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第25話:湯気越しの誓いと、新たな発明

「おい、ドラン! ミーシャに何をしたんだ!」

冒険者ギルドでの初仕事を終え、期待と疲労を抱えて店の重い扉を開けた瞬間、俺の視界に飛び込んできた光景に、思考が怒りで真っ白に染まった。

そこには、埃っぽい床に這いつくばり、泥と汗にまみれて肩を激しく上下させるミーシャの姿があった。端正だった服は無残に汚れ、露出した白い肌には、激しい修練の跡と思われる痛々しい赤みが幾筋も浮き出ている。俺は手にした銀のタグを握りしめたまま、ドランの胸ぐらを掴みかねない勢いで詰め寄った。

「待って……アドルさん、違うの……っ」

怒声に震える声が割り込んだ。ミーシャだ。彼女は膝をつき、肺が焼けるような呼吸を必死に整えながら、俺の服の裾を泥のついた手で弱々しく掴み、必死に俺を制止する。

「ドランさんは……私のわがままを、聞いてくれただけ……。私が、お願いしたの。だから、怒らないで……お願い……」

ミーシャの、これまで見たこともないほど強く、悲壮なまでに真剣な眼差しに射抜かれ、俺は突き上げた拳を力なく降ろすしかなかった。ドランはフンと鼻を鳴らし、関心がないと言わんばかりの足取りで奥のカウンターへと引っ込んでいく。

俺は汚れも気にせずミーシャを抱き上げた。驚くほど軽く、そして熱を持った彼女を、二階の「城」へと静かに運び込んだ。

部屋に戻り、急造のベッドの縁にミーシャを座らせる。彼女は支えを失えば崩れ落ちそうなほど消耗しており、俺の肩に力なく頭を預け、消え入りそうな掠れた声で話し始めた。

「私……アドルさんの『お荷物』には、なりたくないの。……今までずっと、守ってもらってばかりだった。でも、このリュステリアのルールは、そんなに甘くないって……ドランさんの話を聞いて分かったから」

ミーシャの細い指が、俺の腕の筋肉を壊れ物を掴むように強く握りしめる。

「修行は……想像してたよりずっと、脳が引き裂かれそうなくらいきつい。でも、絶対耐え抜いてみせる。アドルさん、少しだけ……少しだけ待っててくださいね。必ず、あなたの本当の力になってみせますから……」

彼女の震える体から、皮膚を通して伝わってくる不屈の意志。俺は彼女の背中に手を回し、優しく、けれどはっきりとした確信を持って言い聞かせた。

「……ミーシャ。君はもう、充分すぎるくらい俺の力になってるよ。君がいなきゃ、俺はとっくにこの街の片隅で野垂れ死んでた」

「アドルさん……」

ミーシャが顔を上げ、俺を真っ直ぐに見つめる。至近距離で合う視線。その瞳の奥に、信頼を超えた微かな熱が宿った。

「アドルさん……一つだけ、わがままを言ってもいいですか?」

「ああ、何でも言ってくれ。俺にできることなら」

「私……お風呂に入りたい。この世界には、そんな文化はないのかもしれないけど、連日の修行で、もう心身ともに疲れ切ってて……わがまま、聞いてくれない?」

ミーシャが、潤んだ瞳で上目遣いに俺を覗き込んでくる。

一瞬、心臓の鼓動が耳元で鳴るほど大きく跳ねた。泥に汚れていても隠しきれない、彼女の無防備な女としての表情に、俺は思わず目を逸らした。

「……わかった。明日、風呂を作るよ。ドランに相談してみる」

「本当……? ありがとう、アドルさん」

ミーシャは心底安心したように微笑み、そのまま緊張の糸が切れたのか、数分もしないうちに、俺の腕の中で深い眠りに落ちていった。

ミーシャの規則正しい寝息を確認してから、俺は静かに一階へ降りた。ドランはカウンターの隅で、相変わらず手入れの行き届いたグラスを、月光を反射させて磨いていた。

「ドランさん。……昼間の修行、あまり厳しくしすぎないでやってくれ。あいつは見た目以上に強情で、無理を押し通そうとするタイプなんだ」

ドランは手を止めず、不敵な笑みを口端に浮かべた。

「フン、見ればわかる。だがな、あの娘は自分の意志であの地獄を選んだんだ。……で、小僧。用件はそれだけか?」

「いや。もう一つ相談だ。……この店に、『風呂』を作らせてほしい」

「フロ? なんだそれは。聞いたこともねえな」

ドランが不審げに眉を顰める。どうやらこの世界には、全身を湯に浸かって疲れを癒やす文化自体が存在しないらしい。不潔になれば布で拭くか、浄化の魔法で事足りるのが一般的なようだ。

「なら、ドランさんにも見せてやるよ。現代知識と俺の**【複製錬金】**を合わせれば、最高の癒やしが作れる。スペースを借りたいんだが、構わないか?」

「……勝手にしろ。店の裏の中庭なら、ガラクタしかない。そこなら好きに使え」

ドランの許可は出た。

俺は一階の隅にある、誰も見向きもしないジャンク品の中に目を向けた。頭の中で、かつての世界で培った五右衛門風呂の熱交換理論や、最新のユニットバスの快適な構造を思い描き、**『想像錬成』**のためのレシピを緻密に組み立て始めた。

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