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現在の世界

 世界は、変わってしまった。かつて水の惑星と呼ばれたこの地球は、圧倒的な力を持つ侵略者<<Invader>>によって、完膚なきまでに破壊され尽くした。生態系は破壊され、環境は激変。大地を粉々に破壊するほどの嵐が収まったと思ったら、雪が降り始め吹雪になる。科学物質で汚染された雨が降り、<<Fool's War>>で使用された核兵器の撒き散らした死の灰によって、太陽の光も届かない。そんな環境で、僅かに残った人類が未だに生き残っているのは、皮肉にも、現況となった彼ら<<Invader>>の科学技術のおかげだった。


 彼らの力を借りて、残った人類は地下に都市を作り、そこで生活を始めた。しかし、当初突貫工事で作成したそれはジオフロントと呼べるほど大層な代物ではなく、穴蔵と言っても過言ではない代物だった。精々が、汚染された空気や水を正常な状態に戻す技術が役にたったくらいで、それ以外の事は、全て当時の人間が自力でやっていたのだ。


 最初作成されたその都市はそれぞれ、元ワシントンの地下に作成されたものを<<第一地下街>>、元中国の地下の物を<<第二地下街>>、元フランスの地下の物を<<第三地下街>>と名付けられたが、大抵の人間は<<Invader>>に破壊されたそれまでの厳しくも平和な時代と、これから始まるであろう地獄を予見して、<<終わりと始まりの3つの地>>と呼んでいた。


 この穴蔵に長く住んでいたいと思うような人間は居なかったらしい。環境的に見ても、感情的に見ても、この穴蔵に篭る事は人間には耐えられなかったのだ。長くこの場所に居れば、何時までたってもあの凄惨なる戦争とも呼べない一方的な虐殺を思い出してしまう。そんなことは、誰も望まなかった。


 だから、彼らは新たな地に旅立った。殆どの科学技術は滅び去っていて、他の<<地下街>>との連絡など取れなかった筈なのに、ほぼ同時期に移動を開始したのだ。心まで負けてなるものかと、彼らは新天地を求めて、厳しい環境に変わってしまった大地を歩き、海を渡り続けたのだった。・・・不思議な事に、これだけ勝手な事をされているのに、<<Invader>>側からは何の妨害も無かったそうだ。それどころか、それを援助するような動きまであったらしい。奴隷という身分まで堕とされた筈なのに、人類側は何も要求されなかった。一体、彼らが何の目的でこの惑星にやってきて、侵略を開始したのかは、未だ人類には分かっていないのだ。


 さて、多大な犠牲を払ったものの、彼らはそれぞれの新天地を見つけた。・・・と言っても、現在の地球に環境の差は殆ど無いため、地下に都市を作れる地盤かどうかが焦点だったのだが。そして、新たな<<地下街>>を作り、それぞれの生活を開始したのだった。



★★★★



―――<<Fool's War>>から十五年後―――



 昔の地図で言えば、日本の東京の地下に存在する<<第十三地下街>>の<<外>>で、二人の人間が夜の闇の中を歩いていた。この日は珍しく嵐や吹雪ではなく、出歩くには最適の日だったようだ。一人は、この十五年で<<Invader>>の科学技術を元に造られた科学技術の中でも、一二を争うほど重要だと言われる<<防護服>>を身に纏い、手には小ぶりな超振動ナイフを持っている。防護服は体にフィットするように作られており、体の動きを阻害しないようになっている。取り込む大気の浄化と、ある程度の身体強化と防御性能を持っており、人類とは逆に、環境に適応することに成功した生物との戦闘を可能にする、最早<<外>>の探索には必須と言っても過言ではない代物である。


 ・・・だというのに・・・・・・


守矢もりやさん、本当にその格好で大丈夫なんですか・・・?」


「大丈夫だって海谷かいや。俺を信じろよ。必ずお前の依頼は達成してやる。ま、お前にも頑張って貰うけどな。」


 守矢と呼ばれたその青年は、<<防護服>>を着用していなかった。それどころか、防御力など皆無に見える黒のスーツを着こなし、黒いサングラスを付けて平然として居るのだ。おまけに、武器らしい物も所持していないように見える。紅い頭髪を逆立たせ、煙草を銜えているその姿は、とても善人には見えない。


 言うまでもなく、現在の地球の大気は人類にとって毒である。<<防護服>>無しで<<外>>に数分居ようものなら、先ず、肺などの呼吸器官をやられ、その後に体の末端から腐っていくのだ。コレが開発されるまでの死亡者数は、数え切れない程になっている。今、この環境で生きて行けるのは、急激に進化した動植物のみである。


 だというのに、守矢は全く影響を受けて居なかった。よく見れば、彼の体全体から、仄かに紅い光が発せられているのが分かるはずである。それは、彼の能力によるものなのだが・・・


「おっと、獲物発見だ。」


 彼は煙草をその場で踏み消した。サングラス越しに見るその先には、涎を垂らしながら彼らに近づく一匹の犬の姿があった。


「う、嘘だろ・・・。魔狼・・・<<レベル5>>の魔獣じゃないか・・・・・・。」


 海谷はその声に絶望を滲ませて呟く。その間にも、犬――否、狼――は、どんどん彼らに近づいてきて・・・その体躯の巨大さを彼らに確認させた。その体は、恐らく10mは超えているだろう。ソレが一歩歩く毎に、地面には深い足跡が刻みつけられ、ほんの少し地面が揺れる。闇色の体毛が、夜の闇の中から浮かび上がるようで、一層不気味さを増していた。


「おお、久しぶりに大物だな♪」


 しかし、海谷が恐怖していたのは、その魔狼が<<レベル5>>に属していたからであった。<<レベル>>とは、<<外>>の環境に適応するために急激に進化した動植物に付けられる階級で、基本的にその危険度により数値が上がる。現在、この<<第十三地下街>>の周辺に生息している最も強い生物は<<レベル6>>。戦略級の兵器を持ってくるか、最高級のサイボーグや戦闘人形など数体で囲んで、やっと倒せるレベルである。そして、この魔狼は<<レベル5>>。見たら全力で逃げろと言われるレベルである(最も、それで逃げ切れる可能性のほうが少ないが)。更に言えば、この個体は体躯の大きさから見て、魔狼の中でも強力な個体であろう事は見て取れた。 


 最早、両者の距離は10メートルも離れて居ない。魔狼にしてみれば、一瞬で詰めれる距離であり、即ち、魔狼の領域である。・・・だというのに、守矢には緊張が見えなかった(後ろにいる海谷は超振動ナイフを構えながらも緊張で固まっているが)。スーツのポケットに手を入れ、魔狼の姿を静かに見つめている。


『・・・・・・・・・。』


 数秒か、数十秒か、両方の睨み合いは続き・・・先に均衡を崩したのは、魔狼の方であった。


「Ghaaaaaaaaarrllllaaaaaaaa!!!」


 魔狼の姿が掻き消えたと思うと、次の瞬間には守矢の目の前に巨大な爪が現れた。そのままあと一秒もしないうちに、<<防護服>>すら着ていない守矢の体など、紙のように容易く切り裂く・・・筈であった。


 ガキィィィィン!!


 しかし、それは叶わなかった。守矢の顔の数センチ前で、必殺の威力を持つ筈の魔狼の爪は停止していたからである。しかし、それは魔狼の意思では無いことは明白であった。現に、魔狼は不思議そうな顔をした後に、停止してしまった腕を前に進ませようと力んでいる。


 だが、いくら力を入れても進まない事に怒りを覚えたのか、進まない腕を地面に下ろし、もう一方の前足を振り下ろす。・・・しかし、やはり今回もその凶器が守矢に届く事は無かった。


「うーん・・・三角じゃ完全には止まらないか・・・・・・。やっぱり<<変異体>>なのかな。じゃあ四角で。」


 守矢の呟きが聴こえた訳でもないだろうが、魔狼が腕を戻した。唯の餌であるはずの守矢の存在が不気味に思えて、一旦後ろに後退した・・・否、後退しようとした。


「あぁ、駄目駄目。逃がさないよ。」


 魔狼の体は後ろに飛ぶことは無かった。いや、それどころか腕の一本すらも動かすことが不可能になっていた。


「・・・!・・・・・・!?」


 魔狼も何が起きたのか分からず混乱しているようだ。だがそれは、守矢の仲間である海谷も同じである。


「ど、どうなってるんですか!?これは一体・・・!?」


 災害級の魔物である魔狼が、まるで赤子のように遊ばれているのだから当然の混乱である。


「何だよ?俺の強さを知ってたから依頼してきたんだろう?」


「そ、そりゃそうですけど、ここまでとは・・・・・・!」


 精々が、<<レベル3>>、強くても<<レベル4>>までだと思っていた海谷である。


「ま、何でもいいか。俺の力は企業秘密だから教えられないが。・・・あ、魔狼はお前が殺せよ?」


 と、何でもないことのようにサラっと爆弾発言をする守矢。


「え、えぇ!?僕がコイツを殺すんですか!?」


「当然だろう。それが条件だった筈だ。約束は守れよ。」


 <<守り屋 草薙守矢>>に海谷がしてきた依頼は、『自分の家族を守る事』。それには、食料の確保が含まれていた。


 現代では、食料の確保が最も難しい問題である。最近になってようやく、安定して農業や牧畜が<<地下街>>で出来るようになったが、未だ絶対数が少ないため高額である。それで、収入の少ない人間などは、自分で<<外>>へと食材を調達しに逝く・・か、もしくは<<ギルド>>に依頼して食材を入手してきてもらうのである。


 そして今回、食料に困った海谷が、有り金全てを叩いて守矢に食材の確保を依頼した・・・のだが。それに守屋は条件を付けた。その条件とは、『狩りに同行し、魔物の命を自分で刈り取る事』であった。それが出来るなら、依頼料を半額でもいいと。


 今有るお金を全て使うと、来月以降の生活が出来なくなる海谷としては渡りに船であった。確かに危険だが、唯一人の守り屋として、<<第十三地下街>>に名を馳せている草薙守矢が守ってくれるなら、少しは安心だろう、と・・・。そう判断して狩りに付いてきたのだが。


「・・・・・・。」


 海谷は、ビクビクしながら魔狼を見上げる。二人の会話の間も動くことが出来ずに苛立っていた魔狼は、その怒りに燃えた瞳で海谷を睨みつける。


「ヒ、ヒィィィ・・・・・・ッ!」


 思わず後ずさるが、背後から守矢の威圧を受けて立ち止まった。


「・・・・・・!」


 ギギギと音がしそうな動作で背後を振り返ると、守矢の極悪な笑顔がそこにあった。そして、その笑顔はこういっていた、『報酬全額払うか?』と。


「・・・クッ!」


 全額払う訳にはいかない彼は、とうとう決心して魔狼を睨んだ。如何なる手段によってか不明だが、魔狼は確かに動けないのだ。恐ろしい敵だが、今に限っては恐れる必要は存在しないのだ。・・・と、そう自分に言い聞かせて、彼は手にもった超振動ナイフのスイッチを押し込んだ。


 キィィィィィィィィィ・・・


 と微かに音がして、周囲に拡散する。その音に、耳が発達している魔狼は顔を顰めた。


「イくぞ・・・!」


 海谷は、走り出した。そして、魔狼の足元へたどり着くと先程までの迷いを振り払うかのようにジャンプした。<<防護服>>によって多少強化された肉体は、何とか魔狼の頭部に足を着かせる事に成功し・・・そして、彼はそのナイフを魔狼の脳天に突き刺した。


「・・・ッ!・・・・・・ッ!!」


 口すらも開けなくなっている魔狼は、声にならない悲鳴を上げ続け・・・数分後、絶命した。


「ハァ・・・ハァ・・・。」


 海谷は、血濡れの魔狼の頭に座り込みながら、ボンヤリと虚空を見つめ続けたのだった・・・・・・。


もの凄く遅くなりました。反省しています。

第二話です。

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