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上へ上へ、雲を見る(中編)

「それでは、状況をご説明します」

クラウドニュース社の会議室でリリーが説明を始める。


クラウドニュース社側も笹崎側も3名ずつで机を挟んで向かい合っている。

笹崎はクラウドニュース社側に先ほどのメガネ女子がいる事に驚いた。さらにはクラウドニュース社が同じビルにある事に驚いた。

ニュース配信の障害はリリーさんと美咲さんが30分で解決した。笹崎は指示の通りネットワーク機器を再設定しただけだ。


「簡単に言うと外部から侵入され、配信用のネットワーク設定を書き換えられていました」

リリーが淡々と説明する。専門用語を最小限にして誰にでも分かり易い説明をリリーさんはする。すごいな、と笹崎は考えていた。少しぼうっとしていたかもしれない。

昔から笹崎は思考が次々と連鎖し、考えが自分の中で彷徨うことがある。


「詳しくはコチラの笹崎から報告書をお送りさせて頂きます」

といきなりリリーから振られ、あわてて、よろしくお願いしますと発言する。

そのあわてぶりがおかしかったのか、メガネ女子がくすりと笑うのが見え、笹崎は少し嬉しく感じる。


クラウドニュース社の会議室を出て自社のフロアに戻る途中、笹崎はリリーに愚痴を言う。

「クラウドニュース社が同じビルなの、先に教えて下さいよ」

「ビルのテナントに何が入っているか確認するのは基本じゃないの?」

と正論を言われて、ちょっと意外な感じがした。

「仮にテナントを見てなくても、今日のレンズ雲のニュース。同じ雲がうちらのフロアの窓から見えていたの気づいていた?観察力不足ね」

あ、こっちのセリフはリリーさんらしいなと嬉しくなる。


「美咲さんも、同じビルなのご存知だったんですよね」

笹崎は小鹿美咲にも聞いてみる。

「知らない」

と素っ気ない回答が返る。

「美咲は自分の興味以外は見ないからね」とリリーが笑いつつ、言葉をつなぐ。

「でも、相手側のメガネの子、できる人だったわね。無駄な事は言わないけど返してきた質問が鋭い」


その通りだ。売店ではほとんど話せていないが、会議の場で頭がよい人だなと感じていた。もう一度会ってみたいなという意識は強制的に頭の奥に追いやった。

「笹崎。あの女の子にまた会いたいと思っているでしょう」とリリーが冷やかすように言う。


この人はエスパーか。笹崎は動揺を悟られないように返す。

「また報告会をやりたいですね」

「おやおや、無理して冷静なふりしてない?ふふ、お姉さんに任せなさい」

下手に返すと何をいじられるか分からないので笹崎はただ肩をすくめる。


「でも、あの子、何か屈折しているような感じがするのよね」

そういうリリーの言葉が笹崎は分かるような気がした。

というより、笹崎はその答がたぶんわかっている。


自分のありたい姿と周りが自分自身に対して抱いている印象。そのズレが大きいときの悩み。それがあるとき、何かを話す前に必要以上に慎重になってしまう。

あの人はそいう悩みを持っているのではないか。

笹崎はそういう事を感じていた。

というのも、笹崎自身が高校・大学時代にそういう事で屈折していたから。


その日の業務が終わり、帰宅しようとエレベーターを呼んだとき、上から来たエレベーターに昼間のメガネ女子が乗っていたのには驚いた。

お互いに軽く会釈をし、無言のまま1階に下りる。

1階の正面ドアを出て駅に向かうのも一緒だった。

駅に到着するとメガネ女子は私はコチラなのでと言った。路線は違うようだ。

じゃこれで、ではなく、なぜそのようなセリフを言ったのか笹崎は自分でも驚いた。


「もしよければ、晩ごはんでも一緒にたべませんか」

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