6話 フォトアルバム
「つ、疲れた……」
正直、舐めていた子供の体力……!
あれから一時間炎天下の中、ひまりちゃんは写真を撮りまくりだった。
おかげさまで私の体力はすっからかん。
ひまりちゃんの定位置のソファーに私が座っていると、ひまりちゃんは私の膝を枕にして寝ていた。手にはカメラを握りしめている。
「……」
これでは仕事ができない。気持ち良く休んでいるので気が引けるが、起こさないと。
「お疲れ。ひまりちゃんに懐かれたわね」
「……まあ、ね」
私が子供に懐かれるなんて、夢にも思わなかった。
「菜乃花ちゃんも少し休んで良いわよ」
「え? 良いの?」
思わず、叔母さんに聞き返すと、叔母さんがニッコリと笑った。
「ええ……と、後は」
叔母さんは私にスマホを向けると、シャッター音が聞こえてきた。
「優子に送ってあげないと」
「お母さんに……?」
「ええ。あなたの娘は立派に働いてますよって。きっと、優子も泣いて喜ぶわ」
「いや、恥ずか」
「送信、と」
「……」
私の許可を得ずに叔母さんは写真を送った。
と、私のスマホが鳴った。
「菜乃花ちゃんにも送っておいたわ」
「ありがとうございます」
スマホを開くと、叔母さんからのメールが届いていて、写真が送付されていた。
「……」
一応、写真を保存しておく。
「ひまりちゃんが起きるまで頑張ってね」
叔母さんはそう言うと、離れて行った。
それにして、本当に気持ち良さそうに寝ている。
前髪を指でずらして、寝顔を眺める。
頬を指で突いてみる。
「柔らかい……」
次に唇に触れてみる。ぷにぷにしている。
感覚を楽しんでいると、寝ているひまりちゃんが私の指を咥えた。しかも、噛んでくる。
食べ物だと思われたか。
指を抜き、服で拭った。
「……」
もし、私に子供がいたらこんな感じか。
でも、この体力に毎日振り回されるとなると、大変だ。
「……」
瞼が重くなってきた。
疲労と温かな抱き枕のせいで、夢の世界が手招きをしてくる。
少し目を瞑るだけならいいか。
私は目を閉じた。
「星川さん」
「あれ? 宮村、さん……」
「……もう、閉館の時間」
「え?」
窓の外を見ると、すでに真っ暗だった。
「すいません……寝てました」
「うん……星川さん、今日は頑張ったから……」
「……」
お、宮村さんが褒めてくれている。
もしかして、距離が縮まった。
「あれ? ひまりちゃんは?」
いつの間にか、ソファーにひまりちゃんが居なくなっていた。
「……たぶん、帰ったと思う」
「そうですか」
私は立ち上がり、閉館の作業を始めた。
仕事が終わり、家に帰る。
お風呂に入ると、
「っ……」
痛みが走った。
日焼けのせいだろう。
***
翌日、叔母さんに頼んでカメラを現像してきてもらった。
「これもどうぞ」
「……ありがとう」
ひまりちゃんが叔母さんから貰ったのはフォトアルバムだった。
水色を基調とした花柄のフォトアルバムで、写真は百枚くらい入りそうだ。
私とひまりちゃんはソファーで写真を見る。
「……」
ひまりちゃんの写真を見る目は真剣だった。
「菜乃花も真面目に……」
「あ、ごめんね」
ひまりちゃんの顔を見ていたら、怒られてしまった。
写真を見てみるが、プロではないので、写真の出来は悪い。ブレていたり、間違ってシャッターを押したものをある。まあ、私自身、写真は撮らないから、仕方がないことだ。
「これ……いい」
「どれどれ」
覗き込むと、花畑が広がっていた。
どうやって撮ったんだ……?
「上手に撮れてるね」
「うん……」
ひまりちゃんはフォトアルバムに入れた。
満足気に眺めた後、フォトアルバムをぎゅーと抱きしめた。
「……」
可愛らしい笑顔を見ていると、頑張ったかいはあったと思える。
「……菜乃花」
「うん?」
「菜乃花の写真も入れて……!」
「私の写真か……」
撮った写真を眺めるが、ほとんど適当に撮ったものだ。
「あ……!」
最後の一枚は私と寝ているひまりちゃんを撮った写真だった。
叔母さんが気を利かせて、現像したのだろう。
流石に恥ずかしいなと思って隠そうとしたが、
「私と菜乃花……!」
写真をひまりちゃんに見られてしまった。
写真を右へ左へと動かすが、ひまりちゃんの目線が追ってくる。
「……これで」
諦めた私は写真をひまりちゃんに渡した。
ひまりちゃんは写真を見つめた後、フォトアルバムに入れた。
「写真もっといっぱい、撮りたい……!」
フォトアルバムの空きには余裕がある。
百枚くらい入るから、残りは九十八。
「菜乃花も、一緒に撮ろう、ね」
「あ、うん」
私も一緒か。
また、夏のお外で写真撮影か。
憂鬱な気分になるけど、ひまりちゃんの笑顔を見ていると、少し頑張るかと思えてきた。