第56話:共有される秘密
昨夜の賑やかなお風呂騒動から一夜明け、館には清々しい朝の光が差し込んでいた。
朝食を終え、温かいお茶を囲みながら、俺は向かい合わせに座るルルへと視線を向けた。
「ルル、少し話をしないか。……君の能力について、詳しく知っておきたいんだ。ミーシャも一緒に聞いてくれるか」
「わかったなの。あたしのこと、なんでも聞いてほしいなの」
ルルは椅子の上で小さく足を揺らしながら、素直に頷いた。
「昨日、鑑定させてもらったんだが……君のレベルは20、職業は『召喚師』だった。……随分と高いレベルだが、やはり召喚術を使って戦うのか?」
「そうなの、召喚師なの。……でも、あんまりいない珍しい職業みたいなの」
「どうやって戦うんだ? 具体的に見せてもらうことはできるか」
「いいのよ。……おいで、パピィ!」
ルルが短く唱えると、彼女の背後の空間が揺らぎ、光の粒子が形を成した。
現れたのは、銀灰色の毛並みを持つオオカミ型の魔獣だった。
「クゥ……」
「……ほう。ずいぶん可愛いオオカミだな」
俺の率直な感想に、ルルは少しだけ胸を張った。
「でも、結構強い子なのよ。……まだこの子一人しか召喚できないし、あたしも自分の召喚術について、まだ分からないところがいっぱいあるの」
「なるほど。……まだまだ成長の余地があるということだな」
俺はパピィの賢明そうな瞳を見つめながら、今後の活動方針を伝えることにした。
「俺たちは普段、ダンジョンに潜ってお宝を探したり、ギルドでクエストをこなしたり、商売をしたりしている。……ルルは基本的に自由行動でいい。無理に縛り付けるつもりはないよ。……ただ、できればダンジョンに行く時は、その力を貸してほしいんだ」
「わかったなの! あたしもみんなの役に立ちたいのよ。……特にお店のお話は、すっごく気になるなの!」
ルルの目がキラキラと輝く。
一人で裏路地の商人と渡り合ってきた彼女にとって、「店」という響きは特別なものらしい。
「それから、俺とミーシャの能力についても知っておいてほしい」
俺は、自分が持つ 【 複製錬金 】 や 【 想像錬金 】 、そしてミーシャが持つ 【 異空間保存 】 や魔法適性について、一通り説明した。
◇
俺たちの能力を聞き終えたルルは、椅子から転げ落ちんばかりに驚愕していた。
「なにそれなの!! 凄すぎるなの! 天才すぎるなの!! ……ルルも、それ使いたいなの……」
「はは、神様からもらった特殊なギフトだから、きっと他の人には無理だろうな。……でも、一緒にいれば色んな課題に挑戦できる。協力し合おう」
「私のスキルについても、もっと詳しくお伝えしますね」
ミーシャも笑顔で、自分の魔法の特性や、空間魔法によるロジスティクスの重要性をルルに説いた。
ルルはその一つ一つに「凄いの!」「凄いの!」と感動の声を上げ、すっかり俺たちに懐いた様子だった。
◇
話が一区切りついたところで、俺は外の空を見上げた。
「さて……。午後からは、ルルの日用品や必要な買い出しに、ミーシャとカミラで行ってきたらどうだ? 俺は留守を預かるよ」
「いいですね! ……アドルさん、モルガンさんのところへ寄って、売上で買い物をしてきてもいいですか? 何がどれくらい売れていたか、後でちゃんと報告しますので」
ミーシャが少し首を傾げて尋ねる。
「ああ、任せた。……ルル、二人と一緒に街を見てくるといい。この街で、もう隠れて歩く必要はないからな」
「わかったなの! 堂々と、お買い物してくるのよ!」
ルルは元気よく返事をすると、パピィを消還させ、期待に満ちた表情でカミラとミーシャの後を追った。
玄関の扉が閉まり、館に静寂が戻る。
(さて。……女の子たちが買い物を楽しんでいる間に、俺は俺で、さらに高効率な錬成の準備を進めるとするか)
俺は地下の工房へと足を向けた。
新しい家族が増えた。
守るべき場所が、より一層賑やかになっていく実感を噛み締めながら。




