11話 もっとキスしていい?
「……で、でも……キスは好きな人とじゃないと……」
「私はひまりちゃんのこと、好きだよ……ひまりちゃんは?」
自然とそんなセリフが口から出てきた。
「……私も……な、菜乃花が好きっ……!」
「じゃあ、キスしていいよね」
「……うん」
ひまりちゃんが頷く。
ゆっくり顔を近づけると、ひまりちゃんがギュッと目を瞑った。あんなにキスしたがっていたのに、緊張している。
私はひまりちゃんの頬を撫で唇に触れる。
小さくて、柔らかい唇。誰かの唇に触れたのは初めてだけど最高の質感だ。
私も目を閉じて、唇と唇が触れる。
「ん」
「っ……」
柔らかさと熱が伝わってくる。
これ、癖になるかも。
「……は……うぅ……」
ひまりちゃんは頭から湯気が出てきそうなほど顔を真っ赤にさせ、目をグルグルさせていた。
「ひまりちゃん……」
「っ……」
手を伸ばすと、ひまりちゃんはダッシュで逃げ出した。
「えーと……」
未成年の女の子にキスをして、逃げられた。
うん、普通に手錠ものだ。さらば、私の人生。
「はぁ……」
そもそも、なんでキスをしたんだ……?
抱きしめていたひまりちゃんが愛おしくて、色々と溢れてしまった。
「もう……」
自分の軽率な行動が嫌いになる。
「ひまりちゃんに嫌われたら、どうしよう……」
一番嫌なのが、ひまりちゃんに嫌われる事であった。
***
翌日、館内を巡回していると、いつものソファーにひまりちゃんがいた。
「……」
ここは話しかけない方がいいか……?
悩んでいると、ひまりちゃんに気づかれてしまった。
「っ……」
ひまりちゃんの顔が真っ赤になり、本で顔を隠す。
あまりの可愛らしい反応に、こっちまで恥ずかしくなってきた。
私は一歩一歩ひまりちゃんに近づいていく。
「ひまりちゃん……」
「菜乃花……」
「昨日はキスして、ごめん」
私は頭を下げた。
ひまりちゃんを傷つけたのは事実だ。だから、まずは謝ろう。
「本当は嫌だったんだろ? だから、逃げて……」
「……嫌、じゃない」
「え?」
「嫌じゃないもんっ……!」
「ひまりちゃん……」
ひまりちゃんは目に涙を浮かべながらも、真っ直ぐに私の目を見つめた。
「……びっくりして……それで、それで……ん」
上手く言葉が纏まらないのか、ひまりちゃんは口を固く閉じてしまった。
そっか、嫌じゃないのか。
「良かった……」
ため息を吐きながら、その場に座り込む。
「菜乃花?」
「ひまりちゃんに嫌われたと思って、ずっと悩んでた」
「菜乃花のこと、嫌いじゃないよ……」
「うん、うん。嫌いじゃないよね……」
その言葉だけで背負っていた重荷が軽くなった。
だからといって、未成年相手にキスをしていいってことじゃないけど。
「ねえ、菜乃花」
「うん?」
「これからも……恋人ごっこしてくれる?」
「……もちろん、私で良かったら」
「菜乃花じゃなきゃ、嫌……」
「……」
そんなドキドキさせるセリフどこで覚えたのか。また、自然と出てくるなら、天才のたらしの才能だ。
「キス、したい……」
「……」
「ダメ?」
「ダメ……じゃない」
未成年にはキスしちゃダメなのに。
そんな法律やら常識やらは、ひまりちゃんの誘惑の前では無力だった。
蝶が花に引き寄せられるかのように、私はひまりちゃんの唇へと吸い寄せられる。
「……胸がポカポカする……」
「そっか……」
「もう一回……」
「うん」
それから、何度もキスを重ねる。
この感覚、癖になりそう……! もう、ひまりちゃん無しでは生きていけないかも。
満足したのか、ひまりちゃんが私から離れた。
自分の唇を指で触れ、頬は赤く染まっていた。瞳はどこか遠くを見ていた。
「ひまりちゃん、満足した?」
「……うん」
ひまりちゃんが目を逸らしながら、そう答えた。
私も大満足だ……なんてことはなく、欲求不満である。
大人がキスだけで満足するのは少女漫画の中だけであって、キスした後に身体を貪るのが大人の一般常識なのだ。
「……」
まあ、でもひまりちゃんにそれを求めるのは無理な話だ。
今夜は一人でお楽しみとしよう。
「菜乃花……」
「うん?」
「その……」
ひまりちゃんは指をもじもじさせた後、口を開いた。
「……エッチ、もしたい……」
「……」
喜んでと答えたいとこだけど、私の理性がストップをかける。
流石にエッチは不味い。キスで黒寄りのグレーゾーンだ。
「ひまりちゃん……エッチはもう少ししたらね」
「もう少し……?」
「うん、具体的にはひまりちゃんが成人したら」
「む……まだ先」
頬を膨らませるひまりちゃん。ひまりちゃんの頭を撫でながら、私は口を開いた。
「そうだね、でもひまりちゃんとエッチしたら、私逮捕されるから」
「逮捕……それは、嫌」
「じゃあ、我慢しようね」
「我慢する……」
ひまりちゃんは納得してくれたようだ。
「菜乃花、もっとキスしていい?」
「……」
ひまりちゃんを説得しておきながら、自分から手を出すかも。
そんな未来を想像しながら、私はひまりちゃんとキスをするのであった。




