第60話:アドルVSミーシャ
館のキッチンは、猛烈な熱気と香ばしい油の匂いに包まれていた。
黎明祭前夜、俺とミーシャの「フライドポテト品質勝負」は、深夜になっても続いていた。
「 【 複製錬金 】 !!」
俺は昼間に買った最高品質のジャガイモを核に、延々と複製を繰り返していた。
だが、何度光が収まっても、俺の手元に残るのは見慣れた輝きのポテトだけだった。
「……鑑定。……品質C、か。やはり、ただ複製するだけでは『味の深み』までは上振れしてくれないのか」
一方、その隣でミーシャは、まさに戦場のような忙しさでフライパンを振るっていた。
「油の配合、変えてみます! 牛脂を混ぜて、隠し味に昨日採ったハーブの粉末を……。塩は、カミラさんに教えてもらった特別な振り方で……!」
ミーシャの瞳には、錬金術の理屈を超えた「料理人」としての意地が宿っていた。
◇
深夜、作業が一段落した隙を見て、俺は地下の工房へと籠もった。
手元には、こっそり買い出しに行き揃えた上質の布地とレースがある。
「ルルのあの服をベースに……。よし、 【 複製錬金 】 !」
俺はルルのエプロンドレスの構造を脳内で再構成し、カミラとミーシャの体格に合わせて調整をかける。
青白い光が工房を満たし、二着の、それはそれは可愛らしい「猫耳エプロンドレス」が完成した。
(……よし。これで明日の看板娘は三人だ。……我ながら、なかなかの出来だな)
◇
キッチンに戻ると、ミーシャが最後の一皿を盛り付けたところだった。
黄金色に輝くそのポテトからは、暴力的なまでに食欲をそそる香りが立ち昇っている。
「アドルさん、できました! 私の、本当の自信作です!」
俺は生唾を飲み込み、その一皿を注視した。
「……鑑定」
【 究極のフライドポテト:品質B+ 】
「……完敗だ。俺の方はどんなに頑張っても品質C止まりだったよ。……凄いな、ミーシャ」
「……やったぁぁっ!! アドルさんに勝てた……!」
ミーシャが子供のように喜び、その場にカミラも姿を見せた。
俺は少し照れくささを感じながら、二人に出来立ての衣装を差し出した。
「……これ、明日の祭りで着てほしいんだ。ルルの服を参考に、二人のサイズで作った」
「まあ! なんて可愛らしい衣装かしら……! これ、私が着てもいいの? うふふ、とっても嬉しいわ、ご主人様!」
カミラは衣装を体に当てて、少女のように目を輝かせて喜んだ。
対照的に、ミーシャは猫耳のヘッドドレスを見て真っ赤になっている。
「えっ、あ、あの……! これ、私も着るんですか!? すっごく恥ずかしいです……!」
「似合うと思うぞ。……せっかくの祭りだしな」
俺がそう言うと、カミラが音もなく俺の背後に回り込み、耳元で熱い吐息を吹きかけてきた。
「ご主人様……。本当は、こういうのが好きなんですか? ♡」
「っ!? カ、カミラ……!」
「ふふ、覚えておきますね♡ 明日はたっぷり、見せつけてあげますからね」
カミラが耳たぶをなぞるように囁き、俺は心臓が飛び出しそうになるのを必死に抑えた。
◇
そして翌朝。
黎明祭の当日、活気に沸く街の片隅で、俺たちは屋台の準備を整えていた。
「アドルさん、昨日の罰ゲーム、今言ってもいいですか?」
準備の合間に、ミーシャが少しだけ真剣な表情で俺の顔を覗き込んできた。
「……ああ。聞こうじゃないか」
「えへへ。……今日の祭りが全部終わったら、夜、私と二人きりで……お酒を飲んでくれませんか?」
「二人きりで、お酒……。……それだけでいいのか?」
「『それが』いいんです。……約束ですよ?」
小指を立てて笑うミーシャ。
その約束を果たすためにも、今日の祭りは何としても成功させなければならない。
「ああ、約束だ。……さあ、黎明祭の始まりだ! 世界を驚かせてやろうぜ!」
俺の掛け声と共に、品質B+のポテトを揚げる威勢の良い音が街に響き渡った。




