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第11話:村の防衛戦と、希望の火矢

「来たぞ! 盾を構えろッ!!」

ボルグの裂帛の気合が、夜の静寂を粉々に砕いた。

直後、村の北側に築かれた仮初めの柵が、内側へ向かって大きく撓む。

森の闇が揺れ、そこから這い出してきたのは、統率されたゴブリンの軍勢だった。

アドルは、補強された柵のすぐ背後に陣取った。

既にそこは、平穏な広場ではなく、異世界の「工廠」へと変質していた。

「ミーシャ、素材を全部ここに下ろせ! 俺はここで武器を回す!」

「分かりました! ボルグさん、これで皆さんの怪我を!」

並走するミーシャが、自身の空間から素材を吐き出す。

ドサリ、という重苦しい音と共に、大量の木材と鉄屑が地面を埋めた。

そしてその傍らには、彼女がこの数日の仕事の合間に、人知れず集めていた貴重な薬草の束が置かれる。

アドルは即座に手を伸ばし、その緑の束を【鑑定】した。

【鑑定:癒やしの薬草(野良) 状態:良好】

(……よし、レシピ解放。これだけの素材があれば、三十は作れる!)

カポッ、カポッ、カポッ――。

戦場の喧騒を縫うように、連続した錬成音が規則正しく鳴り響く。

アドルの目の前には、修繕の果てに手に入れた「品質C」の投槍と木の盾、そして複製された薬草が、みるみるうちに山をなしていく。

「レオン、これを持って行け! リナ、怪我人をこっちに! この薬草を使え!」

「うん!」「任せて、アドルさん!」

レオンは山積みの盾と槍を必死に抱え、前線の大人たちへと弾丸のように走る。

リナは傷ついた村人のもとへ駆け寄り、アドルが複製したばかりの薬草を、その小さな手で丁寧に塗り込んでいく。

子供たちの懸命な足取りが、絶望に沈みかけた村の士気を、細い糸のように繋ぎ止めていた。

前線では、ミーシャがボルグと共に村人たちを鼓舞していた。

彼女の凛とした声が、風に乗って戦場を駆け抜ける。

「盾で受けて! 焦らないで、槍を投げるのは私の合図の後です!」

「皆、あのお嬢さんの言葉に従え! この村を、家族を守るんだッ!」

ボルグの叫びが村人たちの背中を押し、素人同然の集団が、一つの「軍隊」として機能し始める。

空を覆うアーチャーの矢を、複製された木の盾で一斉に防ぎ、ウォーリアが踏み込んできた瞬間に投槍の集中投射。

アドルの量産した「数」が、確実に、そして残酷に敵の命を削り取っていく。

その激戦の最中だった。

ミーシャの身体を、鋭い光の残滓が包み込んだ。

(レベルが……上がった……?)

アドルの脳内にも、共有圏を通じて新たな感覚が奔る。

ミーシャが咄嗟に右手を振るった。

その動作に呼応するように、大気が悲鳴を上げ、目に見えない空気の刃が放たれる。

【スキル:ウインドカッター】

鋭利な風が、突進してきたエリートゴブリンの太い首を正確に、そして容易く刈り取る。

ミーシャはその新たな力を軸に、さらに戦場を支配し始めた。

量産の手を止めたアドルは、砕けかけの盾を二枚掴み、前線へと躍り出た。

そこには、この軍勢の頂点――ゴブリンキングが待ち構えていた。

「ミーシャ、ボルグさん! ここは俺が引き受ける。負傷者を中へ!」

アドルは中央で咆哮を上げるキングの正面に立ち、二枚の盾を重ねて構えた。

玉座のような輿から立ち上がったキングが、禍々しい王冠を揺らし、巨大な骨の棍棒を振り下ろす。

ドォォォォォンッ!!

「ぐ、あああぁっ!!」

二枚重ねの盾が悲鳴を上げ、アドルの腕の骨が軋む。

ステータス差は歴然だった。

キングの一撃はあまりに重く、視界の隅にあるアドルの HP バーが、一気に警告色まで削り取られる。

(死ぬかと思ったが……まだ繋がっている……!)

アドルはリナが届けてくれた予備の薬草を強引に口に含み、噛み砕いた。

苦い汁が喉を焼き、強引に身体を繋ぎ止める。

盾の破片を食いしばり、アドルは地を這うような姿勢で耐え続けた。

だが、状況は依然として厳しい。

敵の数は残り数体まで減ったが、このキングの防御が突破できない。

アドルの攻撃は通じず、防戦一方で装備の予備も尽きようとしていた。

その時だった。

背後で戦況を凝視していたミーシャが、アドルの足元に積み上がった「余った投槍」の山を見て、何かに気づいたように叫んだ。

「アドル! そこにある投槍の在庫、全部で何本ありますか!?」

「何本だと!? ……百は下らないはずだ!!」

「十分です! そのままキングを誘導して、私から離れてください!」

ミーシャの瞳に、確信に満ちた光が宿る。

アドルは死に物狂いでキングの注意を引きつけ、その巨躯が自分を追うように仕向けると、彼女の射線から大きく横へ飛び退いた。

ミーシャが両手を大きく広げ、魔力を一点に集中させる。

地面に山積みにされた、百本以上の「品質C」の投槍。

その背後に、かつてない規模の風の渦が逆巻いた。

「風よ、すべてを押し流して! ……ウインドカタパルト!!」

放たれたのは、細い刃ではない。

凄まじい風の圧力が、地面の投槍を一斉に叩き、弾き飛ばした。

一本、また一本ではない。

百本以上の槍が、暴風の加速に乗って弾丸のような速度で射出される。

それは技術を凌駕する、文字通りの『数の暴力』。

「ギ、ギガァァァッ!?」

キングが盾を構える暇さえなかった。

無数の槍がキングの巨躯を串刺しにし、背後の地面ごと縫い止める。

魔法の加速を得た物量は、キングの分厚い筋肉さえも易々と貫き、戦場を唐突な静寂へと変えた。

立ち込める土煙の中、キングの身体が光の粒子となって消えていく。

その後に残されたのは、戦場を埋め尽くす投槍の森と、信じられないものを見たように呆然とする村人たちの姿だった。

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