表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

1話 無職からの旅立ち

 私、星川菜乃花はやる気がとことんない人間だ。

 高校は勉強しなくても入れるとこに入り、部活とか遊びとかもせずに、家に帰ってベッドでゴロゴロする毎日。

 高校卒業したら、しばらくは働かずにのんびりするつもりだったのに、母親に「大学くらい出なさい」と説教され、書類だけ出せば合格する大学に。

 そんな私が真面目に就活なんてするわけもなく、周りが面接の対策や企業研究をしているなか、いつも夢の世界にいた。

 そして、大学卒業後、私は無職になった。


「一年間だけ、自分を見つめ直したい」


 そんな建前を立て、気がつけば三年が経っていた。


「ふぅ……」


 今日も今日とて昼過ぎに起きる。

 平日の月曜日。世間なら愛しの土日が終わり、ゾンビのように会社に行くのだろう。そんな周りが働いているなか、昼過ぎに起きるのは最高だ。


「さてと……新着アニメでも観るか」


 ベッドでうつ伏せになり、目の前にはスマホを置く。

 さあ、今日も楽しい一日が始まるぞ。

 と、思っていたらいきなりお母さんから呼び出しをくらった。

 めんどくさがりながらも居間に行くと、真剣な表情を浮かべていた。

 また、働けと言われるな……。

 絶対に乗り切ってやる。

 就活をのらりくらりとかわしてきた無職歴3年。

 無職の意地を見せてやる……!


「お母さん、なに?」

「菜乃花、大事な話があるの」


 さあ、なんて切り出してくる……!

 返答は何パターンも用意している。

 資格勉強してて、企業に求人を出しているか問い合わせ中で。


「菜乃花、あなたには家を出て行ってもらいます」

「……」


 出て行けか。

 よし、ここは同情を買うからの、仕事探す流れに持っていこう。


「お母さん……私、お金もないし仕事もないよ。出て行ったらホームレスになっちゃう。お父さんとお母さんには迷惑かけてるけど……娘がホームレスになっていいの?」


 瞳をうるうると輝かせて、言ってみた。

 効果抜群だろう。

 自分の演技力に納得していると、


「大丈夫よ。菜乃花の仕事も住む家も用意してるから」

「っ……」


 どうやら、今回のお母さんは本気のようだ。

 返答の仕方を間違えれば、社会の荒波へと飛び込むことになる。


「それって、会社が用意してくれる寮てこと?」

「……まあ、それに近いわね」

「だったら、怪しいよ。そもそも、働く本人じゃなくて、お母さんが応募して採用されてる時点で可笑しいし、私が面接官なら、その場で断ってるよ。きっと、人手不足が深刻で、労働環境が劣悪なとこだよ。ねえ、お母さん、考え直して。娘をブラック企業で働かせたいの?」


 お母さんの手を握り、そう訴える。


「ブラック企業じゃないわ。私のお姉さんが経営している私立図書館なの。アルバイトだけど仕事自体は忙しくないみたいだから、初めての仕事にはぴったりだと思うわ」

「叔母さんの……?」

「そうよ。住むところも、お姉さんが持っているアパートの一室を無料で貸してくれるみたいで」

「で、でも……叔母さんに迷惑が掛かるんじゃ……」


 やばい……!

 無職歴三年の本能が警報を鳴らす。

 額に一筋の汗が垂れた。


「大丈夫。可愛い姪っ子のためなら、一肌脱いでくれたわ。流石、私のお姉さん」

「……」


 ど、どうする……! 打開案が思いつかない……!

 このままじゃあ、私の無職ライフが……!

 ガラガラと音を立てて崩れ落ちる幻聴が聞こえてきた。


「菜乃花、お母さん心配なの。ずっと無職のままでいたら、お母さんとお父さんが亡くなったら、生活できないと思って……だから、本当は寂しいけど、お母さんは心を鬼にして、決めたの。菜乃花には出て行ってもらうって」

「お母さん」

「それに孫の顔も見たいから。早くいい人捕まえて頂戴」

「……」


 これは詰みだね。


「わかった」


 なら、ここは負けを認めよう。

 しかし、私は戻って来て見せる……!


「……で、いつから?」

「明日からよ」

「え? 明日……?」

「ええ、お姉さんが車で迎えに来てくれるから、荷物をまとめなさい。家具とかはお姉さんの方で用意してくれるみたいだから」

「……わかった」


 私はとぼとぼと廊下を歩き、自室に戻る。

 壁にはアニメのポスター。床には積み重なった漫画やライトノベル。

 隅の方には小さな冷蔵庫があり、コーラーが大量に入っている。その横には、お菓子ボックスがある。


「さらば、楽園」


 私はベッドにダイブして目を閉じる。

 ここでの優雅な日々を思い出す。

 いつか、戻って来て見せる……!


「よし……」


 決意を固めて、起き上がると、私は身支度を始めた。

 お母さんと叔母さんには悪いけど、私は仕事ができないふりをすることにした。そうすれば、すぐに首になり、戻ってくることができる。

 まあ、私自身が仕事できるかは不明だけど。だって働いたことないし。


「うーん、どれにするか……」


 着替えや日用品はこだわりが無いのですぐに準備ができた。

 問題は漫画やラノベ、ゲームなどだ。

 正直、全部を持っていきたい。けど、流石に無理だろう。


「……」


 その夜、私は遅くまで悩むのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ