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ロボット  作者: いづる
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第 32話 カナン宅

「ただいまー。アマン今日、新しい先生が来たのよ。それがねぇ‥」

 娘が学校から帰ってきた。


「おかえりーカナン、まずカバンの片づけや、手洗いにうがいをしなさい」誰に似たのか、娘は学校から帰るといつも不満を口にする。


「はーい」アマンったらこんな下級エリアでは、手洗いやうがいなんて誰もしないのに‥


「なんだあ。またベッツかあ」テーブルの上にはいつものように、野菜で作られたおやつがお皿に置かれている。


「そんな言い方はしないの。食べられるだけ有難いのよ」


「はい、はい、そんなことより、新しい先生が来たのよ。アンナっていう」


「返事は1回ね。アンナじゃなくて、アンナ先生でしょ」

 まったく、どうしてこの娘は毎日口をすっぱくして言っているのに治らないのだろう。ア‥アンナ?なんだか、懐かしい響きがするわ。


「その先生の名前は、もっと長くなかった?」


「ううん、ただのアンナよ。その先生ね。すごくオンボロのロボットなのよ。腕は捥げているし、目も壊れているから気味がわるいの。それでね。そのことを正直に言ったら、他の子からいろいろと言われて嫌な思いをしたわ。サイリ先生まで、みんなの味方をして最悪よ!」


「ふぅー。あなたは自分のことばかり考えないで、人の気持ちも考えないとね。きっとその外見で、一番くやしい思いをしてきたのはアンナ先生だと思うわ。それに、先生として相応しいからこそ赴任してきたのよ」

 どうやら、アンナ違いだったみたいね。写真立てに飾られた、昔の写真にチラッと視線を移しすぐにもどした。


「ただいまー。おや、私の可愛いお姫ちゃんは帰って来ていたのか。また、アマンに怒られていたな?」ドウジャ(お父さん)は、上機嫌で帰ってきた。


「おかえりなさい。ルウジャン(おじいちゃん)ねえ、聞いて聞いて」


「おかえり、ドウジャ(お父さん)ったらまたナタクたちの所ね」

(まったく、父は変わってしまったわ。無理もないとは思うけど‥)


「私にも説教かい。いつまでも愛らしいキッタ。今日はね、すごくついていたんだよ。ほら、といつものボロボロになったカバンの中から数枚のお札を取り出す」


「助かるわ。でもこんな賭け事は止めて、ちゃんと働いてほしいのよ。賃金は確かに安いと思うけど生活が安定するもの」


「私にこの下級エリアで、働けというのかい」


「そうよ。いつまでも上級エリアにいた時のプライドだけを持っていても、仕方がないじゃない。いい加減に現実を見なきゃ」


「‥‥ちょっと疲れたから、今日は夕食まで軽く寝るよ。時間になったら声を掛けておくれ。カナン、後から話を聞かせておくれ」カナンの頭をなでながら、私とは顔を合わさず奥の部屋へと入っていった。


 仕事の話になると、いつもそそくさと逃げ出すのね。上級エリアにいたからって何の得にもならない。

 会社が倒産して、すべてのものを失った過去なんて‥‥。


 その時を境にして、上流エリアでの友人たちもみんな離れて行った。その頃に夫も蒸発していた。

(あの贅沢な日々が当たり前のような生活は今はない。だけど私にはいい経験になったと思う。ドウジャやカナンとこうしてなんとか暮らしていけてるんだし。ほんの小さなできごとでも、喜びが生まれる日々を神様に感謝しているのよ)


 でも、上級エリアでのプライドをいつまでたっても捨てきれないドウジャと、ドウジャの影響を過剰に受けたカナン。二人との生活は頭が痛い。


 それでも、国の政策のおかげでこの平屋に低賃金で住めて畑も借りられる。それは、とても助かっている。

 最初の頃は慣れない畑仕事やご近所付き合いは大変だった。それでも皆の助けを借りて、最近ではなんとか生活ができるようになった。余った野菜等は違う野菜を育てているご近所さんと交換したりして食卓のおかずも増えていったし、お抱えメイドロボットがいた頃の生活は、お湯を沸かすことさえしたことがなかったのに。

 それを見様見真似だったり、ご近所に教えてもらったりしてなんとか料理も出来るようになっていった。本当に有難いことである。


 ドウジャは下級エリア民と今だに小ばかにして、落ちぶれた上級エリア民としか付き合わない。彼らは見栄と昔話ばかりで、一向に前を向こうとしない人達‥。

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