第63話:祭りの余韻と、甘いヤキモチ
午後からの営業は、午前中を上回る熱狂となった。
揚げたてのポテトを頬張り、琥珀色のエナジードリンクを一気に煽る。その組み合わせに、街の人々は次々と「中毒」になっていった。
「アドルさん、エナドリ追加なの! みんなお顔がシャキッとしてるのよ!」
「はいはい、今行くよ。……カミラ、そっちの注文も頼む!」
「ええ、任せてちょうだい。……はい、お兄さん。元気が欲しければこれを飲みなさいな」
利益を度外視した価格設定だったため、手元に残る金貨はわずかだった。
だが、代わりに得られたのは、これまで沈んでいた街の人たちの輝くような笑顔と、温かい交流だった。
◇
日が暮れ、祭りの喧騒が心地よい余韻へと変わる頃。
俺たちは並んでいる客がいなくなったのを確認し、ゆっくりと店じまいを始めた。
「……ふぅ。よし、屋台の片付けは俺とミーシャでやる。カミラとルルは一足先に屋敷に帰っててくれ」
「えっ、いいんですか? あたしたちもお手伝いするなの!」
「いや、いいんだ。カミラ、今夜は打ち上げにしよう。少しお金を使っていいから、パーっと豪華なパーティーにしてくれ」
俺がそう言うと、カミラはパッと顔を輝かせた。
「いいんですか!? うふふ、ではお言葉に甘えて。腕によりをかけて準備しておきますね。……いきますよ、ルル」
「わーい! ご馳走なの! カミラさん、急ぐのよ!」
二人の背中を見送った後、俺は隣で少し疲れた様子で微笑むミーシャに向き合った。
「ミーシャ、今日一日、本当にお疲れ様。……一番の功労者は、間違いなく君だよ」
「アドルさんも、お疲れ様でした。……ふふ、でも、皆さんのあんなに喜ぶ顔が見られて、私も本当に嬉しいです」
夕闇の中、ミーシャの瞳が祭りの残り火を映してキラキラと輝いていた。
「屋台はまたいつか使うかもしれないから、異空間に収納してくれ。……在庫はある分だけでいい。ミーシャがいると、片付けもあっという間だな」
「はい、任せてください。……しゅうのう!」
大きな屋台が吸い込まれるように消え、広場には静寂が戻る。
ミーシャは指先を弄りながら、少しだけ恥ずかしそうに俺を見上げた。
「……アドルさん。今夜、打ち上げが終わったら……お部屋に行ってもいいですか? 約束の……お願いしますね?」
「ああ、わかってる。美味しい酒を用意しておくよ。何が好きだ?」
「……赤ワインで、お願いします」
「了解だ。最高のやつを冷やしておこう」
◇
屋敷に戻り、広間の扉を開けると、そこには信じられないほど豪華な料理が並んでいた。
肉料理に新鮮なサラダ、そして溢れんばかりの果物。
「カミラ……。もう店は終わったのに、その服……そのままなのか?」
「ええ。動きやすいですし、ご主人様もお気に入りでしょう?」
カミラは猫耳を揺らしながら、軽い足取りで最後のスープを運んでくる。
「……まあ、いいか。みんな、今日はお疲れ様! ささやかだけど乾杯! ……あ、ルル。お前は飲むなよ、子供なんだからな」
「ひどいなの! 子供扱いしないでなの! あたしも飲めるなの。魔族は十五歳で成人なのよ!」
ルルが頬を膨らませて抗議する姿に、俺たちは思わず吹き出した。
「ふふ、わかったわかった。ほどほどにな」
それからは、まさに「どんちゃん騒ぎ」だった。
今日起きた面白い出来事、ギルバートの悔しそうな顔、ポテトを食べた人たちの驚き……。
語り合い、笑い合いながら、夜は更けていった。
「もう、飲めないなの……。むにゃ……すやすや……」
最初にルルが力尽き、ソファで眠りに落ちた。
「……ふぅ。片付けましたら、私も少し疲れたので先に休ませてもらいますね、ご主人様」
「ああ。カミラも一日、本当にお疲れ様」
カミラがルルを抱きかかえて部屋へ戻った後、リビングには俺とミーシャだけが残った。
「アドル……さん」
「ああ。先に部屋にいるから、いつでも来いよ」
◇
部屋で待っていると、控えめなノックの後にミーシャが入ってきた。
薄手の部屋着に着替え、グラスを持ってきた彼女の姿は、月明かりの下で妙に色っぽく見えた。
「じゃあ……改めて。お疲れ様、乾杯」
「っく、ごくごく……ぷはぁっ」
「おいおい、そんなに一気に飲んだら……」
赤ワインを数杯、驚くほどの勢いで飲み干したミーシャの顔が、一気に真っ赤に染まった。
「あどるしゃん……。……最近、カミラしゃんと仲良すぎませんかああぁっ!」
「ぶっ!? な、なんだいきなり……」
酔いが回ったミーシャが、瞳を潤ませながら俺の胸元を掴んでくる。
「そりゃああ……カミラしゃんは綺麗で、スタイルも良くて、可愛いですけろぉ……! 仕方ないとこ、あるけろぉ……! ひっく」
「ミーシャ、落ち着け。だいぶ酔ってるぞ」
「私だってぇ……! ほらぁ!」
ミーシャはいきなり自分の部屋着の胸元を少し広げ、俺に詰め寄ってきた。
「出るとこ、出てるんだからぁああ! ちゃんと、見てくだしゃい……!」
「っ!? ミーシャ……!」
至近距離で晒される彼女の柔らかな肌と、甘い酒の香りに、俺は激しく狼狽した。
肩を貸して支えようとするが、ミーシャは止まらない。
「先にアドルしゃんと会ってたのは、あたしなんだからぁああ……。たまには、私だけを見てくだしゃい……。……すやぁ……」
「あ、こら、ミーシャ。……ここで、寝るな!」
さっきまでの勢いはどこへやら、彼女は俺の腕の中でコテンと意識を失った。
「……全く。でも、そんなこと思ってたんだな。……気づかなくて、すまなかったな」
俺は彼女をそっと抱き上げ、ベッドに寝かせた。
幸せそうに寝息を立てるミーシャの頭を軽く撫で、自分はソファへと向かう。
「……俺はソファにでも寝るか。」
祭りの余韻を噛み締めながら、俺もゆっくりと目を閉じた。
夜は静かに、深く更けていった。




