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そんなある日いとこの楓から助けてほしいと連絡が入った。
久しぶりに断ってもあきらめてくれないしつこい男があらわれて困っているようだった。
楓は昔からモテていたがその男たちは皆共通して自信満々の俺様男だった。普通の男ならあきらめてくれるようなシチュエーションでも自信のある彼らではなかなか通用しないこともあり、俺に彼女がいないときに限り俺を使い男を追い払っていた。面倒なこともいろいろあったが、困っている楓を見捨てることもできず、今に至っている。
普段なら美咲がいるので断るのだが今回は気分転換に久しぶりに楓と飲むのも悪くないと思い、引き受けることにした。
その日は相手の男の都合もあって土曜日の午後7時××ホテルのバーになった。
笑わない美咲の生活はただただ苦しかった。
その悲しげな表情を見たくなくて、強引に抱き快楽に溺れさせることもあった。
しかし、快楽と絶頂に満たされるはずのその行為でも、後に残るのはむなしさだけだった。
あんなに愛していたはずの美咲。そばにいるだけで満たされていたのに。苦しみは減るどころか増すばかりだった。
楓との約束の日、朝から美咲といるのが気づまりで俺は「用事がある」と言い早々に家を出た。
そして、実家で迎え来る約束になっている楓を待っていた。
その間も思うのは美咲のことだけだった。
7時に間に合うよう決めた時間ぴったりに楓が迎えに来た。
「あ~ら、楓ちゃんじゃない。久しぶり、元気にしてた?」
溌溂とした楓を昔から気に入っていた母のうれしそうな声が響く。
「雄大~、楓ちゃんよ~」
「わかってる」
玄関に行くと赤いワンピースを着た楓が待っていた。
赤いワンピースは背の高くすらっとした楓によく似合っていた。
「じゃあ、行くか」という俺の一言を合図に家を出た。
ホテルの最寄り駅に着くとふいに楓が腕を組んできた。
「何?」
「ちょっとでもカップルらしい空気を作っておこうかなって思って」
「そう」
楓は言い終わるや否や俺の腕を引っ張るように歩きだした。
同じ女の子でもこんなにも違うんだよな。
楓に引っ張られるようにホテルへと歩く道の途中、俺は美咲のことを考えていた。
平均身長よりもやや小さい美咲は一緒に出かけるといつも俺を見上げるようになってしまう。何か気になるものを見つけると一生懸命に俺に伝えようとして、その仕草がとてもかわいかった。俺が美咲に見とれて話を聞いていないと美咲は怒りだして、拗ねたような表情をする。そんな美咲もかわいくてわざと怒らせたこともあった。
俺だけのかわいい美咲。
突然、腕を引く力弱くなり、足が止まった。
なんだ?
目を向けると楓は強い口調で怒り気味に話しはじめた。
「私が話してたこと聞いてた?今から会う人のことなんだけど…」
いけないいけない。今から楓の彼氏役をするんだった。とりあえず今は美咲のことは忘れよう。
雄大はごめんというと楓をエスコートするように歩きだした。
その姿を美咲に見られているとは知らずに。
読んで下さりありがとうございます。続きの投稿が大変遅くなりすみませんでした。誤字脱字指摘大歓迎です。