アンナの幸せ
アンナは、最近浮かれていた。4か月前から、足の悪いお爺さんの世話をする臨時雇用の仕事を始めたのだ。仕事内容は、料理、掃除、片づけ、そして話し相手を兼ねるメイド業だ。
「いやあ、よく仕事ができる娘でよかったよ。ぺっぴんさんだし、料理も美味しいし、アンナ…名前は長くて舌を噛みそうだから、略してもいいかね?」
らるという初老の老人は、何かというとお礼やおべっかが上手で、たまにありがちな「ロボットだから何でもできて当たり前だ」という態度を微塵にも見せなかった。
「らるさんが、とても褒めてくれるので嬉しいんです。私なんてこんなボロだけど、誰かのお役に立つことができて本当に感謝しています」
そんな調子で気に入られたのか、最初は1週間に1度のシフトだったのが、徐々に増えていった。らるの家は、ポッカリ空中に浮かんだドーム型の中級エリアの近くの下の方にある。それでも下級エリアであるにもかかわらず、一人暮らしの老人にしてはとても立派な家に住んでいた。家の中の調度品なども、かなり高価なものが多かった。
ある日気になって、らるに聞いてみたことがある。
「どうして、こんなに立派な家に住んでいるの?」
「私には得意分野があってな。そのツテもあって仕事に役立っているのさ」
奥歯にものが挟まったような返事が返ってきた。その得意分野のことはそのうちに教えるさ。そう言いながらも具体的なことは何も聞けなかった。
ある日中流エリア民の友人が数人遊びに来るので、接待をしてほしいとのこと。さすがに有能なアンナとはいえ1体では無理なので、派遣先から2体のロボットが助っ人に入った。
他の2体はいずれも足が切断されていて足がなかったり、片腕と片足がなかったりと、障害ロボットばかりだったのだ。(どうして?)とわずかな疑問がわいたが、特に皆は気にしていない。こんな高収入がもらえる仕事だ。些細なことは気にしないことにした。
その時に来たお客は、老若男女交えての10人。皆陽気で、お酒を飲んだり歌を歌ったりダンスをしたりと、アンナはときおり昔のご主人様との暮らしを思い出していた。もしかしたら泊まりになるかもと前もって聞いていたので、初日は不安だったがいつもの調子で乗り切れた。
ゲストの皆が寝ている間に、ロボット達は羽目を外したお客のゲロだとか室内清掃や洗濯、備品の補充そして朝食の支度など大忙しで仕事が一段落ついたのは明け方の5時頃だった。そして電源をスリープモードにして、らるが用意してくれた簡易ベッドに各々横になった。
その時を機に2週間に1度は、らるの家で中級エリア民達は集まるようになっていた。いや私が知らないだけで、私が来る前からたびたび集まっていたのだろう。皆すごくリラックスしているからだ。