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異世界複製錬金術師~所有した物を無限コピーするチート錬金で武器も罠も量産無双~  作者: あくす
第三幕 王都編~古の歴史~

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第96話:螺旋の代償

地鳴りのような駆動音が、地下回廊の冷え切った空気を震わせた。


巨大なマギ・ゴーレムが、数百本もの腕を意志を持つ触手のように蠢かせ、アドルたちへと向け直す。


その鏡面のような無機質な瞳には、慈悲も躊躇も存在しない。


アドルは全身の筋肉痛に耐え、震える指先で懐から鉄屑の塊を掴み出した。


複製錬金の素材だ。


脳内のレシピを高速で検索する。


この重い体で剣を振り回しても勝ち目はない。


だが、磁力スライダーの部品として何度も作ってきたあの楔なら、構造は熟知している。


「ミーシャ! 九十秒……いや、六十秒でいい! 奴を足止めしてくれ!」


アドルが叫ぶように指示を飛ばす。


「スライダーのアンカーを複製する! 奴の機動力の支点を潰す一点突破だ。それまで、何としても持ちこたえてくれ!」


「……分かったわ! やってみせる!」


ミーシャが杖を構え、アドルを背にかばうようにして一歩前へ出た。


アドルの手の中で、青白い錬金光が細く灯り始める。


複製。

それは無からの創造ではない。

緻密な術式の構築と、物質の再構成。

どれほど慣れたレシピであっても、この巨大な質量を錬成するには、意識を削るような集中と、決して短くない時間が必要だった。



ヒュォォォォォ!!

ミーシャが放った風の障壁が、ゴーレムの放つ無数の腕を弾き飛ばす。


ガガガガガッ! と、火花を散らしながら腕が石床を削り取る。


だが、敵の数は圧倒的だった。

一本を弾けば十本が襲いかかり、十本を逸らせば百本が頭上から降り注ぐ。


「ウインド……ブレス!」


ミーシャの叫びも虚しく、風の壁が物理的な物量の前に軋み、砕け散った。


逃げ場のない回廊で、一本の巨大な腕がミーシャの足元を正確に薙ぎ払う。


バキィィィィィィッ!!


「……っ、ああぁぁぁぁぁっ!!」


耳を塞ぎたくなるような、生々しい破壊音が響き渡った。

衝撃で吹き飛ばされたミーシャが壁に激突し、その場に崩れ落ちる。右足の脛が不自然な角度で歪み、激痛に顔を歪める。


「ミーシャ!!」


アドルの絶叫。

視界が怒りと焦燥で赤く染まる。


だが、錬金光はまだ半分も満ちていない。

ここで手を離せば、すべてが霧散し、二人に待つのは死のみだ。


「だ……大丈夫……まだ、終わってない……!」


ミーシャが、杖を支柱にして必死に立ち上がった。

折れた足からは、一歩動くたびに意識を刈り取るような痛みが這い上がる。


震える足に無理やり重心を乗せ、彼女は両手で杖を強く握りしめた。

その奥にある意志の灯火は消えていない。


「二重螺旋……詠唱……開始……!」


ミーシャの声が重なり合う。


一人の口から、二つの異なる呪文が同時に紡がれる奥義。


彼女の周囲で、青と緑の魔力が螺旋を描きながら狂ったように渦巻き始めた。

鼻孔から血を流しながら、ミーシャは己の精神を削り、巨大な魔法陣を空中に固定する。


「風よ、荒れ狂え……! 嵐のストーム・ケージ!!」


ドォォォォォン!!


猛烈な竜巻がゴーレムを包み込み、その巨体を一箇所に繋ぎ止める。


凄まじい圧力と遠心力が、ゴーレムの腕を次々と引き千切っていく。

だが、ダメージを負っているミーシャの状態では肉体が限界を超え、彼女の肌の至る所から毛細血管が浮き上がり、破裂し始めていた。



「……っ、あと、十秒……五秒……!」


アドルの手の中で、ついに光が収束した。


ズシリと、右手に鉄の重みが戻る。


完成したのは、磁力を極限まで高めた巨大なアンカー楔だ。


アドルは痛む脚を蹴り、地を這うようにしてゴーレムの足元へと肉薄した。


ガラハドの言葉が脳裏をよぎる。


――重心を感じろ。巨大な敵ほど、その支えは脆い。


ゴーレムが竜巻を強引に引き裂き、残された腕を振り上げた瞬間。


アドルは、ゴーレムが全質量を預けている右脚の関節部……そこにある、小さな魔力の継ぎ目を見抜いた。


「そこだぁぁぁっ!!」


アドルは全身の重みを楔に乗せ、一点へと叩き込んだ。


ガツゥゥゥゥゥン!!


高純度の磁力が関節に食い込み、凄まじい反発力で内部の術式を食い破る。


ギィィィィィィ……ガガッ!


重心を失った巨大な質量が、自らの重さに耐えきれず、ゆっくりと傾いていく。


ズルリ、という摩擦音が虚しく響き、マギ・ゴーレムはそのまま地下回廊の壁へと倒れ込み、沈黙した。



静寂が戻る。

埃の舞う暗闇の中で、アドルは荒い息を吐きながら、動かなくなったミーシャの元へ駆け寄った。


「ミーシャ! しっかりしろ!」


アドルは即座に腰のポーチへ手を伸ばし、一本の小瓶を引き抜いた。青い液体が揺れる、回復薬B。

彼は迷わずその栓を抜き、ミーシャの折れた足と口元へ振りかける。


ポーンッ、と抜けた栓が床を転がり、液体の飛沫がミーシャの傷口を覆った。


「……あ、うっ……」


「これを使えば痛みは引くはずだ。……頑張れ、ミーシャ」


回復薬Bの効果により、彼女を苛んでいた激痛の鋭さは和らいでいく。


腫れが僅かに引き、荒かった呼吸が少しずつ落ち着きを取り戻すが、歪んだ骨までは元に戻らない。

皮を突き破らんばかりの骨折を完治させるには、この薬では出力が足りなかった。


「……アドルさん……。……勝てた、のね……」


ミーシャは薄く目を開け、安堵したように微笑んだが、そのまま再び深い意識の底へ沈んでいった。


「……たいしたもんだ。死なねぇ程度に加減はさせたつもりだったが、まさかあれを止めちまうとはね」


闇の向こうから、老婆の乾いた声が聞こえてくる。

彼女は悠然と歩み寄り、アドルの右手の甲に刻まれた紋章をじっと見つめる。


「合格だよ。……だがね、資格者。その娘を助けたいなら、今すぐここを出るんだ。ここは、一度扉が閉まれば、次の太陽が昇るまで開かない禁域さ」


「何だって……!? 出口はどこだ!」


アドルが叫んだその時、頭上の石床が、轟音と共に内側から爆散した。


降り注ぐ瓦礫の中、一人の人影が音もなく着地する。


「……適合試験、終了です」


そこに立っていたのは、昼間の穏やかな微笑を完全に消し去り、冷徹な仮面を纏った司書、セレネだった。

彼女の手には、先ほどまで老婆が持っていたものと同じ、禍々しい鍵が握られていた。

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