第0話 世界の変貌
事の発端は、日本時間で2030年4月1日、世界各地の空で小さく銀色に輝く謎の飛行物体が目撃されたことだった。
しかし、その日はエイプリールフール、またはエイプリールフール直前ということもあって、殆どの人間は誰かが機械でも飛ばしているのだろうとすぐに興味を無くした。今どき、その程度のことは、小学生にだって出来るのだ。
だが、誰一人としてそれの調査を行おうなどと考えもしなかったことから考察しても、やはりこの時は何かが狂っていたのかもしれない。本当に、世界の人間は唯の一人も、それを行おうとしなかったのだ。
ただ、動物は危機を感じ取っていたようで、世界各地で動物が住処を逃げ出し何処かへ逃げている、との情報は入っていた。だがしかし、哀しいかな、彼らの取った行動は全くの無意味だったと言わざるを得まい。
良くも悪くも、それらに対抗出来るのは人類だけだった、ということである。
それが始まったのは翌日、4月2日午前、空をスッポリと覆い隠すほどの巨大な何かが、東京などを始めとする世界各国の主要都市上空に現れた直後である。否、それらは既に迫っていたのだ。ただ、人類が見向きもしなかっただけで。
そこまで来て初めて、人類の頭に疑問符が浮かんだ。「あれは何だ?」と。
そして、その問いに答えるかのように・・・・・・まず、アメリカ合衆国の首都、ワシントン.D.C.に攻撃を仕掛けた。
それが合図だったかのように、他の物体が攻撃を各国に開始する。
後に歴史にFool's War(愚か者の戦争)と名を残すことになる、人類史上最も苦しい戦いは、しかし1週間という短さで決着を見た。
人類の全面降伏という、最悪の結果をもってして、この戦争は終了したのであった。
それは、もはや戦争とすら言えないようなものだったという。言ってみれば、蹂躙だ。まるで巨人が両腕を振るうが如く、敵の攻撃一度で数万人の人間が死ぬ。こちらの兵器は、塵芥のように蹴散らされる。
こうしてみれば、寧ろよく1週間も耐えたものだと関心してしまうほどに、彼らの戦力は圧倒的だった。戦争が始まって1週間後、4月9日、生き残っていた地球人の数はおよそ15億人、そのほぼ総意で降伏が決定したのだから、その戦力がどれほどのものか、想像出来るだろう。
そして、それから十五年年後。
地球人の身分は奴隷、ということになっている。
あのFool's Warで、地球の地形や環境は激変した。水の惑星と呼ばれていた昔の面影は何処にも存在しない。
汚染物質で濁りきった水、都市や街の残骸である瓦礫の山、頻繁に起きる嵐・・・・・・etc。もはや、地上に人間の住むことの出来る土地は存在しない。
一部の動植物は、驚異の進化能力を発揮し、環境に適応していったが、人間にはそんなことは出来ない。何故なら人間は、道具を使いこなすことで環境に適応する、つまり、<進化ではなく進歩で種を反映させる>ことを前提とした種族だからである。
そして、そうなれば何処に住まうか。答えは、地下である。
各都市に出来た戦争の爪痕、クレーターを更に掘り進め、地下にいくつかの街を作って生活しているのだ。
さて、ここで問題になるのが、そんなことを侵略者であり勝者であるエイリアンが許すのか、というところである。先に説明したとうり、人間の現在の地位は奴隷であり、彼ら<Invader(侵略者)>に使役されるものである。本来ならば、要らぬところで不評を買うことはしたくないだろう。その気になれば彼らは人類を全滅出来たのだ。それをしなかったのは、単なる気まぐれのようなものかもしれない。
しかし、Invaderはそれを許した。それどころか、その街の内部においてのみ、自由な行動を許可したのだ。そして、自らの科学技術の一部を流出し、分け与えもした。それはもしかしたら、一種の挑発行為だったのかもしれない。自分たちに、もう一度噛み付いてみろ、という・・・・・・。
環境が変わったことで、まず問題になるのは、食料である。今では多少の生産が出来、それを商売にしている者も出ていたが、それはまだまだ少数である。更に、外の世界に狩りをしに出かけようとも、外の厳しい環境に耐えることが出来るように進化した動物は手強く、返り討ちに合う者も出るほどだった。
こういう状況になると必ず現れるのが、弱者を痛ぶり、奪い、犯すという連中である。ある意味、世界の根源的で、かつ絶対のルール、弱肉強食。
弱いものから狩る。これは狩の鉄則であり、それは同時に、強ければ狩られないということも意味している。Invaderから受け取った技術を使用し全身をサイボーグに作り替える者、薬を使用して肉体の限界を超えようとする者、様々な人間が出てきた。現在、地下街ではそういう人間による蹂躙と略奪が進行中であり、それ以外の人間は恐怖に震え、毎日を過ごす、所謂<弱者>である。
「いいや、違うね。そもそも、<強者>なんて今の俺たちの中には存在しない。居るのは、Invaderへの恐怖を、自分より更に弱いものへぶつけているだけの、<弱者>だけさ。」
だが、ここに例外が存在する。
いや、居るのは、それら大多数の<弱者>ではなく、意識して本物の<強者>たらんとする一人の青年だ。
机の上にドンと両足を載せ、背もたれに寄りかかっている。しかし、そんなふざけた態度でも、周囲に威圧感というか、独特の雰囲気を醸し出している。
真っ赤な髪を短く切りボサボサとさせていて、サングラス、更に上下共に黒いスーツを着こなしていて、とてもではないが善人には見えない。むしろ、外で女子供を蹴り飛ばしていたほうが自然な感じの青年だった。
しかし、人は見かけには寄らないとはこのこと。彼はこの<第13地下街>では、知らぬ者はいない、ある特殊な職業をしているのだ。
<守り屋 草薙守矢>。
彼の名を知る<悪人>は、彼の事をこう称す。<イかれてる>。
彼の名を知る<善人>は、彼の事をこう称す。<ヒーローだ>。
「さあ、こんな格好悪いこと辞めようぜ。俺たちってこんなもんだったか?一度負けたぐらいで、いつまでもそいつらの影に怯えて、弱いものを痛めつけて、それで満足かよ?格好悪い、格好悪いぜお前ら。立てよ。立ち上がれよ。そのための力なら、いくらでも貸してやるから。」
彼は、意識的に、<強者>へなろうとしている。手始めに、この街を救うところから始めよう。そいつらの大切な物を守り抜くことで、そいつらの心さえも癒すことが出来ると信じているから。
だから、彼は今日も<強者>で有り続ける。
「さあ、お前が守りたい者は誰だ?」
<第13地下街>の裏通りのビル、その一室にて、今日も彼の戦いは幕を開けるのだ。
何か、同じ文がコピーされて重複していたので修正しましたorz