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異世界複製錬金術師~所有した物を無限コピーするチート錬金で武器も罠も量産無双~  作者: あくす
第二幕 旅立ち編~護るべきもの~

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第67話:鏡の中の自画像

部屋の中央、漆黒の騎士アーサーが静かに大剣を構えた。

声は発しない。しかし、その全身から溢れ出す濃密な魔力が、空気を震わせるほどに膨れ上がる。

アーサーが踏み込んだ瞬間、その姿が消えた。


「……ッ!!」


サイクロプスの巨大な胸元に、十条もの光の斬撃が刻まれる。

しかし、10層の主もただでは倒れない。

サイクロプスは断末魔のような叫びを上げ、折れた膝を強引に叩きつけて立ち上がると、残った左腕でアーサーの剣を掴み取った。

凄まじい力と力の均衡。アーサーの剣が、怪物の膂力に押し戻されようとする。


「させるか……! ミーシャ、合わせろ!!」


俺は転がっていた白銀の長剣を左手で強引に拾い上げ、サイクロプスの背後へと走った。


「はいっ!! 【ウインドカッター】!!」


ミーシャが放った鋭い旋風が、サイクロプスの唯一の目を切り裂く。

視界を奪われ、のけぞった怪物の喉元へ、俺は左手一本の不格好な突きを叩き込んだ。


ドォォォォォン……!!


巨体が崩れ落ち、やがて光の粒子となって消えていく。

それと同時に、閉じ込められていた入り口の扉と、さらに奥へと続く道が重い音を立てて開いた。


「……勝った……のか?」


右腕の感覚がじわりと戻ってくる。

部屋の中央には、勝利の証である重厚な宝箱が出現していた。



宝箱の中身は、金貨5枚と三つのアイテムだった。


一つ、 【深淵の燐核アビス・コア】 。用途不明だが、拍動するように怪しく光る黒い石。


二つ、 【叡智のウィズダム・ブックマーク】 。装備者の適性を引き出し、魔法の習得効率を劇的に上げるアクセサリー。


三つ、 【魔湧のマナ・ドロップ】 。最大MPを1.2倍に上昇させる指輪。


「……よし、とりあえず回収だ。……ん、あそこに何か書いてあるぞ」


次の層へ続く扉の脇に、古びた石碑が立っていた。


「アドルさん、これ……入り口にあった石碑と同じじゃないかしら?」


ミーシャが気づき、手をかざす。

すると石碑が淡く発光し、俺たちの脳内に情報が流れ込んできた。

踏破記録をここに記憶させれば、一瞬でダンジョンの入り口まで戻れるという「転送の碑」だった。


「助かった……。正直、歩いて帰る体力は残ってないからな」


三人は石碑に手を触れ、吸い込まれるような感覚と共に、懐かしい地上の光の中へと戻っていった。



屋敷に戻った俺たちは、リビングのソファに泥のように沈み込んだ。

少しの休息の後、戦利品の分配を始める。


「金貨は山分けだ。アイテムは……挙手制にしよう。俺は、この用途不明の素材を貰っておくよ。何かに使えそうな予感がするんだ」


俺が燐核を手に取ると、残る二つのアクセサリーがテーブルに置かれた。

ミーシャが「叡智の栞」に手を伸ばそうとした時、隣でルルも同じように手を伸ばした。


「あっ……」


一瞬、気まずい沈黙が流れる。

ルルが慌てて手を引っ込め、視線を落とした。


「ルル。言いたいことがあるなら、言ってみな」


「……あたし、足手まといになってる気がするなの」


絞り出すような、小さな声だった。


「たまたまアーサーちゃんを召喚できたから、今回はなんとかなったけど……。あたし自身は、右手が動かなくなった時に何もできなかった。ずっと守られてるだけなのよ」


「そんなことはないわ、ルル! アーサーがいなければ、私たちはあの場で全滅していた。本当に感謝しているのよ」


ミーシャが優しく肩を抱くが、ルルの表情は晴れない。


「それでも……あたしも、みんなの役に立ちたいの。だから、このアクセサリーを貰ってもいいかな……? 魔法のことも、召喚のことも、もっと勉強したいの」


ミーシャは穏やかに微笑み、自分の手を引いた。

「いいわよ、ルル。あなたが強くなることが、パーティーの力になるんだもの。……譲るわ」


「……ミーシャさん、ありがとうなの……っ」


これで、分配は完了した。



「……さて。これからのことだが」


俺は背筋を伸ばし、二人を真っ直ぐに見据えた。


「正直、今回はかなり危ない橋だった。右腕封じなんてギミック、想定外すぎた。……いくら高品質の回復薬があっても、即死したり、今回みたいに完全に無力化されたら終わりだ。俺は、ダンジョンを軽く見すぎていた。……反省している」


「……私も、同じ気持ちです」


「今後はレベル上げと、個々の基礎能力の底上げに集中しようと思う。一ヶ月後の武道大会まで、一旦は各々で修行期間にしないか? ダンジョンに潜るなら二人以上、かつ7層までと制限する」


「わかりました。……強くなって、次はもっとアドルさんを支えられるようにします」


「あたしも、修行してパピィとアーサーちゃんをもっと上手に呼べるようになるなの!」


打ち合わせを終え、俺は重い腰を上げた。


「じゃあ、俺はちょっと風呂に入ってくるよ……」


一人で部屋を出ていく俺の背中を見て、ミーシャが不安げに呟く。


「……アドルさん、なんだか少し、元気がない気がするわ」


「……ええ。様子が少し、おかしいわね」


影から見守っていたカミラも、その異変に気づいていた。



屋敷の最上階、天空を仰ぐ露天風呂。

俺は立ち昇る湯気に包まれながら、一人で天井の星空を見上げていた。


(……本当の足手まといは、俺だ)


心の中で、何度も繰り返される自責の言葉。

戦いの中、右腕を奪われた瞬間に俺が感じたのは、絶望的なまでの「無力感」だった。


(戦闘になれば、俺の錬金術は遅すぎる。複製にも、新しい武器を作るにも時間がかかる。咄嗟の対応ができない……。剣技だって、アーサーに比べれば子供の遊びだ。魔法が使えるわけでもない)


お湯をすくい、自分の掌を見つめる。

ポテトを揚げ、薬を量産し、街の人に喜ばれる「商売人」としては成功しているかもしれない。

だが、命のやり取りをする「冒険者」として、俺の存在意義はどこにある?


(素材さえあれば何でも作れる。だが、"今この瞬間"を守る力が、俺には欠けている……。このままじゃ、いつか本当に大事な仲間を失うことになるぞ)


お湯の中に顔を沈める。

複製錬金術師という職業。

それがただの「便利な道具屋」で終わるのか、それとも戦場を支配する「力」になり得るのか。

俺は、自分自身の強さについて、根本から考え直さなければならなかった。

鏡に映る自分の姿が、ひどく頼りなく見えた。

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