表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界複製錬金術師~所有した物を無限コピーするチート錬金で武器も罠も量産無双~  作者: あくす
第三幕 王都編~古の歴史~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/111

第106話:真っ白な空間

見渡す限り、境界線のない白が広がっていた。


上下も左右も判然としないその真っ白な空間で、アドルとミーシャは自分たちの存在が希薄になっていくような錯覚に陥る。


そんな二人を前に、リーネは楽しげに指先を弄びながら、冷徹な観察者の瞳で二人を射抜いた。


「さて、まずは聞き取りから始めましょうか。アドル、あんたが今までどうやって戦ってきたのか、その薄っぺらい手札を全部見せてちょうだい」


アドルは一息つき、己の戦い方を淡々と披露し始めた。複製・想像錬成のプロセス、上振れについて、そして事前に道具を準備し、不測の事態に備える戦術。


一つ語るたびに、リーネの眉間の皺が深まっていく。


「……うーん。率直な感想を言っていいかしら? あんた、ずいぶん世界に気を使って生きてるわね。もっとめちゃくちゃできるでしょう? 文明の発展段階とか、その場の理屈とかを無視すれば」


「それは……」


「まあ、あんたなりの矜持があるなら口は出さないけど。そもそも、この世界なんて所詮は劣化したコピーなのよ? そんなに気を使う必要なんてないと思うけどねぇ」


リーネは心底つまらなそうに肩をすくめた。

彼女にとって、この世界を維持することは「義務」であっても「敬意」の対象ではない。

その価値観のズレに、アドルの背筋を冷たい汗が伝う。


「それで、アドル。あんたは自分の弱点を何だと思っているの?」


「……即応能力の欠如だ。俺の錬金術は、どうしても事前の準備に依存する。戦闘中にその場の状況に合わせてタイムリーな対応をするには、どうしても手数が足りない。だからいつも事前に準備して、ミーシャの異空間に入れておかないと勝負にならないんだ」


「待って。ミーシャの……異空間って何?」


不意に、リーネの瞳から退屈の色が消えた。

ミーシャは少し戸惑いながらも、自身のスキルについて説明を始めた。


無限に近い容量、内部の時間停止、そしてアドルとの共有機能。

説明を聞き終えた瞬間、リーネの顔が劇的に変化した。

驚愕に目を見開き、口元を引きつらせ、それから狂おしいほどの歓喜に頬を染める。


「はぁぁ!? なによこれ! 複製錬金なんかより、こっちのスキルの方がよっぽどやばすぎるわよ! えっ、ちょっと……どうなっているの、その空間。構造はどうなっているの? 興味しか湧かないわ……!」


彼女はミーシャに詰め寄り、獲物を見るような目で見つめた。

先ほどまでアドルの「世界初」のスキルに期待していたはずの彼女が、一瞬でミーシャの異能に心を奪われている。


「……アドル、あんたはもういいわ」


「ちょっと……待ってくれよ!」




「冗談よ。それにしても、今回は相当ぶっ飛んだスキルを所持させてきたわね……あちらの神様も、劣化を止めるのに必死なのかしら。こんなの、二人揃えばそれこそ無双できるじゃない。あんたたち、何でそんなに遠慮して生きてきたのよ?」


「……俺たちはあんたとは感覚がズレているんだ。この世界に来たばかりの新参者だぞ。『郷に入っては郷に従え』。この世界のルールに則って、ここで上手く生活していく。まずはそれを基軸にしようと決めていたんだ」


アドルの言葉に、リーネは呆れたように首を振った。


「なるほどね、理解できなくもないわ。逆に世界がぶっ壊れるのを本能で恐れているのかしら。でも大丈夫、私、今まで相当ぶっ飛んだことしてきているけど、世界はまだ形を保っているわ。『禁忌の森の奇跡』とでも言っておけば、大抵のことは何とかなるものよ」


リーネは不敵に笑うと、思考を切り替えるようにポンと手を叩いた。


「さて、アドルの育成方針は決まったわ。次はミーシャ。……正直、個人的にはその異空間保存に興味津々で、それだけで百年前後研究させてもらいたい気分だけど、今は我慢しましょうか。アドルがいなくても、あんただけでも相当強い気がするけれど……。いいわ、ミーシャ。まずはあなたの修行方針から説明するわね」


リーネの瞳に、教育者としての嗜虐的な光が宿る。


「あなたに会得して欲しいのは……そうね、名前を付けるなら『真・二重螺旋詠唱』。あるいは『片手二重螺旋詠唱』かしら」


「片手で……!? そんなこと、できるんですか?」


「ええ。試しにドランにも教えてみたけれど、あの子は出来なかったわ。早々に諦めて『両手でいい』なんて言い出して。でも、あなたならできるはず。これさえできれば、杖を持ったまま、あるいは他の動作をしながら詠唱ができる。取り回しが劇的に変わるわよ」


ミーシャの表情が引き締まる。


片手で二重螺旋ができれば、戦術の幅は無限に広がる。アドルを守るための力が、また一つ見えた気がした。


「アドル、ちょっと待っていなさい。ミーシャに基本修行の仕込みをしてくるわ」



リーネはミーシャを少し離れた場所に連れて行くと、どこからか取り出した二本の紐を弄び始めた。

「ミーシャ、やることはめちゃくちゃシンプルよ。あんた、利き手はどっち?」


「左手、です」


「なら丁度いいわ。右手だけで二重螺旋を作るイメージを、ひたすら訓練するわよ。いきなり最大出力を出そうとしないで、まずは九対一の割合から始めなさい」


リーネはミーシャの右腕を掴むと、その二本の紐を複雑に絡ませながら、螺旋状に巻き付けていった。


「右手で普通に単体詠唱をしながら、もう一本の魔力の流れを、同じ腕の中に螺旋状に……細くていいから、持ってくるイメージをつけるの。ちょっと右腕貸して」


「はい……っ」


リーネの指先がミーシャの肌を這う。紐が締め付けられる感触と共に、魔力の流れるべき「道」が物理的に示されていく。


「よし、こんな感じかしら。この紐を魔力の流れだと思い込みなさい。……ふふ、こうして縛ってみると、なんだかちょっとえっちね」


「な、何を言ってるんですか、リーネ師匠!」


ミーシャは顔を真っ赤にして叫んだが、リーネは「冗談よ」と軽くいなす。

だが、その瞳の奥には一切の妥協がなかった。


「これを毎日意識して。些細な日常の動作でも、常に片手螺旋をイメージするの。分かった? しばらくはこの地味な訓練よ」


「……わかりました。やってみます」


ミーシャの返事を聞き、リーネは満足げに頷いた。しかし、彼女の視線はすでに、後ろで待機しているアドルへと戻っていた。


「ミーシャ、ちょくちょく見に来るから頑張るのね。……さて、アドル。あんたの修行は、もっと根源的なものになるわよ」


リーネがアドルへ歩み寄る。


その足音一つ一つが、アドルの心臓を強く打ち鳴らした。二ヶ月。この「化け物」の隣で生き抜いた時、自分は一体何者になっているのか。

アドルの前に立つリーネが、不気味なほど甘い微笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ