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(4/8) 上へ上へ、雲を見る(後編)

駅の近くの大衆食堂に二人で入った。

普通の定食を頼む。


「今日はいろいろありがとうございました。復旧できて本当に助かりました」

「いえ、僕は何もできていませんから」


メガネ女子は中村寛子と名乗った。地味な名前でしょうと自嘲気味に笑う。

「名前とか見た目とかどうでも良い話です」と本心から笹崎は言う。

「でも、うちの伊集院アナとか華やかですよね」

「あれは逆につらいんじゃないでしょうか。イメージを押しつけられ、つらい事も多くありそうな気がします」

メガネ女子が少し驚いたような表情をしたので、あわてて言う。

「あ、でも、伊集院アナは周りへの気配りや咄嗟の機転がすごいな、と思います。その意味で僕はファンです」

うん、これは本音だ。


「笹崎さんって、おもしろい考え方をするんですね」

「単なるひねくれ者なだけでしょう」

「IT技術者だから、表面でなく深い所を見るのですか?」

周りには人がいない事を確認し、固有名詞が出ないよう慎重に言葉を選ぶ。

「そんな偉そうなものでは無いです。問題発生時は見た目でなく、本質を捉えたいです」

「見た目を誤魔化すのは悪い事ですよね」

「立場上そうしなければいけないケースもあると思います。でも、素の自分を大切にしたいですね。僕は」


中村寛子は少し考え込むようにし、そして笑った。

「それ、とてもいいですね」


自分でも不思議だったのだが中村寛子との会話は楽しく、また相手からも悪くは思われてはいないようで、週に1回くらいのペースで食事を共にするのが習慣になった。


そんなある日クラウドニュース社からの依頼でセキュリティー対策の相談があった。

前回対応の大神リリー、小鹿美咲、そして笹崎が参加した。

クラウドニュース社側も同じメンバーで中村寛子も参加していた。

打ち合わせ自体は和やかに問題なく進み、定期的に対策と監査を行う約束をし、解散となる。


帰りのエレベーターの中でリリーが言う。

「笹崎、何か向こうの中村さんと仲良くなった?」

振る舞いには気を付けていたつもりだけど、この人はどこからそれを感じ取るのだ。野生の勘か?

「普通だと思いますよ」と笹崎はできるだけ冷静に返す。


「じゃぁ、あの子が伊集院アナと同一人物なの、気付いた?」

「それどういうジョークですか?」

「いや、真面目な話。今日あの子がしていたネックレス、少し特殊な奴で、午前のクラウドニュースの伊集院アナもしてたよね」

笹崎は驚き過ぎて言葉がうまく出ない。

「で、でも、声と顔が違いますよ」

「動画のリアルタイム変換だね、あれ。良くできているな、どこの会社のだろ」

とリリーの興味はもう技術的な部分に向いている。

「笹崎さんて、女性への観察力が皆無ですね」

と小鹿美咲がトドメをさす。


その日の定時後、笹崎はいつもの定食屋で中村寛子と食事をとっていた。

とても人気アナには見ないが、様々な切り口で話題を広げる対応力は、なるほどとは思う。

床に落ちていた前の客の食べ残しをさりげなくティッシュで包んで掃除したりする。そうだ。自分は伊集院アナにしろ中村さんにしろ、その容姿に惹かれたのではなく、立ちふるまいに惹かれたのだ。


さて、これをどう伝えたら良いのだろうか。自分にそのような高度タスクをこなせるのか。

と困ったようにこめかみを叩く笹崎の顔を見て、中村寛子は不思議そうに首をかしげる。

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