人間合格祭
「や……、やめて!」
壁に追い詰めた女が必死に命乞いをする。
「やめて! 私が何をしたって言うのおオォォ!?」
あたしは腕組みをしたまま、何もしなかった。ただ顔に愉快な笑いを浮かべただけだった。
女を壁に追い詰めた又三郎は、ヒョットコのお面をかぶったまま、無表情に手を動かした。両手に持った大きな剪定鋏が女の首に伸びる。
「ぱきゃむ!」
そんなような声をあげながら、女の首が飛んだ。
「おめでとう」
あたしは胴体だけになった女に拍手を贈り、教え諭すように言った。
「あなた、人間合格よ!」
女の首を切った又三郎がくるりと後ろを向く。
路地裏の向こうには、早い足取りでどこかへと急ぐ通行人がチラホラと見えた。
「又三郎……Go!」
あたしが命じると、又三郎は感情のひとつも感じさせずに、表通りへ向かって歩きだす。
ザシ、ザシ、ザシ……そのゆっくりとした足音が、あたしを興奮させた。
サイレンの音が近づいてきた。
通行人の身体を片っ端から切断している又三郎に向けて、武装した警官隊の声が拡声器から浴びせられた。
「武器を捨てろ! 大人しく手を上げれば発砲はしない!」
ばかだねぇ……。
あたしの又三郎がそんな言うことを聞くとでも?
又三郎はゆっくり歩いていたかと思うと、一瞬で警官隊の前まで飛び、一瞬にして七人の警官の首を飛ばした。
「発砲を許可する! 撃て!」
又三郎に向かって銃弾の嵐が浴びせられる。
そんなもの効くわけがないでしょ。
又三郎は人間じゃないのよ?
銃弾を浴びながら又三郎はまた瞬間移動し、警官隊をあっという間に壊滅させた。
いいわァ……。
とんでもなくいい拾い物をしたものね、あたし。
地球を破壊し、ゴミを撒き散らし、あたしを疎外する人間ども。おまえらは息をしているだけで罪なのだ。
又三郎に絶滅させられてしまえ!
人間であるというだけで、おまえらは罪なのだ!
その辺りにいた人間どもをすべて切断すると、又三郎は動きを止めた。
歩道もアスファルトも血に染まり、ふたつに分かれた人間どもが、物も言わずにそこらじゅうに転がっている。
気持ち悪い。
でもとっても気持ちがいい。
あたしは又三郎の背中から2メートル離れたところに立ち、自由な風を全身に感じた。
「人間合格祭ね」
斃れているみんなに拍手を贈った。
「おめでとう! おめでとう! あなたたちは人間として認められたのよ!」
それは祝福でもあり、自虐でもあった。
あたしは又三郎に殺されない。
人間と認識されていないということだ。
又三郎は人間と認めたものを切断する。
あたしはされない。
あたしは人間じゃない。
いいんだ。
何しろ最初に又三郎が首を切ったのは、あたしの両親だったんだもの。気持ちよかった。
くだらない人間の世界など滅びてしまえ!
ぴくり、と又三郎が動いた。
まだ生きてる人間がいたのかしら? と見ると──
子猫がトトトとやってきて、切り離された女の首にすり寄った。飼い主だったのだろうか?
それに反応して鋏を掲げた又三郎に、あたしは思わずストップをかけた。
「待って! 又三郎! その子は人間じゃ……」
又三郎の鋏が子猫を胴から真っ二つにした。
「あああッ!」
あたしは思わず絶叫した。
「猫ちゃん!」
くるりと振り向いた又三郎の剪定鋏が、あたしを腰から真っ二つにした。
アハハ……
あたし、人間合格しちゃった……?




