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(8/8) 前へ前へ、未来へ踏み出す(後編)

カーシェアの自動車を運転中の笹崎に電話が入る。スピーカーモードで運転しながら会話する。トオルさんからだ。

「笹崎君、はじめまして。中森トオルです。君の位置はコチラで見えているから、このまま誘導しますよ」

「お願いします」

「オフィスから君への通信と、君の位置はモニターしていたけど、意外に大胆な行動をするんだね」

「スマフォを届けるという事だけに頭が行っていて、他の事が見えてなかったみたいです」

「うん、そんな感じだった。いいね、その集中ぶり」

中森トオルは確かに笹崎の位置を把握しているようで、分岐点で、右、左とスマフォから指示が来る。


「トオルさん、白鳥チーフが言っていたのですが、このスマフォが届かないと世界中のネットワークが停止するの本当ですか?」

「ははは、チーフらしいジョークですね。そんなわけないの、笹崎君も分かるよね」

「はい。でも何か気になってます」

「着いたよ」


山道を1時間くらい走っていただろうか。少し広い所に出てその広場の隅に古民家風の平屋がある。

平屋の脇に車を付けると家の中から背が高い男が出てきた。30歳から40歳の間くらいだろうか。筋肉質でIT技術者というよりスポーツ選手に見える。


「遠路はるばる、ようこそ。まずは休憩しようか」

中森トオルは笹崎を家の中に招き入れた。外観は和風の古民家だが、中は都会のマンションのような造りだ。そのギャップに笹崎がやや戸惑っていると、トオルに促されソファに座る。

2つのコーヒーカップを持ってくるトオル。


「笹崎君、コンピューターは未来を予測できると思いますか?」

「対象分野によると思います。入力できる情報量が大きな分野であれば、かなり予測できると思います」

「逆に言うと、全く新しい分野だと予測が難しい」

「はい、それが現在の一般的な見解です」

「うん、模範的な回答ですね。でも実際には人間の思考など大きく超越していて、汎用的な予測や創造的活動は問題なく実現できています」

「それは言い過ぎではありませんか」

「そうですね。言い過ぎかもしれません。でも私たちはその可能性も考慮にいれ行動する必要があります」


笹崎は少し困惑していた。少しオカルトマニア寄りなのだろうか。しかし、このトオルさんには職場の誰もが一目置いている雰囲気を感じていた。

室内も外も静かだ。鳥の声さえ聞こえない。むしろ静か過ぎて不気味だ。


「可能性はあるかもしれません。しかし、それが出てきても振り回されることなく、良い未来になるよう進みたいと考えています」

笹崎は本心から言った。

家のそばに鹿でもやって来たのだろうか。小枝を踏むかすかな音が聞こえた。


「笹崎さんが冷静な方で助かりました。周りに振り回されないこと。それは大切ですね。笹崎さんがこれからどのように進まれるか、ずっと見てみたいと思いました」

笹崎はあわてて手を振る。

「そんな、、、買いかぶりですよ。僕は毎日の生活で手一杯ですから」


中森トオルは、それには応えずただ優しく笑った。

笹崎は持参したスマフォを渡して帰宅する旨を告げる。

「もう遅いから、泊まっていったらどうですか?」

「ありがとうございます。でも車だから大丈夫です。気になる事も多々あるのでこれで失礼します」

「そうですか。気を付けてくださいね。あ、笹崎さんが気になっている件は全て問題ないと思いますよ。チーフと小鹿さんが処理してくれたようです」

笹崎が、えっ、という顔をするとトオルは笑って肩をすくめた。


------------------------------------------


翌日の定時後、オフィスビルのカフェで笹崎は中村寛子と会話していた。

「山形は日帰りになったんですね?」

「うん、仕事はすぐに終わって、夜遅くに車で帰ってきた」

「そうそう、山形と言えばすごいニュースが昨日あったんですよ。山形新幹線が大型の熊を跳ねて半日止まったの知ってます?片目のすごい熊だったらしいです」


笹崎は少しだけ悩んで必要最小限で答える。

「うん、そんなニュースも聞いたよ」

「笹崎さん、車でよかったですね」

「そうだね。山形新幹線で他にニュースなかった?」

「列車への脅迫があったとか、そう言う噂はあったのですが、警視庁が否定していました。嘘情報が飛び交うので、ニュースの世界もなかなか難しいです」

「うん、大変だ」

「あ、嘘情報と言えばこんな話もありました。これは放送したのですが昨夜世界のコンピューターネットワークが停止の危機に直面し1人の日本人が回復させたらしいです。回復のためのキーデバイスを扱えたのがその人だけだったとか。ただ嘘か本当か不明で多くの人が奔走しているというニュースだったんですけど」

「不思議なニュースだね」

そう、笹崎はひと事のように答えた。


トウルさんと会った昨日の出来事が遠い過去のように感じた。

本当にあのスマフォは世界を救うキーデバイスだったのだろうか。それならそれでも構わないし、ただのフェイクニュースでも構わない。


「不思議ですよね」

「いろいろな話が飛び交うのはしかたないから、あまり振り回されず静かに暮らしたいなあ」

「笹崎さん、お年寄りみたいです」


笹崎は窓の外を見た。綺麗な夕焼けとレンズ雲が見えた。明日もいい天気になりそうだ。

未来はきっと良い方向に進む。


ー 終わり ー


※技術的な話、用語は全てフィクションです。実際にはありえない事象も出てきますが、そこは目を瞑ってください。

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