表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

7話 恋人ごっこ

 図書館で働く日々も慣れてきて、今日も館内を巡回していると、ソファーにひまりちゃんが座っていた。

 最近では見かけたら声を掛けてくれたり、わざわざ私のことを探しにきてくれる。まるでアヒルようだ。だが、今日は様子がおかしい。

 いつもの分厚い本ではなく、文庫本を読んでいた。

 顔を赤らめたり、手を目で隠したりしていた。


「……」


 怪しい……!

 私は足音を立てずに近づいて、文庫本の表紙を覗き込む。

 女の子同士が絡み合っているイラストが表紙に描かれていた。しかも「R18」の指定のロゴが。


「ひまりちゃん」

「わっ……な、菜乃花……!」


 ひまりちゃんはあたふたとして本を取り落とした。床に落ちた本を私は回収する。


「興味あるの?」

「……な、ない……!」


 顔を赤らめて、視線を逸らした。


「さっきまで、興味津々に読んでたのに?」

「……よ、読んでないもん……!」


 あ、ひまりちゃんが泣きそうだ。

 これ以上は揶揄うのはよそう。

 それに、うちの本棚に紛れ込んでいたのが悪いし。


「菜乃花は……その……」

「うん?」


 ひまりちゃんの言葉の続きを待つ。


「こ、恋人、いる……?」


 さっきの本の影響か。


「うーん……どう思う?」

「い、いると思う……」

「へー、どうして?」

「菜乃花は……優しいし、可愛いから……」


 可愛いね……そんなこと初めて言われた。

 髪はボサボサだし、服装だっていつも適当だ。

 可愛いと思われたいわけじゃないけど、言われると心に響くものがある。


「ありがとう……けど、恋人はいないよ」

「本当……?」

「うん、本当」


 私に恋人、出来るわけがない。

 恋人よりもダラダラと過ごす休日が好きだ。


「……じゃあ……キスは?」

「……それもないよ」

「そっか……」


 恋愛経験皆無でごめんよ。この手の話は宮村さんに振ってくれ。

 宮村さんは人と話すのが苦手だから、恋人いる可能性は低いけど。


「そう言う、ひまりちゃんはどうなの? 恋人いるの?」

「……い、いないよ」

「あ、好きな人は?」

「……ひ、秘密」

「えー」


 この反応、好きな人いるね。

 めちゃくちゃ気になる……!

 私はひまりちゃんの隣に座った。


「いい、ひまりちゃん。私には恋愛経験はない。けど恋愛の知識なら豊富にある……!」


 そう、恋愛ゲーム(R18含む)で培った恋愛知識が……!


「だから、ひまりちゃんが恋をしてるなら、アドバイスできるよ」

「……」


 ひまりちゃんは顔を俯かせた。

 悩んでいるのかな、と少し待っていると、ひまりちゃんが指をもじもじさせながら、答えた。


「好きな人は、いない……でも、恋が気になる……」

「なるほど」


 恋に恋する年頃か。ひまりちゃんも女の子だね。

 私にもそんな時期が……あった……かな?


「だから、その……恋人ごっこがしてみたい」

「恋人ごっこね」

「菜乃花と」

「私とか……」


 恋人ごっこ。

 おままごとみたいなものか。


「……ダメ?」


 ひまりちゃんが目に涙を浮かべて、訴えかけてくる。

 くっ、そんな必殺技いつ覚えたんだ……!


「仕事が暇な時なら」

「……ありがとう……いつ暇?」

「えーと……今かな」


 むしろ、忙しい時の方がない。


「……今から始める」

「えーと、了解」


 で、恋人ごっこて何をすれば良い?


「菜乃花」

「何?」

「名前、呼んだだけ……」

「……」


 可愛いじゃないか。


「その……手、繋ぐ……」

「はいよ」


 手を差し出すと、ひまりちゃんは恐る恐るといった様子で手を握った。

 私の手は爆発物か、何かか?


「えへへ……」

「……」


 ちっこい手。

 慎重に扱わないとぽっきり折ってしまいそうだ。


「……次は?」

「次……次は……デート!」

「デートね」

「うん……あそこで待ち合わせ」


 ひまりちゃんが指差したのは、バルコニーの前だった。


「私が待つ……」


 ひまりちゃんはソファーから立ち上がると、バルコニーへ向かって行った。

 私もゆっくりと後を追う。


「お待たせ」

「……い、今来たとこ……えへへ」


 このやり取りをしたかったんだろうな。


「じゃあ、行こうか」

「……む」

「えーと……ひまりちゃん?」


 ひまりちゃんは頬を膨らませていた。

 くっ、選択肢を間違ったか……!


「……褒めて」


 デートでオシャレをしてきた女の子を褒める。ギャルゲーで良くあるパターンじゃないか……!


「……」


 でも、ひまりちゃんいつもの服装なんだよな。

 よし、ここは少し遊び心を加えよう。


「まるで、女神が地上に舞い降りたかのようだ」


 うん、自分で言ってて恥ずかしくなってきた。

 こんなキザ百パーセントのセリフ、リアルで言う人いないよ……!


「……嬉しい」


 あれ? ひまりちゃんが顔を真っ赤にして喜んでた。

 ひまりちゃんこういうのが好きなの?

 将来、ホストに引っ掛からないか心配になる。


「じゃ、じゃあ……行こうか……!」

「……待って」


 歩き始めようとすると、ひまりちゃんから声が掛かる。


「手、繋ぐ」

「あ、うん……」


 ひまりちゃんの手を繋ぐ。さあ、図書館デートの始まりだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ