃が消失した。
「・・・ッ!!」
「これは私が貰っておくね。なーに、この都市の事を教える情報代とでも考えてくれればいいよ。安いだろ?・・・お、結構良い物使っているじゃないか。これはお気に入りに入れておいてもいいかな。」
「・・・・・・。」
「あ・・・、ごめんごめん。私武器には目が無くてね。収集が趣味なんだ。・・・・・・さて、じゃあこの都市について話してあげよう。」
腰に手を当てて話し始める彼女の顔は、何処か誇らしげだ。
「そもそも、この<<第十三地下街>>は、他の都市とは一線を画しているんだよ。ライフラインの整備も完璧で、娯楽施設まで完備されてるんだから。」
その言葉を聞き、文雄は驚いた。
「娯楽・・・?そこまでの余裕があるのか!」
「そうだよ。前時代にあった娯楽施設は大体あるし、現在の技術を使った新しい娯楽も。」
娯楽施設というのは、今の時代ほぼ存在しないと言ってもいいだろう。そもそも、娯楽に使う程の時間は無いからだ。娯楽というのは、ある程度生活に余裕があるからこそ生まれるものである。誰も彼もがその日を生きるのに必死で、<<娯楽>>などという言葉自体、文雄も前時代以降聞いた事が無かった。
「それというのも、食料の自給が他の都市に比べて凄く上手くいっているからなんだよ。大体、平均的な都市とは三倍くらい違うかな。」
「さ、三倍・・・!?」
驚くべき数字であった。一体、どうすればそこまで効率よく自給が出来るのか?
「いや、そもそも、何故他の都市にその話が流れていかない!?それ程の食料があるのなら、他の都市から移民がくるはずだろ!?」
「それだよ。」
萃香が彼に指を向けた。その意味が分からず、彼は困惑する。
「この食料自給はね、この都市じゃないと不可能なんだ。この方法は、他のどの都市でも実現出来ない。・・・それに、今のこの都市では、これ以上の食料生産も出来ない。だから、噂が広がって、他の都市から移民が大量に来ても、受け入れる事が出来ないんだよ。だから、情報を封鎖しているんだ。」
「話を広めれば、今度はこの都市が飢える・・・か。」
萃香は、一瞬悲しそうな顔をしたが、次の瞬間には元に戻っていた。
「そう。この都市には、確かに若干の余裕がある。・・・でも、他の場所を助ける程の余裕はないんだよ。」
「話は分かった。・・・というか、その特別な方法ってのは何なんだ?」
「草薙守矢。」
「はぁ・・・?」
方法を尋ねたのに、何故人名を出されたのかが分からず困惑する文雄。そして、萃香の次の言葉を聞いて、その困惑は深くなった。
「草薙守矢の力で、この都市は生きているんだ。」
その、不可解な言葉によって。