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異世界複製錬金術師~所有した物を無限コピーするチート錬金で武器も罠も量産無双~  作者: あくす
第一幕 生存編~生き抜くために~

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第35話:昇格の双撃と、黄金の障壁

「……いいだろう。試験対象は『グレートボア』にする」


ギルドの修練場に隣接する受付カウンターで、俺はカミラに迷いのない声で告げた。力任せの突進を主体とする巨獣を相手にするのは、新しく得た【ダブルアタック】のキレと精度を実戦で試すには、これ以上ない絶好の機会だ。

カミラが手配した試験官は、顔に刻まれた深い皺が経験の厚さを物語る、口数の少ない初老の冒険者だった。彼が放つ「観察者」としての冷徹な視線に見守られながら、俺は再び「始まりの森」のさらに深い、光の届かぬ領域へと足を踏み入れた。



背後から地響きのような不吉な震動が迫る。

巨大な、反り返った牙を剥き出しにし、重戦車のような巨体で木々をなぎ倒しながら突進してくるグレートボア。まともに受ければ、鉄の盾ごと肉体を粉砕される圧倒的な質量兵器だ。だが、俺は剣を抜かずに、あえてその場に根を張るように立ち尽くした。


(正面からぶつかって、このエネルギーを受け止める必要はない。……必要なのは、反射速度と最小限の回避だ)


激突の直前、俺はサイドステップ一歩でその軌道から逃れる。鼻先をかすめる熱風と獣臭。ボアが勢い余って背後の巨木に激突し、森を揺らしたその刹那、俺は一気に加速して懐へ潜り込んだ。


「……まずは一撃」


振り向きざま、腰の捻りを乗せた横薙ぎ。分厚い脂肪層に阻まれ、感触こそ浅いが、ここからが本番だ。


【スキル:ダブルアタック】


一撃目の衝撃を筋肉のバネに変え、物理的な停止時間をゼロにする。剣先は空を切ることなく、不自然な角度から弾き出されるようにして二撃目を叩き込む。ボアの喉元から噴き出す鮮血が、周囲の草木を赤く染めた。

それからは、もはや一方的な展開だった。ボアが巨体を振り回して反撃を試みるが、俺は常にその後方に位置取り、死角から「二連撃」を刻み続ける。速度で翻弄し、相手が隙を見せた瞬間に、二度の斬撃をピンポイントで一点に集中させる。

最後は、首筋の同じ軌道を二度、ほぼ同時に切り裂いた。巨体が地を揺らして力尽き、森に静寂が戻る。


「……合格だ。剣筋に迷いがない。技術以上に、その『冷静さ』を評価する」


背後で一部始終を見ていた試験官が、短く、しかし確かな敬意を込めてそう言った。俺は額の汗を拭いながら、ようやく手に入れた Eランクへの確信を、掌の熱と共に握りしめた。



同じ頃、ミーシャは街の中枢に近い、威圧的な石造りの建物の前に立っていた。


「商業ギルド」。


そこには冒険者ギルドのような熱気も、戦士たちの粗野な活気もない。あるのは、計算高い沈黙と、冷徹な選別、そして鼻を突くような「インクと金」の臭いだった。


「……あの、新規の登録をお願いしたいのですが」


ミーシャが恐る恐る受付に声をかけると、現れたのは、書類をめくる手を止めようともしない、ひどく傲慢な態度の中年の男だった。彼はミーシャの質素な身なりを一瞥し、鼻で笑った。


「登録? 冗談はやめなさい、お嬢さん。ここはガキの小遣い稼ぎの場所じゃない。その格好を見ればわかる。登録料だけで金貨10枚だ。用意できているのかね?」


「金貨10枚……!?」


ミーシャの顔から血の気が引いた。アドルが血を流して稼いできた報酬をすべて合わせても、まだ到底届かない。冒険者ギルドの登録料とは、まさに桁が違った。


「払えないなら早々に帰りなさい。……もっとも、仮に払えたところで、今のギルドは新規加入に厳しい制限を設けている。試験にも合格しなければならないが、あんたのような素人には無理な話だ」


男が薄笑いを浮かべながら突き出してきたのは、明らかに嫌がらせに近い内容の試験要項だった。


課題: 希少素材「月光草の雫」を三日以内に 100個 納品すること。

条件: 市場価格の半値で卸し、かつ品質は「良(Bランク以上)」であること。


「三日で100個……しかも、品質まで指定なんて……」


通常、その素材をそれだけの短期間で、かつ高品質で集めるには、大規模な商団を動かして他国から買い叩くか、腕利きの採取者を数十人雇わなければ不可能だ。個人が受けるには、最初から「お断り」と言っているに等しい、無理難題。

だが、ミーシャの脳裏に、ボロボロになりながらも笑うアドルの顔が浮かんだ。


(……いいえ、できる。アドルさんの【複製錬金】があれば。……素材さえ一つ確保できれば、この課題は突破できるはず)


ミーシャは震える指で、その不当な試験要項を強く握りしめた。


「……分かりました。その試験、謹んで受けさせていただきます」


「……フン、身の程知らずめ。三日後、泣き面を見せに来るのを楽しみにしてるよ」


商業ギルドの冷たい石床を歩きながら、ミーシャは心に深く誓っていた。自分たちの「城」を手に入れるために。アドルが切り拓いた道に、今度は自分が強固な橋をかける番なのだと。

その夜。店に戻った二人は、それぞれの「勝利」と、眼前にそびえ立つ「壁」を静かに共有することになる。

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