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異世界複製錬金術師~所有した物を無限コピーするチート錬金で武器も罠も量産無双~  作者: あくす
第四幕 反撃編~対四天王~

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第126話 : 蓄積する熱、未完成の器

切り立った岩肌が続く山道を、一台の馬車が軋んだ音を立てて進んでいた。


リュステリアを出発してから数日、周囲の空気は薄くなり、肌を刺すような冷気が立ち込めている。


馬車の窓から見える景色は、もはや道とは呼べないほどに荒れ果てていた。


ガタガタと揺れる車内で、アドルは隣に座るミーシャの様子を窺っていた。


彼女の右腕には、幾重にも巻かれた分厚い包帯が痛々しく巻き付けられている。


その隙間からは、どろりとした漆黒の魔圧が陽炎のように立ち昇り、周囲の空間を微かに歪ませていた。


「ミーシャ、顔色が真っ白だぞ。少しは意識を緩めたらどうだ」


アドルの問いかけに、彼女はこめかみに汗を浮かべながら、短く息を吐いた。


「だめよ……。一度でも緩めたら、この中で練り上げた魔力が一気に暴走してしまうわ。常に圧縮し、貯め込み、増幅し続ける、この状態が当たり前で生活できるようにならないと──。

いざという時にすべてを解放して、絶望的な差を埋めるための力なんだから。この程度の苦痛、今の私には必要なものよ」


包帯の下にある右腕という器には、ミーシャが日常のすべてを削って生み出した高密度の魔力が蓄積され続けている。


それは彼女にとっての切り札であり、同時に自らの身を内抜きにする諸刃の剣でもあった。


アドルは、次に現れる強大な魔族に対抗するため、極限の火力を求めて自らを追い込む彼女の横顔を、静かに見守るしかなかった。


「……俺も、ただ隣で見ているわけにはいかないな」


アドルは足元に転がっていた、何の変哲もない小さな石ころを拾い上げた。


今彼が挑んでいるのは、武道大会で目にした属性付与の技術を自らの錬金術で再現すること。


だが、その第一歩である器の作成からして、困難を極めていた。


「解析。石の不純物を取り除き、魔力を受容するための回路を構築。瞬きの錬金、再構成」


アドルの視界の中で、石の内部構造が数万通りの演算を経て組み替えられていく。


手の中にあった石は、次第に不純物を排し、透明な結晶体へと姿を変えていった。


それは魔力を流し込むための空の器、属性剣晶の雛形だ。


「よし、器としての形は保てている。ミーシャ、無理を言っているのは分かっているが、少しだけ魔力を分けてくれないか」


「ええ……。左手なら、少しは自由に動かせるわ。やってみるわね」


ミーシャが包帯の巻かれていない左手をかざし、剣晶に触れる。


彼女が意識を集中させると、指先から赤く輝く魔力の奔流が溢れ出した。


「ファイア!」


炎の魔力が剣晶に流れ込む。


だが、その瞬間、パキンという鋭い音と共に、アドルの手の中にあった結晶が粉々に砕け散った。


破片が熱を帯びたまま床に転がる。


「……失敗か。魔力の圧力に対して、結晶の強度が足りていないな」


「ごめんなさい、アドルさん。私の魔力の出力が高すぎて、器が弾けてしまったみたい」


「いや、ミーシャのせいじゃない。俺の設計が、高出力の魔法を想定できていないんだ。次はもっと密度を上げて、魔力を受け流すための流路を複雑化させる必要がある」


アドルは再び石を拾い、演算を繰り返した。


結晶の純度を上げ、幾何学的な模様のような魔力回路を刻み込んでいく。


だが、何度やっても結果は同じだった。


火炎の熱量に耐えきれず溶け落ちるか、魔力の衝撃に耐えられず爆発するか。


錬金術で無理やり形を作っても、そこに魔法という異質なエネルギーを定着させるのは、想像を絶する難易度だった。


「……出力を、極限まで落としてみてくれ。火を灯すのではなく、ただ熱を移すようなイメージだ」


「分かったわ。……これならどうかしら。プチファイア」


ミーシャが指先に灯した、今にも消えそうな小さな火種。


それをアドルが差し出した新しい剣晶へと、慎重に、糸を紡ぐような繊細さで流し込んでいく。


アドルの脳内では、流れ込む魔力の動きに合わせ、リアルタイムで剣晶内部の回路を微調整し続けていた。


秒間数万回の演算。


瞬きの錬金による、極限の最適化。



「……定着した。……固定完了!」



アドルの手の中に残ったのは、淡い赤色の光を宿した小さな結晶だった。


ファイアのような爆発力はない。


だが、その結晶からは絶え間なく、確かな温もりが放出されている。



「成功だ。プチファイア級だが、魔力を完全に定着させたぞ。これを武器に嵌め込めば、即席の属性武器になる。……まだ実用には遠いが、一歩目としては十分だ」


「あはは……。たったこれだけのことに、二人がかりで心底疲れ果てるなんてね。でも、確かに手応えはあったわ」


ミーシャが疲弊した顔で微笑む。


アドルは手の中の小さな熱源を見つめ、さらなる改良の余地を確信した。


ミーシャが右腕に溜めているような強大な魔力を、この結晶が受け止められるようになった時、自分たちの力は真の変革を迎えるはずだ。


「アドルさん、ミーシャさん、見えたなの! 大きな門があるなの!」


御者台に座るルルの叫び声が、冷たい山風に乗って届いた。


馬車の進行方向、二つの巨岩に挟まれるようにして、圧倒的な威圧感を放つ巨大な石門がそびえ立っていた。

そこから漏れ出すプレッシャーは、これまでの魔物の比ではない。


ついに辿り着いた。


龍の里の入り口に。


アドルは手の中の火の結晶を強く握りしめ、覚悟を決めて馬車を降りた。

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