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いなかった三人目

作者: 零夢

この小説には一種の死体表現が使われています。ミステリー小説で出てくるそれが苦手だという方は読まないほうがいいかもしれません(横溝正史あたりの作品が大丈夫な方は一切の問題がないと思われます)


それとこの小説は夏のホラー2011に間に合わせるために急造したものなので拙い文章になっているやもしれませんが、その場合は御愛嬌ということでお付き合いください。


それではどうぞ。

 机に突っ伏して寝ていたところを、誰かが揺らされたことで目が覚めてしまった。伏せたまま、まだ覚めきってない頭を使って犯人らしき人物を捜したがそれらしい者は見当たらなかった。というか、自分を除いて教室には誰もいない。

 よくよく考えれば今日は終業式で明日からは長期休暇に入るんだった。どうやら通知表を受け取った辺りで寝てしまい、そのまま誰にも起こされることなく時間がたってしまったらしい。

 大きなあくびをして、スッと目を見慣れた黒板の上に掛けられた時計にむける。針はまだ正午を指していない。どうせだからこのままもうひと眠りしようとしたところへ、不意打ちのごとく机の下から何かが飛び出した。思わず後ろへのけぞってしまったが、早鐘を打つ心臓を落ち着かせながら件の正体を確かめる。

 「出るんだよ。」

 何のことは無かった。自分が飛び出しておきながらそんな脈絡もないことを言ったのは、中学からの腐れ縁である夏海明だった。

 「うるせぇ、俺の睡眠を妨害するな!」

 嫌な方法で起こされた腹いせに手元にあった消しゴムを眉間目掛けて投げつける。驚いたことで完全に頭が冴えた、というか冴えてしまったおかげで見事対象へと直撃した。

 「痛ぇ!それが親友に対する態度かよ!」

 「誰が親友か。いいか、親友っていうのは互いに信頼と人間愛をもった奴同士の関係を指す言葉だ。俺はお前に対して一切の人間愛持ち合わせちゃいないし、別に信頼を寄せているわけでもない。故に俺とおまえは親友ではない。以上、Q.E.D.だ。」

 明を親友などと思っていないことは本当だ。そもそもこんな関係になったのも、一概に言うなれば、明の興味が湧いたものに対してはいかなる壁が立ちはだかっていようとも無視して直進し続けるような性格が幸い(わざわい)してのことだ。だから、今みたいに向こうは親友、こっちは腐れ縁といったような一方的な意思の押し付け合いを行っている状態にある。もっとも傍からすれば、毎回こちらが構ってやっている分仲の良い関係、それこそ明の言う親友同士に見えているのだろうが。

 「んな証明はどうでもいいんだよ!とにかく、出るんだって、あの墓に!」

 「あの墓?それってあれか、笙堯寺(しょうぎょうじ)のちょうど足元の辺りにある墓地のことか?」

 明は激しく同意するように首を縦に振った。

 この高校から近いところに位置する笙堯寺とは地元に唯一ある寺のことで、そこへ続く石段の始まりその脇に集合墓地がある。確かに、よく考えてみれば、あそこは歴史も長いし土地もそこそこ広いのでそんな噂がたってもおかしくは無い。というか今までだってそういった類の噂が流れていたのだから、いまさら“出る”なんてこと珍しくもないのだが。

 「あ、それに似た話なら私も知ってるよ。最近になってあそこで変死体が発見されたんだよね。」

 いつの間に俺の横に立っていたのか、急に話に割ってきたのは、同じクラスの女子、秋野茜だった。見た目、性格共に典型的な漫画によく出てくる、活発な女主人公のセーブに回るような役割がよく似合う彼女は、荷物を持っていない所を見るとたまたま教室の前を通りかかったところに今の話が耳に入ったから加わってきたといったところなのだろう。

 「変死体……って、どういったやつ?」

 「言っても良いけど、あんまり堂々と言うような話じゃないよ。」

 「いや、大丈夫。そう言ったのには慣れているから。」

 慣れているといっても多分そう言った状態にはないのだろうが、そこまで言ってしまうとさすがに世間体というか周囲の視線を気にしなければいけない状態にまで発展してしまうのであえてこらえておく。

 秋野さんが、恐らくはソースを思い浮かべながら求められた情報を引き出そうとしているところに、俺に任せろ、といった明らかに分りやすい表情を浮かべながら彼女の前に掌を突き出した明がそこにいた。どうせ「そんな話を女の子にさせるわけにはいかない!」などと考えていることだろう。分りやすい奴だ。

 「そのことについては俺から説明させてもらおう。お前はあそこで死人が出たってことは知っているよな、さすがに。」

 「まぁ、それは。」

 当然ながら、実際にそんなことが地元で起きていれば嫌でも知識として吸収されていく。それが身近なら尚更のことだ。

 「その死人なんだが皆死に方がおかしいんだ、何というか呪いじみているっていうか。」

 「呪いじみたって、どういったやつなんだ?言える範囲でいいから言ってくれよ。」

 「まず如何にもっていうのは倒れてきたような墓石に押しつぶされていた男。呪いじみて怖い別の一件は、切り取られた少女の生首の眼孔に菊の花が刺されていて、当の眼球は花弁の中央に収まるように置かれているっていうのがそう。」

「へぇ……そうなのか。」

 驚いたのはそう言った、話に上がっていた変死体というのが常識に照らし合わせれば奇怪な風に見えるだろう死体であったというところだった。正直に言って、自分の中ではそういった類の物は特に変死体などではない、いたって正常な死体であると思い込んでいた。死体が正常っていうのも可笑しなことではあるのだが。

 「変死体ってそれのことだったのか。」

 「なんだよお前、変死体のこと知ってたのかよ。説明損じゃねえか。」

 「まぁ、それは……な。ちょっと思い出せなかっただけだよ。」

 さすがに殺し方に異を感じなかったというわけにはいかないので、適当なことを言って誤魔化しておいた。

 スッと視線を明からそらして秋野さんの方を見ると、彼女は彼女で何か疑問があるらしく険しい表情で唸っていた。隣でそんな顔をされては気にせずにはいられないので率直に質問した。

 「秋野さん、さっきから何をそんなに悩んでるんだ?」

 「えっとね、夏海君の説明が何だか物足りないように思えて。」

 物足りないとは、明の説明に何らかの欠落があったということなのだろうか。自分でも思い返してみるが、明のした説明には一切の過不足も感じられない。一体どういうことなのだろうか。

 「物足りない、物足りないね……あー、そうだ!俺としたことが肝心なことを忘れていたぜ!」

 どうやら明は、秋野さんの言う「物足りなさ」に見当がついたらしく、恥じるように頭をかきむしった。一方の俺には二人の言う「物足りなさ」がさっぱり見えてこない。

 「何だよ明、何を忘れていたんだよ。」

 「いやさ、変死体の数だけど、あれ二体じゃなくて三体あったんだよ。」

 ……三体?今この男は三体といったのか。

 それを聞いただけで唐突に嫌な感覚が背筋を駆け抜けた。

 「その三体目なんだけどよ、こいつが一番禍々しいくてな、全身の関節が180度回転した上に内出血のせいで肌全体が紫色に染まっていたんだよ。」

 咄嗟に頭を抱えてうずくまる。

 何だ、そんなやつがあそこにいたか?いや、いたはずがない。

 死体は二つ。菊の花と墓石の生贄ただそれだけだ。

 明は一体何の話をしているのだろうか。第三の死体、そんなものがあるはずがない。そもそもそんなもの見ていない。だってあの日あそこにいたのは……

 「おい、おいってば。どうしたんだよお前。」

 「大丈夫?なんだか顔色が悪いよ。」

 呼ぶ声に気付いて顔を上げると、目に入ってきたのは心配するような表情を浮かべているであろう明と秋野さんがいた。

 あまり不安定な様子を見せるわけに身かないので、飄々とした雰囲気を纏い「大丈夫だ。」と一言返しておく。

 「大丈夫ならいいんだけどよ。それよりさ、肝試しも兼ねて今夜その墓まで行って調査しねぇ?」

 「あ、それいいね。三人で行こうか。」

 二人は今夜の予定を立てて嬉しそうにはしゃいでいる。そうなるのに年齢は関係ないらしい。

 しかし、二人には悪いがその誘いに乗ることは出来ない。乗ってはいけないことが既に理解出来ていていた。。

 「悪い、俺はパスするよ。じゃあな!」

 誘いを断り、即座に荷物をまとめた俺は二人の方を振り返ることなく教室を出て行った。

 ここまで自然に話していたが、どうしてもっと早くに話を切り上げていなかったのか。そうすればあんなものを見なくて済んだというのに。

 二人が当に死んでいることは分っていた。自分でやったことなのだから覚えていない方がおかしい。意識して殺したことを忘れるなんてよっぽど記憶力がお粗末な人間だけだ。

 あの日俺が二人を殺した。特に恨みがあったわけでもなければ、二人に何かしらの感情を持っていたわけでもない。ただ人を殺したかっただけで、たまたまその対象が彼らというだけのことだ。

 明の死体を手近にあった墓石で潰し、秋野さんから切り取った生首の目をくりぬき、空いた穴に菊の花を指した。作業は思ったほど難航しなかった。とはいえ苦労したことには苦労したが。

 けれど、先程二人の言った死体は創っていない。そもそもあの時は自分を含め三人だけだったのだから、別の第三者がいるはずがない。いたら一緒に殺していた。だが、そんな存在はいくら記憶をたどっても見つかりはしない。

 その死体は、俺を、これから出来上がるはずの物を指していた。そうとわかればわざわざ自ら死にに行くようなことはしない。

玄関で上履きを履き替え、元いた教室が見える窓に目をやることもなくまっすぐ自宅へ向かった。

 目を向けなかったのは必要が無かったからだ。

 恐らくは、今も二人はこの世の物を模ることをやめているのだろうから。

初お目にかかる方には初めましてを、顔なじみの方にはお世話になっています、の一言を送らせていただきます。零夢です。


えー、前書きでも申告したように、この小説は総合時間にして約1日足らずで急造したものです。普段のペースから考えればあり得ないことなんですけどね。

後、何気にこの小説は初めてのオリジナル小説だったりします。とはいえ、短編ですから大したキャラクター設定も作っていなければ舞台設定もしてないわけですが。その証拠が主人公、というか語り手の名前なしという結果に表れました。



この話を作るにあたってなんですが、もちろん下敷きとなるものは用意しています。参考にしましたよ。


作品名は「学校怪談」という名前のものです。

この作品は前半がオムニバス形式で行われているのですが、その毎回の話が意外性を突くような構成になっているのです。


今回はその手法を利用した作品を作ってやろう、という意気込みのもとに作り上げました。とはいえ製作期間があれなのでうまいこと皆様の意外性を突けたかどうかは定かではありませんが。


そんなこんなのホラー短編でしたが、いかがでしたでしょうか?お楽しみいただければ幸いです。 

それでは、お目にかかることがあれば、また。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 展開がTHEホラーという感じで好きです。 主人公から漂う狂気も個人的に良いと思います。 また、オチを踏まえて前半の他愛ない会話を拝読すると何とも……(笑) 特に茜さんの『物足りない』発…
[一言] 面白かったです。 イイ意味で後味が悪いというか、鬱屈とした何かが胸に残るようなお話ですね。 僕はこういったオチも好きですし、愉しませて頂きました。 raki
[良い点] コレは恐ろしい…… 復讐(?)しに来た2人もそうですが、その相手を殺した主人公からも寒気を感じました…… 良いホラーをありがとうございます! [一言] 誤字ですが、 「だっ『た』あの…
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