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2話 初めての職場と一人暮らし

「ここが菜乃花ちゃんの新しい職場よ」

「……」


 叔母さんに連れられやってきたのは小さな洋館だった。

 くすんだ白色の壁には蔦が絡み付いている。真っ赤な屋根は所々煉瓦が壊れていた。外から玄関までには石造りの石板が敷かれて、植栽のアーチをくぐるようになっていた。

 小さな庭があり、煉瓦で作られた花壇には赤や黄色といった色とりどりの花が植えられていた。

 その横には、藤棚が設置されていて、その下にベンチが置かれている。


「ここが図書館?」

「そうよ。古い洋館を買い取って改築したよ」


 叔母さんが扉を開けると、カラコロンと音が鳴った。


「い、いらっしゃいませ、あ……お疲れ様です、黒井さん」

「お疲れ、宮村さん」


 図書館の受付には、メイドが立っていた。

 白と黒のメイド服。髪をポニーテールにしていた。

 年齢は私と同じくらいだろう。

 優しげな雰囲気を纏った彼女と目が合った。


「紹介するわ。これから一緒に働く星川菜乃花ちゃんよ。私の姪っ子なの。ほら、菜乃花ちゃん、挨拶して」

「初めまして……お世話になります。星川菜乃花です」

「は、初めまして……宮村佳代で、す……よろしく、お願いします」


 宮村さんは私に挨拶をすると目を逸らした。

 そわそわして落ち着きがない様子だ。


「宮村さんは人見知りするタイプで、初めて会った菜乃花ちゃんに緊張しているみたいだ」

「く、黒井さん……」

「いずれバレるでしょ。だったら、早めに白状した方が楽よ」

「うぅ……」


 メイドの宮村さんが恥ずかしそうに顔を赤らめて、涙を浮かべる。

 可愛くてグッとくるものがあった。


「宮村さん」

「は、はいっ……」

「私もあまり人とは話してなくて……」


 だって、無職歴三年だし。


「上手く話せないと思いますけど、頑張りっ……! ががが、頑張りますのでっ……! よろしくお願いします」


 頑張るという言葉が嫌すぎて、血反吐を吐きそうだ。

 人類はなぜ頑張らないと行けないのか……! 頑張らなくてもいいじゃないか……!


「ひっ……」


 必死な表情で言ってしまったから、宮村さんが私の顔を見てびっくりしていた。


「早速仲良くなれてみたいで、よかったわ」


 叔母さん。仲良くというか、距離が開いた感じがする。


「宮村さん、明日から菜乃花ちゃんもここで働いてもらうから、仕事教えてあげてね」

「……は、はい……」

「宮村さん……明日からよろしくお願いします」

「……よ、よよよ……よろしく」


 うん、完全に不審者だと思われてる。

 誤解はこれから解消していけばいい。

 それから、叔母さんに図書館を案内される。

 図書館は二階建てで、一階には受付と事務所とトイレや読書室や書庫などがあった。

 二階のほとんどは読書室で、倉庫や書庫がある。大きな窓と小さなバルコニー。バルコニーには椅子が三脚設置されていて、天気がいい日には外で読むことができる。


「あまり、人いませんね」

「まあ、私の趣味でやってることだから。本のジャンル自体も私の好みだから、偏りがあるわ」

「なるほど」


***


 図書館の次にやって来たのは私が一人暮らしをするアパートだ。

 黒と白でモダンな雰囲気の小さめなアパートだ。


「ここが今日から菜乃花ちゃんの家だ」


 案内されたのは一階の部屋だった。叔母さんが鍵を開けて、一緒に中に入る。

 洗濯機や食器などの家具は一通り揃っており、冷蔵庫を開けると肉や野菜、戸棚などにはカップ麺やインスタントラーメンが置いてあった。

 お湯さえ沸かせればどうにかなりそう。


「菜乃花ちゃんの荷物は居間に置いてあるわ」

「あ、ありがとうございます」


 ダンボールにはゲーム機やラノベといった宝物が入っていた。

 ちなみに、ダンボールなどの荷物は叔母さんが引っ越し業者を手配してくれた。


「後、家の鍵ね」

「あ、はい」


 叔母さんから家の鍵を受け取る。


「もし、何かあったら連絡してね。すぐに来るから」

「わ、わかりました」

「じゃあ、今日は帰るわ。菜乃花ちゃんもゆっくり休んでね」

「はい」


 叔母さんは部屋から出て行った。


「ふぅ……」


 私はベッドにダイブした。

 今日は叔母さんとずっと一緒で緊張していた。外に出るのも、誰かとあんなに話したのも久しぶりだ。


「疲れた……」


 身体を伸ばした後、部屋の中を見回す。

 初めての一人暮らし。

 ゴロゴロしながらゲームやアニメ三昧の自堕落ライフと行きたいけど、明日から仕事だから無理だろう。


「まさか、私が働くなんて……」


 現実感がわかない。

 私の世界は自室のみだった。

 最初の狙い通り、無能認定からのクビのプランで行くぞ。

 あくびを噛み殺しながら、スマホを確認する。

 時間は午後三時。

 いつもなら、ゲームに疲れて軽くお昼寝タイムの時間だ。


「ちょっと寝よう……」


 目を瞑るとあっという間に眠気がやってきた。

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