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第21話:二人の決意と、異世界の秘密

ドランが淹れてくれたお茶は、長年使い込まれた古い鉄瓶の味が微かに混じり、舌先に心地よい苦味を残しながらも、驚くほど深く体に染み渡った。二十年という長い沈黙を破り、自らの壮絶な過去を曝け出してくれた彼に対し、俺もまた、自分の決意を言葉にする時が来たのだと感じていた。

「ドランさん。……俺たちには、帰る場所なんてどこにもないんです」

俺は温かい湯気が揺らめくカップを見つめながら、静かに語り始めた。かつての世界で、組織という巨大な歯車の一部として日々を摩耗させていた頃の自分には、本当の意味で「自分の場所」などなかったのかもしれない。

「やっとあんたに認めてもらえた。まずはこの店を拠点に、ここで生活の基盤を作っていく。それが俺たちの出した答えです。……ただ、いつまでもこの店で甘えるつもりはありません。いつかは、自分たちの家と店を持って、誰にも縛られず自由気ままに暮らしたい。それが、俺とミーシャの共通の目標です」

隣に座るミーシャが、小さく、けれど迷いのない力強さで頷くのが気配でわかった。

「そのためには、やはりギルドに登録して身分証を手に入れる必要があります。たとえこの街のシステムがどれほど腐りきっていたとしても、市民権という名の『切符』がなければ、この店から一歩出ることさえままならない。……俺たちは、この街のルールに従うふりをしながら、俺たちの自由を勝ち取りたいんです」

俺の言葉を聞き、ドランは低く笑った。それは自嘲でも冷笑でもない、腹の底から湧き上がるような、どこか懐かしさを孕んだ笑い声だった。

「……そうか。なら、俺は全力であんたたちを支援する。それが、今の俺にできる最高の恩返しだ。……見ての通り、俺はもう死に損ないの腐れ人じゃねえ。あんたたちのその真っ直ぐな目を見ていたら、……柄にもなく、嫁や娘のことを思い出してしまったからな」

ドランは眼帯をきつく締め直し、曲がっていた背筋をピンと伸ばした。その佇まいは、もはや路地裏の酔っ払いなどではない。一人の「大賢者」としての威厳と魔力の波動が、静かに、しかし圧倒的な密度でその場を満たしていく。

「今さらこの老いぼれに何ができるかは分からねえ。だが、もう一度、自分のやりたいようにやってみようと思っている。……たまたまだが、俺はこれでも錬金術師であり、魔導士だ。あんたたちに教えられることは山ほどあるだろう。役に立たせてくれ」

ドランはそこで一度言葉を切り、俺とミーシャを射抜くような鋭い目で見つめた。

「……その前に。あんたたちの『秘密』について、少しだけ踏み込ませてくれないか。もちろん、命に代えても言えないことは伏せておいていい。ただ、俺があんたたちに的確なアドバイスをするには、せめてその異質な力の一部でも知っておく必要がある」

ドランは一息つくと、声音を和らげて続けた。

「あんたたちはどこから来て、どうしてその『人外の業』を持っているのか。……話せる範囲だけでいい。俺に、あんたたちの物語を教えてくれ」

俺は隣のミーシャと視線を交わした。彼女の瞳に迷いはない。ドランという男は、今朝の騒動で自らの目を犠牲にするような「嘘」までついて俺たちを守った。彼なら、俺たちの秘密を墓まで持っていってくれる。そう確信できた。

「……分かりました。俺たちの話は、おそらくこの世界の常識では信じられない内容かもしれません。……俺たちは、この世界の人間ではないんです。別の世界から、『転生』という形でここにやってきました」

俺は、元の世界での仕事のこと――組織の中で利害関係を調整し、平穏を保つために奔走していた日々。そして、文字というチャットツールだけで繋がり、顔も知らなかったミーシャとの奇妙な縁。そして、何の前触れもなくこの過酷な世界に放り出された瞬間に発現した、現在の力と、二つの権能の詳細について話し始めた。

「俺の権能は**【複製錬金】。一度『所有』したもののレシピを解析し、素材と質量を消費することで再現する力です。そしてミーシャは、あらゆるものを時間停止状態で保管し、10m以内の距離であれば俺と共有できる【異空間保存】**を持っています」

現代の工学知識という武器と、この世界のシステムを根底から無視する権能。それらを掛け合わせて、リュステリアという巨大な檻の中でどう生き抜こうとしているのか。ドランは時折、驚きに目を見開き、あるいは感心したように深く息を吐きながら、俺の言葉を一つも漏らさぬよう、真剣な面持ちで聞き入っていた。

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