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【完結済】異世界複製錬金術師~所有した物を無限コピーするチート錬金で武器も罠も量産無双~  作者: あくす
第一幕 生存編~生き抜くために~

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第5話:不可侵の誓いと、泥濘の武装

黄金色のスープがもたらした熱気は、驚くほどアドルの心身を芯から癒やしてくれた。

昨日までの「ただ腹を膨らませるための餌」とは一線を画すその芳醇な旨味は、絶望的な状況にいた二人にとって、何よりも確かな「勝利」の味だった。



「ねえ、アドルさん。これ、本当に美味しいわ。昨日までの苦さが嘘みたい」



ミーシャは不格好な鉄鍋を両手で包み込み、名残惜しそうに最後の一口を飲み干した。



「ああ。品質が一段階上がるだけで、これほど劇的に変わるとは思わなかった。……でも、これでやっていける目処が立ったよ、ミーシャ」



アドルは空になった自分の鍋を置き、焚き火の火を見つめながら改めて口を開いた。



「ミーシャ。これからのことを話しておきたい。……いつまでも、この洞窟に引きこもっているわけにはいかないからな」




「そうね。……ここでの生活も、少しずつ慣れてきたけど。でも、ずっとここで野草を食べて、ゴブリンに怯えて暮らすわけにはいかないわ。アドルさん、何か考えがあるんでしょ?」




ミーシャはアドルの隣に座り直し、真剣な瞳で彼を見つめた。

アドルは深く頷き、自分の頭の中に描いているロードマップを言葉にし始めた。




「まずはこの森を抜け出して、人間が住む街を探そう。身の安全の確保、情報収集、そして何より経済的な基盤の構築が必要だ。俺たちの能力を活かすなら、商人ギルドを目指すのが当面のゴールになると思う」




「商人ギルド……。確かに、アドルさんの【複製錬金】があれば、商売に困ることはなさそうね」




「ああ。だが、その前に……この世界で生きていく上での『絶対的な禁止事項』を二人で決めておきたい。……いいか、ミーシャ。俺たちは、決して『目立ってはいけない』んだ」




アドルの声のトーンが、一段と低く、重くなった。




「俺たちの力……特に俺が知識を形にしてしまう【想像錬成】や、君の無限の収納は、この世界の住人から見ればあまりに異質だ。便利な現代の道具をそのまま持ち込んだり、オーパーツのような代物を量産したりすれば、瞬く間に権力者の耳に届くだろう」




「……あ。そうね。私たちが何者かバレたら、どこかの国に飼い殺しにされたり、それこそ人体実験の対象にされるかもしれないわ」




ミーシャが自分の腕を抱え、身震いした。

その危惧は、決して大袈裟なものではない。

知識と物資の供給能力は、戦争において最強の兵器になり得るからだ。




「その通りだ。だから俺たちは、あくまで『手際がいいだけの、少し器用な一般人』でいなきゃならない。時代錯誤な発明はしない。この世界の技術水準を慎重に見極めながら、その範囲内で少しだけ『高品質』なものを提供していく。……それが、俺たちが自由を勝ち取るための最善策だ」




「分かったわ。目立たず、着実に。……私たちの、新しい世界のルールね」




二人は焚き火越しに視線を交わし、静かに頷き合った。

それは、異世界という広大な舞台で生き残るための、不可侵の誓いだった。







方針が決まれば、次は「移動」のための準備だ。今の二人は、ボロボロになった現代の服を纏い、片手にはゴブリンから奪った使い古しの「こんぼう」があるだけの、あまりに無防備な姿だった。




「さて、そうとなれば装備の拡充だ。今の俺たちは、防具すら持っていないに等しいからな」




アドルは立ち上がり、洞窟の外に目を向けた。




「接近戦だけじゃ、不測の事態に対応できない。ミーシャ、悪いけど、周囲で素材を探してきてくれないか。まずは細身で真っ直ぐな、重みのある枝を二十本。それから、補強に使える蔦つたも多めに頼む」




「飛び道具でも作るの?」




「ああ。俺たちのステータスでは、近距離での乱戦はリスクが高すぎる。万が一の時に距離を詰めさせない『隠し玉』が必要だ」




ミーシャは「任せて」と短く応え、森の境界へと消えていった。アドルはその間、洞窟の壁面に露出した岩肌や、足元に落ちている石の硬度を確かめて回った。




一時間後、ミーシャが異空間からドサリと素材を吐き出した。




「アドルさん、言われた通りのものを集めてきたわよ。……ねえ、これで何を作るの?」




「ありがとう。……作るものは、木製の胸当て(チェストプレート)と、投槍(ジャベリン)だ。今の素材でできる精一杯の武装だよ」




アドルはまず、胸当ての作製に取り掛かった。

ゴブリンの残した布切れを内側に敷き、ミーシャが選別してきた木材を重ね合わせる。

レシピのない状態からの「想像錬成」は、相変わらず一パーセント未満の成功率を彷徨う苦行だった。




「……錬成!」




パキン、と乾いた音を立てて木材が裂ける。



失敗だ。



「……錬成!」



今度は蔦が千切れ、素材がただのゴミへと変わる。



「アドルさん……そんなに顔色を悪くして。大丈夫?」




「ああ、平気だ。……確率の問題だからな。数を打てば、いつかは正解に当たる」




アドルは額の汗を拭い、何度も、何度も失敗作を分解しては素材に戻し、再び錬成を繰り返した。作業は数時間に及び、太陽が真上を過ぎ、西に傾き始めた頃。

ようやく、俺の手元でこれまでとは違う安定した光が放たれた。




「……できた」




【鑑定:木製の胸当て 品質:C】




蔦で編み上げ、木材を鱗状に重ねた簡素な防具だが、無いよりは遥かにマシだ。

レシピさえ解放されれば、二人分の装備を揃えるのは容易かった。

アドルはすぐさま自分とミーシャの分を複製し、お互いのサイズに合わせて装着した。




「不恰好だけど、不思議と安心感があるわね。……アドルさん、次は槍?」




「ああ。ただの尖った枝じゃない。重心を先端に寄せ、投げた時に直進するようにバランスを整える必要がある。現代の洗練された武器の知識を隠しつつ、あくまで『この世界の素材で工夫した』範疇の形を模索するんだ」




これもまた、想像錬成の壁が立ちはだかった。

単なる木の棒を尖らせるだけなら簡単だが、武器としての「性能」をイメージに乗せるのは難易度が跳ね上がる。

何度も失敗し、辺りが夕闇に包まれ始めた頃、ようやく手に馴染む重さの一本が完成した。




【鑑定:木製投槍 品質:C】




「よし、レシピ解放だ。ミーシャ、これを全部、君の空間へ入れてくれ」




アドルは解放されたレシピを使い、予備も含めて二十本以上の投槍を次々と量産していった。




「これなら、遠くからでも攻撃できるわね。……私、これを使ってアドルさんの援護をするわ」




「頼りにしてるよ。……俺が前衛で凌ぎ、隙を見て君の空間から供給される投槍を投げつける。中距離からのアウトレンジ戦法だ」




木と布、そして蔦を組み合わせた泥臭い武装。

だが、それは現代人の知識と、異世界の権能が初めて形になった「戦略」の結晶だった。







作業を終えた頃、森は深い群青色に沈んでいた。




「……今日はここで一晩休んで、明日、この森を出よう。ミーシャ、装備の具合はどうだ?」




アドルは自分の胸当てを叩きながら尋ねた。




「少し重いけど、アドルさんが作ってくれたものだと思えば、重さも心地いいわ。……ねえ、アドルさん。私たち、本当にやっていけるかしら?」




ミーシャは焚き火の火を見つめ、少しだけ弱気な声を漏らした。

若返った身体、手に入れた力。

それらはあまりに現実離れしていて、ふとした瞬間に足元が崩れそうな不安に襲われる。




「……正直に言えば、分からない。この世界の広さも、常識も、まだ何も知らないからな」




アドルは素直に認め、それから彼女の隣に座って、その肩にそっと手を置いた。




「でも、俺の横には君がいる。君がいて、俺の力を支えてくれる。それだけで、俺にとっては十分な勝算になるんだ。……ミーシャ、君が倉庫でいてくれる限り、俺は何度でも奇跡を複製してみせるよ」




「……アドルさん。……そうね。私も、アドルさんの足場として、絶対にあなたを支え抜くわ」




ミーシャはアドルの手に自分の手を重ね、微笑んだ。 冷たい夜の空気が洞窟に忍び寄るが、二人の間にある絆の熱までは奪えなかった。




黄金色のスープが体力を戻し、新しい装備が心を武装させた。

異世界複製錬金術師としての第二歩。

明日、彼らはこの「生存と確保」の拠点である洞窟を離れ、未知なる社会――リュステリアという巨大な渦の中へと、その歩みを進めることになる。



「……行こう、ミーシャ。自分たちの命を守れるだけの『強さ』を、これから獲りに行くんだ」




俺たちは夜の帳が下りる中、静かに、しかし熱く燃える決意を固めた。

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― 新着の感想 ―
「目立ってはいけない」という誓いに、生き残るための覚悟をしっかり感じました。 アドルさんの錬成への執念と、それを支えるミーシャさんの献身的な姿が本当に素敵です。 不格好な木製の防具には、どんな豪華…
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